第17話~タダ戦ウシカナイ~
目の前には、そびえたつドラゴン。鼓膜の感度を鈍らせる程の雄叫びを上げている。
セレジアとミツキは、無事『デン』の一味と合流することが出来、ようやく逃げる人波を掻き分け、ドラゴンの元に辿り着いた。
「こいつが、ドラゴンか」
いわゆる『物語』に出てくるような典型的ドラゴン。緑色の皮膚。鋭い爪。地をえぐる四本足。空に伸びる両翼。四方八方に火を振りまく。
「おい・・・・・・ホントに勝てるのか?これ」
『デン』の団長が早くも怖じ気ついている。
「大丈夫よ。実力が無くても、知恵で勝てる・・・・・・はず」
「はずって、ちょっと、死にに来たんじゃないんだから俺らは!」
団長が可愛く地団駄を踏む。
「だ、大丈夫です!ちゃんと考えてますから」
セレジアは到底実力のみで勝てる相手ではないことは、もちろん分かっていた。あの巨体をどう仕留めるか。王道のやり方としては、まず目的物を足止めし、動きが鈍った隙に攻撃を加えるというものである。
今回はドラコンだ。足を止めても飛翔する可能性もある。それで山に還ってもらうのも一つの手だが、いずれ街に戻ってくる懸念がある。なのでまずは、羽と足の動きを止めることに専念する。
足の関節を狙い、矢を放ち、動きを止める方法も思いついたが、皮膚が予想以上に硬いと全く効かなくなるので、図太い鉄の鎖を何本も使い、魔法も駆使しながら、ドラゴンを四方八方から縛り上げるという方法を使うことにした。
鎖は『デン』が盗み目的で使うため大量保有していたので、それをそのまま使うこととした。
魔法が使えるのが、ミツキと、『デン』の団員に七名いたので、それぞれの方角の八方向に一人ずつ配置した。
鎖は魔法で持ち上げ、道路の予め決めたポイントの真下に入ったと同時にドラゴンの体に絡ます。残念ながら鎖はドラゴンの全ての体を縛り上げる程の長さは無かったので、足4箇所、羽2箇所、胴2箇所を縛り、縛り終えたら何十もの杭で固定することとした。
このようなワナを張り、最終的にそれを成功させる上で一番重要と言って良いのが、囮である。
目標物を決まった場所まで誘導するという大役は、やはり大一番の度胸はあると思われる団長に一任されることとなった。
「任せろ!やられるのと挑発するのは得意だぜ」
自信満々に、その一番死ぬ確率の高い役を団長は快諾した。本当にこの役の意味を分かっているのか怪しいところだが。
タイミングなどの指揮はセレジアが執ることとなった。本当はこのポジションは団長のはずなんだが。
かくして、計画の全容を全員に通達し、人も物も揃った。
あとはドラゴンが来るだけ。
「大丈夫かな、団長」
団長がきちんとドラゴンの進路誘導が出来れば、大方この作戦の成功が決まる。
噂の団長と言えば、ドラゴンに『ふしぎなおどり』を見せ、順調にポイントへと近づかせている。
ドラゴンはああいう踊りが好きなのか?と首を傾げたくなるが、今のところ成功しているようだ。
ポイントを俯瞰できる近くの建物の屋上に居るセレジアは、少し安堵し、地べたに腰を落とした。
「まあ、これなら上手く行きそうね」
団長の頑張りの御陰で遂にポイントまであと300メートル程となった。セレジアはその様子を元に『用意』の合図を狼煙で送った。
しかし、皮肉にもそれが裏目に出ることとなった。
「やべえ、ドラゴンが飛翔体制に入ったぞ!!!!」
ドラゴンの姿勢が低くなり身構える様子を見落とさなかった団長は、ありったけの声を張り上げ、セレジア達に伝えた。
「マズイ、予定より位置が大分ずれてる。けれど、ここで足止めしなくちゃ・・・・・・」
このタイミングで鎖を放てば、羽と前足が精々だろう。だが、ここで飛ばれて、更に街を暴れ回られることだけは避けたい。
「よし、放て!!!!」
セレジアの喚声と共に、各点から鎖が放たれた。しかし、鎖で捉えられたのは左翼と右前足だけであった。
「だめか・・・・・・」
もう既にドラゴンは鎖を力ずくで外しに掛かっている。せいぜいもって1分のところだろう。
セレジアは、絡ませられなかった鎖の人々を移動させ、第二撃に入る。
ところが、そのころには左翼の鎖は外れ、右前足の鎖は綻んでいた。
「遅かったか」
セレジアが諦めの混じった号令を掛けようとした、その時。
黄色い閃光が目の前を走り、その光が収まった頃には、ドラゴンは木っ端微塵になっていた。