第15話~勝てる気がしない~
不気味なマギルカの食べ物も食べ終わり、部屋で休息を取っていた。結局ミツキに鍋をお見舞いされ、しばらく気を失ったのは内緒である。
気を失っている間に、部屋に連れ込まれ、ベットの上で横になっている。
「あ、起きた?」
セレジアが私が目を覚ましたことに気づいたようで、近づいて枕元に腰掛ける。
「なんか、悪い夢でも見たような気がする」
「ああ、アンタ、あの鍋食べた瞬間に白目剥いて倒れたんだよ」
「そういえば、何か不気味な物を食べたような・・・・・・ウッ」
突如としてあの鮮烈な鍋の味がフラッシュバックし、気分が悪くなった。
「大丈夫?水、あるから」
セレジアから水の入ったグラスを渡され、堪らずそれを飲み干した。
「ありがとう。助かったよ」
その言葉に安心したのか、セレジアは安堵の息を漏らす。
「あ~やっぱ風呂はきもちいいわ~」
そんなことはイザ知らず、ミツキはお風呂を満喫し、バスローブ姿で私の眼前に現れた。
「おいお前、よくもあんなヒドイ食い物を・・・・・・」
「何言ってるの?めっちゃオイシイじゃん!アンタらの味覚の方がどうかしてる!」
ミツキが目の前に迫って来る。驚愕の希少ステータスの胸が見えそうで見えない。
「アンタ、人ひとり気絶させて、よくそんな口利けるわね」
ミツキを私から離し、セレジアは説教を始める。
「こいつが勝手に気絶するのがワルいんでしょ~!」
「アンタのバカ舌のせいでサイジが死にかけたんでしょ?!」
セレジアが遂にムチを取り出し始めた。さすがにこれはマズイと思い、私が静止に入る。
「二人とも落ち着け!」
その言葉で我に返り、ようやく落ち着きを取り戻した。
「とりあえず、迷惑掛けてすまなかった」
私によって引き起こされた争いだ。私の責任ということで手打ちにしよう。
「ホントよ、一時はどうなるかと思ったわ」
先程まで私に労りの言葉を掛けてくれていたセレジアは、一転して叱責を始めた。
「ここまで持ってくるのにどれだけ苦労したと思ってんのよ、アンタ!」
私の首にセレジアがチョークスリーパーを決めてくる。後頭部にふくよかなものが当たっているのを至福に感じながら、再び意識を失うこととなった。
そして夜も深くなった頃。突如として街に轟音が鳴り響いた。音だけでなく、地面も合わせて揺れている。しかも周期的に。
窓を揺らす程の重低音に私も流石に目を覚まし、窓を開ける。
泊まっていた部屋が二階ということで、近距離の様子しか確認することが出来ないが、街の人の叫び声から『ドラゴン』『侵入』という単語を聞き取ることが出来た。
恐らく、この音や揺れ、街の声から察するに、何らかの理由で、退治するはずであったドラゴンが、マギルカに侵入して来てしまったと推測した。
音が段々近づいているのが感覚で把握出来る。明らかに体の振幅が激しくなっている。それに呼応するかのように、私の脈もみるみるうちに加速する。
こんな状況であるのに、二人はまだ夢の中だ。
「おい、起きろ!ドラゴンだ!ドラゴンが街に来てるみたいだぞ!」
まずはいざという時に頼りになるセレジアを叩き起こす。
「だめだよぉサイジ・・・・・・こんなのだめだってぇ・・・・・・」
「何寝ぼけてんだ!ほら、このままじゃパーティ全滅でゲームオーバーだ!」
私はなかなか起きようとしないセレジアの布団をひっぺかした。なんということでしょう。セレジアのパジャマは可愛い白ウサギの着ぐるみではありませんか。まさかこんな一面があったなんて。
「見たな?」
「はい」
「殺す」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
寝起き早々にセレジアからムチのご褒美を頂くことが出来た。
「何?ドラゴンがマギルカに入って来た?」
正気に戻ったセレジアは、持ち歩いているトランクからいつもの戦闘服を取り出しながら問いかける。
「そう。さっきから地響きが凄いでしょ」
セレジアはウサギパジャマをおもむろに脱ぎ始める。これはいかん。けしからん。まるで因幡の白ウサギ・・・・・・
「見るなよ」
「はい」
即座に反対方向に体を向ける。
「多分、もう街の壁を破壊して入って来てるかもしれない」
「そんな、マギルカの防衛システムは鉄壁のはずよ」
マギルカは城壁に加え、城壁の上に監視塔を設け、24時間体制で街の防衛に努めているという。しかもその防衛に当たっている『マギルカ守護隊』も、ドラゴンなどの滅多に現れたくなった魔物にも対応出来るように魔法演習等を定期的にやっているという。
「まあ、演習と実践は違うからね。どうなるか実際に起きてみなきゃ分からないし」
「それは、そうだけど」
もう良いわよ、とセレジアに言われ、そちらを向く。ほんの少しの間に着替えを済ませ、ボサボサロングの髪が綺麗にまとまっている。
「とにかく、様子を確認しに行きましょう。出来れば『デン』と合流したいけど・・・・・・」
セレジアはいつもの戦闘服に甲冑を着け始めている。
「そんなものも持ってたの?」
「当たり前じゃない、モンスター狩りなんだから」
「皮の盾しかないから心もとないな」
「大丈夫。アンタには天性の回避能力がある。それに・・・・・・」
甲冑を着け終えたセレジアは髪をかき上げ、言い放つ。
「イザとなればアタシが守るから。安心しなさい」
私の胸に拳を突き立てて来た。なんて頼もしい言葉だろう。動揺していた心が嘘のように落ち着いた。
「ありがとう、セレジア。頼りにしてる」
私もセレジアの甲冑に拳を突き立てる。お互いが笑顔に包まれた。
「ところでさ」
セレジアがある場所に目線を移していた。
「「いつまで寝てるんだ、ミツキ!!!」」
このあとミツキが今の状況を把握するのに、とても時間を要することとなった。