第18話~その名は『サンパリーツ』~
セレジアが『デン』に会いに行く頃、エイムスとサイジはある場所へ来ていた。
「ここはどこですか?」
「ここは何処にも属さない空間。時間も過ぎない世界」
エイムスの手引きで、虹色に光り、真っ平らな地しか存在しない世界へと引き込まれた。
「貴様には『主人公』の可能性がある。これから『主人公』を貴様から引き出す術をかける」
「術?」
「そうだ。己を解放し、外部への扉を開ける、その類いの術だ」
そう言いながら、エイムスは目を瞑り、サイジの胸に手をかざし、訳の分からぬ言語を呟き始めた。
「何ですか?魔法ですか?」
サイジの問いかけに、エイムスは反応せず、只ひたすらに呪文を唱える。しばらくすると、エイムスのかざしている手の周辺が青白く光り、魔方陣の文様が浮かんできた。
何かを感じ取ったのか、エイムスはパッと目を見開き、更に力を込め始めた。
「うっ・・・・・・」
それと同時に、サイジの体に異変が起こる。丁度エイムスが手かざしをしている場所から激痛が走る様になった。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
痛みは更に増し、遂には立っていられない程までになった。
「・・・・・・来たれ、『サンパリーツ』!!!!」
そうエイムスが叫ぶと、サイジの胸から、黒く淀んだ大剣が徐々に姿を現し始めた。現出し始めた大剣を、エイムスは勢い良く引っこ抜く。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
引き抜かれた後は、あまりの痛さに悶絶し、地に転げ回った。
「これが貴様自身の剣だ。今は濁りで暗黒に満ちているが」
エイムスはサイジにその剣を引き渡す。剣からは、黒い霧が立ち込めており、刃の光も濁っている。
「それを今から実戦で使えるように、我が輩を使って覚醒させる」
「どういうことですか?」
「我が輩を殺せ、ということだ」
素っ頓狂な話にサイジは目を丸くした。
「いや、いきなり人を殺せと言われても、無理ですよ」
「なら、貴様はここで一生過ごすか?」
「・・・・・・外は嫌です。辛いことしか無いですからね。貴方を倒して外の世界に出ても、良いことなんてないですよ」
「今まで行動を共にしてきた仲間はどうでも良いのか?」
「別に好きで一緒になった訳じゃないですから」
「魔王を倒さなければ、一生元の世界に戻れないぞ。魔王を倒すにも独りでは絶対に倒せない。どんな強い力を持っていてもな」
「何でそんなことを知っているんですか?実際に魔王を倒したことがあるみたいに言いますけど」
「ああ、かつて倒そうとしたことがある。独りで、戦った」
エイムスは、過去に現在の魔王を倒しにいったという。エイムスはサイジと同様引きこもりで、孤独でいることが普通であった。独りで旅をし、各地の魔王の手下を倒し、魔王の元に辿りついた。各地で手に入る情報や技術を集め、ひたすら己を磨いた。その結果、パーティで襲いかかって来られても、赤子の手を捻るように倒せるまでになった。
これなら独りで魔王を倒せる。そう確信していた。
しかし、そんな考えは魔王の前に立ったときに全て消え去った。圧倒的な力、そしていつ死ぬか分からないプレッシャーに、独りでは耐えきれなかった。
結果的に命を魔王に拾われ、今の地位にいるという。
「いくら強くたって、いくらすばしっこくたって、いくら賢くたって、独りでは結局何も成し遂げられない。誰かがいるから成し遂げられる。誰かの力に、見えなくとも支えられているんだ。それを忘れてはならない。我が輩はそれを忘れていたが故に負けたんだ」
サイジは再考する。
今までここまで旅を続けられたのも、仲間の御陰ではないのか?それだけで無く、旅の途中に出逢った人々にも支えられていたのではないか?宿に困らなかったのも、敵が来てそれを撃退できたのも。
私は独りで戦っていると勘違いしていた。私の窮地を救ってくれたのは、いつもセレジアとかじゃないか。こんなところで油を売っていてどうする?仲間が命をかけて戦っているんだ。それを助けるのが仲間じゃないのか?
そう心の中で思っていると、みるみるうちに剣の黒い霧が晴れ、青白く眩しいまでに光り出した。
「もう迷いは無さそうだな。さあその主人公だけが使える聖剣『サンパリーツ』を我が輩に振りかざすのだ。いずれにせよ我が輩を倒さなければ外に行く手立ては無い。我が輩を早く楽にさせてくれ。もう疲れたのだ・・・・・・」
常に孤独と戦ってきたのだ。無理もない。
「分かりました。・・・・・・ありがとうございます」
サイジは『サンパリーツ』を天高く振りかざし、エイムスに振り下ろした。
エイムスは幸せそうな笑みを浮かべ消滅した。
すると、七色の空が割れ、目の前に噂のドラゴンが。
「待ってろセレジア、『デン』、他一名!!!!」
サイジは光となって走り出す。
希望をもたらすその『光』は見事、人を貶める怪物を僅か一振りで焼き払ったのであった。




