第14話~一狩りいこうぜ!~
「・・・・・・なんか、すまねぇことしちまったみてぇだな」
団員の一人が口を割る。
「いえ、攫ったことには憤ってますけど、もうこうして逢えましたから、良いんです」
「ハハ、そうか」
セレジアを攫った強盗集団『デン』は、このマギルカを根城とし、金持ちから金品を盗み取り、貧しい人に分け与える義賊であるという。セレジアを攫ったのは、どうやら、見立ての良い服を着ていたので、きっと金持ちの所の娘に違いないと踏み、大通りをフラフラしていたところを攫ったという。
「なんで、悪気は無いんです。許してくだせぇ」
「ほう」
セレジアは、団員をジトッとした目で見下す。
「ごごご、ごめんなさい・・・・・・」
「それが被害者に対する態度?」
思いっ切り、団員の頭をセレジアはブーツで踏みつける。
「はうっ、たまらん・・・・・・」
団員は天にも昇るかのような表情を浮かべる。
「踏まれて喜んでるんじゃないよ!」
セレジアの蹴りが更に強くなる。
「もういい加減止めたらどうです?喜んでるだけですよ」
私がこの光景に既視感を覚え、制止に入った。
「ドラゴン退治ぃ?」
しばらく動乱から時間が経ち、団長の疼痛も収まり、私達の事情も話した。
「そうなんです。ですが、パーティが3人では人数も足りませんし、実力もあまりないですし、ただドラゴンに殺されるだけなんですよ」
「ううむ・・・・・・」
団長が唸り、話あぐねている。
「なので、私達と一時的にギルドを組んで、ドラゴン退治をするのはどうでしょう?報奨金も出るそうですが、人数比で折半というのはどうでしょう?」
私はいわゆる怪しいセールスマンの含み笑いを浮かべてみせた。セレジアは私の発言に驚きを隠せず、口を手で塞いでいる。
「そうか、なるほど。我々はお前達とギルドを組むことでクエストにつける。そしてお前達はその報酬も得られるのか」
団長によると、『デン』は義賊とはいえ犯罪組織であることが既にバレている為、パーティとしては正式に登録が出来ないという。まあ、当たり前っていえば当たり前だが。
「あなた方にとっては悪い話ではないかと思いますが」
団長は少し考えさせてくれと言い残し、団員達と共に奥の部屋へ引っ込んでしまった。
「本当にあいつらとギルド組んで大丈夫なの?またいつ襲ってくるか分からないのよ?!」
部屋へ入るのを見計らったと同時に、セレジアが蒼白の表情を浮かべ駆け寄ってきた。
「そうですよぉ~。あいつらなんか信用出来ませんよ!ケダモノですよ!」
ミツキも胸を寄せて、いわゆる両腕をくっつけて脇を締めるブリッ子ポーズを決めながら宣う。
「まあまあまあ、二人とも落ち着いて。正直これだけの規模のパーティはなかなか無いと思うし、第一、アイツらは義賊だ。金の無い奴には手を出さないよ」
私は二人の肩に手を置き、なだめさせる。
「でも、パーティなら他にもたくさんあるでしょ?奴らも義賊とか言ってるけど、それも嘘かもしれないし」
セレジアは私の手を自然な流れで振り払い、訝しげな顔になる。
「いやいや、流石にアッサリ人質返すような盗賊団が、悪い奴らとはあまり言えないんじゃない?」
私は盗賊団が慌てふためいていた先程の風景を思い出し、微笑した。
「確かに言われてみれば、あまりにも正直過ぎるというか、盗賊にしては可哀相というか優しいというか・・・・・・」
ミツキが首肯する。
「それはそうだけどさ・・・・・・やっぱり怖いよ、アタシ」
セレジアは一度アイツらに誘拐されているし、トラウマが残っているのか。
「まあ、でもその時はこのムチで調教するけどね」
お得意のムチをしならせ、意気込み始めた。この様子なら大丈夫だろう。
「ギルド結成、してもいいかな?」
「いいよ」「オッケー」
二人からバラバラに返事が来た。
しばらく経って、団長が部屋から出てきた。
「確かにお金は全く無いし、出来れば物盗りはしたくはないしな」
団長は少し顔を綻ばせた。
「分かった。協力しよう」
私と団長は互いの右手を差し出し、固い握手にて契約は結ばれた。
この後、細かい取り決めをし、今日は解散となった。
インパラジオ協会の施設に着いたのは、既に日も暮れた頃であった。
中に入ればラサマとは違い、中世風の甲冑や剣を身に付けた勇者の姿はあまり無く、魔法使いが着るようなローブや三角棒、杖といったものを良く目にする。建物も気のせいか知らないが、とても薄暗い。造りも木造でありながら、明かりがロウソクの朧気な光のみである。より一層不気味な雰囲気が強調される。
「何だか怖い・・・・・・」
無事に受け付けを終え、食堂に着いた私は小言を呟く。
「魔女の館って感じだねぇ。これは人殺してる雰囲気だよ」
セレジアは早速食堂の料理を頼み、持ち寄って来た。どうやらマギルカでは食べ物が紫色であることが風習らしく、どの食べ物も毒々しい色を発している。だが食べ物であるので当然毒は入っていない。色を付けているだけだ。特にマギルカの名物は、「ジェンジェンコ」という鍋料理である。アンコウとキノコ、そして現地の家畜「ウシブタ」の肉を入れ、香辛料で味付けをしている。他の地域と比べ、特段濃い味が特徴であるという。やはり魔術を使い過ぎて味覚が薄れているのか?
「わ~い!『ジェンジェンコ』だ!アタシこれだぁ~いすきなの!」
ミツキは目の前の料理に目を輝かせている。顔を近づけ、その鍋料理の匂いに恍惚の表情を浮かべる。
「正気かよ・・・・・・」
私はセレジアが念のためにと頼んだ『マギルカパン』という、紫キャベツを混ぜ込んだ不思議なパンを持ち寄り頬張る。何とも言えない味であった。
「そういえば、ギルド申請は出したの?」
セレジアも、マギルカパンを一ちぎりし、口に入れる。
「まだ。明日で良いでしょ」
「それもそうね。今日は色々あったし」
「みんなも食べましょうよ、『ジェンコジェンコ』」
ミツキが茶々を入れる。すかさず二人は罵倒で返す。
「「食えるか、ボケ!!!」」