第12話~ニートの転職~
「え、なんだって?」
お約束の返しを浴びせる私を、苦虫を噛んだような表情でセレジアは見つめてくる。
「だから、魔法使いになりたいって言ってるの!」
「なんでですか?十分剣の腕もありますし、勇者のままでいいじゃないですか」
「・・・・・・たいから」
「え?」
セレジアは大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「役に立ちたいの!!折角組めたパーティだもん」
「まあ、その気持ちは分かりますけど、魔法ならミツキが使えるじゃないですか。大丈夫ですよ」
ミツキは嬉しそうに私の腕に飛びつく。セレジアはその風景を見て、表情が暗くなった。
「なら、アタシがパーティに居る意味ないじゃ無い」
そう告げて、我先にとセレジアはゲートに向かってしまった。
私は二の句が継げず、ただその場に立ち尽くしていた。セレジアは一体何を考えているのか。私は何か対応を誤ったというのか。ただ事実を述べただけであって悪いことは言っていないはずなのに、なぜセレジアは激高してしまったのか。・・・・・・もしかして、ミツキに嫉妬しているのか?
いつもミツキと言い合いしていたし、私が半ばミツキをパーティ加入を黙認したことに腹が立っているのか?
分からない。理由は何個か考えられるけれど、どれが正解か分からない。
「どうしたのサイジさん!早く行こうよ~」
絡み合う腕が包容力のある隙間へ誘われる。
私はミツキに引かれ、街の中へ入っていった。
街は喧噪で満ち溢れていた。
建物は総煉瓦造りのもの、木造のもの、土壁作りのものが乱雑に並んでいる。東西南北の門から伸びる大通りが交差する中心点に30階建てのタワーがそびえる。そこに魔王の手下が住んでいるとのことだ。
マギルカは方角によって明確に区分されている。北東区域は歓楽街、北西区域は住宅街、南東区域は魔法研究施設と教育施設、南西区域は商店街となっている。
私とミツキは、先に行ってしまったセレジアを追いかけ、南東区域に向かっていた。
「全然見えない・・・・・・人がゴミのようにいる・・・・・・」
ミツキは例のセレジアが向かっているであろう場所を知っているので、私はミツキに手を引かれながら、黒山の人だかりを掻き分け進む。
「今の時期は、特に『ゼンラ祭』だから、余計人がいるんだよね・・・・・・」
心なしかミツキの手が汗ばんでいる。
「セレジア、見つかるかな」
「絶対見つかります!大丈夫、ミツキは魔法少女ですから!」
あどけない笑顔が私の心に刺さる。
ミツキはそのまま大通りから外れ、北東区域の小路に入り、おもむろにポシェットから魔術書を取り出し、ページをめくり出した。
「これから探索魔法を使います。何かセレジアさんの痕跡はありますか?髪の毛とか、持ってたものでも良いんですけど」
「あったかな・・・・・・、あ、肩に金色の髪が」
私は右手でそれを摘まみ、ミツキに渡した。
「よし、これで探せます。・・・・・・少し離れて下さい」
ミツキは私から2~3歩離れ、魔術書に書かれている呪文を唱えだした。
「精霊セイルよ、我を彼の元へ導け!ゲ・レバル・ゼヌル!」
すると、金色の髪から溢れんばかりの光を放出し、その光は一点に収束し、方向を指した。
「あっちです!」
再び私の手を取りミツキは駆け出す。
ミツキはセレジアのことをどう思っているのだろうか。ここまでミツキをさせるものはなんだろうか。普通なら、あれ程目の敵にしているならセレジアのことなんか探さずにいるはずなのに。
それなりにパーティのことを想ってくれているのだろうか。
段々喧噪から離れ、二人の足跡しか聞こえなくなっていく。こんなところにセレジアは居るのだろうか?
「あれ・・・・・・そろそろのはずなんですが・・・・・・」
ミツキの表情が曇る。
「もしかしたら、魔術の学校に行こうと思って迷っちゃったのかもね」
「そう、だといいんですが」
私も脳裏によぎるのは、事件に巻き込まれたのでは無いかという懸念。こんな狭いような道に普通は行かない。
人一人しか通れない小路を突っ切った先に、光が差している建物があった。建物は煉瓦造りではあるが、至る所が朽ち果てており、本当に人が居る所なのかと疑うような有様であった。
「ミツキが通っていた魔法の学校はここかな?」
「いえ」
「ここに・・・・・・ミツキがいるんだよな?」
「ええ」
二人共に体がその場から動けない。何が待っているか分からない緊張で、体が硬直してしまっている。
「と、とにかく、行ってみよう」
私は今にも逃げたい衝動を押し殺し、建物の扉を開いた。
「やあ皆さん、お待ちしておりました」
悪い予感が的中してしまった。
そこに居たのは、荒くれ者の強盗集団『デン』と名乗る者達であった。