第11話~それは一つの希望として~
宿から発って一日かけ、ようやくその都市のおおよその輪郭が見え始めた。
「こ、これが・・・・・・マギルカ?」
エチケット袋を片手に私は、目の前から登りゆく朝日に照らされたその都市に感嘆を漏らした。
「そ・・・・・・そう、これが、マギルカ・・・・・・」
ミツキもエチケット袋片手に、手を振るわせながらその行く先を指差す。
「取りあえず・・・・・・着いたら休みましょ。もう限界・・・・・・」
セレジアも袋を持ち、窓を見ることなく俯いたままだ。三人共乗り物に弱いとは、誰が予想していただろうか。
そんなことはともかく、無事マギルカに着いた。着いた、とはいってもマギルカは街全体が城壁に覆われ、町に入るには、東西南北いずれかの門をくぐらなければならない。もちろんその門でどの人荷問わず検問が行われる。ミツキ曰く、むやみやたらな魔法技術の流出の阻止という名目だという。
馬車はマギルカ手前までの契約であったので、門手前で別れた。馬車を動かしてくれていた運転手は、鼻をつまみながら逃げるようにその場を後にしていった。
朝日は昇りきり、澄み切った青空になった頃に到着したが、既に検問で行列が出来ていた。が、よく見るとその近くに、『勇者専用』と書かれた検問所があった。
「これって、『勇者』の資格を持っていたら優先して入れる奴じゃない?」
セレジアは慌てて勇者の証を取り出す。
「ミツキは『勇者』の資格持ってるの?」
私はミツキに話しかけると、途端に下を向く。
「もちろん、無いよ。魔法少女だもん」
ミツキは胸の谷間からいやらしく『魔法操作師』の免許を取り出した。
「へぇー、魔法使うにも免許が必要なのか・・・・・・」
私が感心してその免許をミツキに見せて貰う。
「ミツキは、れっきとした魔法少女なのだ!えっへん」
「どうやって取ったの?」
「『魔法操作師』になる為には、まず前提条件として、男は30歳以上の 童 貞 で無くてはいけなんです。女は特に美人であれば問題無い!」
「心に響く強調、ありがとうございます。でもなんで男は 童 貞 でなくちゃいけないんですか?」
「なんだっけ、確か30歳まで純潔を保てば魔法が使えるようになるという伝説を基に、今の魔王が施行したらしいですよ」
最後の単語に、私は思わずハッとした。魔王が魔法取り仕切ってるってことか?じゃあ、勇者は魔法使いには成れないということなのか?
「そうですか・・・・・・勇者は魔王を倒す存在ですから魔法使いにさえ成れないということですね。ハハ」
「いや、別に勇者でも魔法使いに『転職』出来るよー」
ミツキ曰く、魔法使いになるには勇者の職を放棄し、所定の手続きと教練、試験を突破すれば問題なく裁可が下りるという。
「なるほど、事実上魔王の軍門に下れば魔法使いには成れてしまうということですね」
「そのとおり~!さすがサイジあたまいい~!」
「どうしようか、勇者辞めようかな・・・・・・」
私が頭を抱えていると、セレジアが私の肩に手を置き、耳元で囁く。
「あなた 童 貞 の資格は満たしてるけど30歳はいってないでしょ?」
「あ」
私は一瞬、目の前が真っ白になった。
「大丈夫!魔王から資格取れなくても、ミツキが教えてあ・げ・る♡」
ミツキはその勢いで私に抱きつく。あらら、またこんな柔らかきものが体に当たれば、セレジア殿がムチを下さるというのに・・・・・・あれ、来ないぞ。どうしたんだセレジア。いつもの元気なムチは無いのか?そんな愚かな試案をしていた私は、次に聞いたセレジアの言葉に驚嘆することとなる。
「アタシ、魔法使いになろうかな」