第10話~そしてようやくマギルカへ?~
「うわ~ひろ~い!」
ミツキは泊まる部屋に入るなり、両手を広げて喜びを表現する。
部屋は全体が木調で統一されている。テーブル、イス、ベッドと全て木製だ。殊更テーブルに関しては燻された様な深い色合いが出ており、部屋のコントラストのアクセントとして機能している。
「アンタもう何日か泊まってるでしょ。そんなに嬉しいの?」
「ミツキは独り部屋だからせまかったの」
早速ミツキは等間隔で置かれている3つのベッドの一番左(ドア付近)に目掛け全力疾走し、飛び込んだ。
「ふわ~。今日は魔法いっぱい使ったから疲れちゃった~」
「それは自業自得だと思うが」
セレジアが悪態をつく。
「そんなことないですよ~」
「その語尾伸ばすの止めてくれない?イライラする」
「くせなんですよ~てへぺろ」
「そのポーズするの止めてくれない?イライラする」
ミツキは悪びれることなく、ベッドでゴロゴロしている。
「いいじゃないですか~」
「そのベッドアタシが使いたいんだけど」
「何でですか?」
「・・・・・・別に良いじゃない」
「もしかして、ミツキが気に入らないからですか?」
その言葉を聞いた瞬間、セレジアは驚き戦慄いた。
「な、アンタに言われる筋合いなんかないわよ!勝手に一緒の部屋に泊まろうとしてるクセに」
「なにいってるんですか?もうミツキ達は同じパーティじゃないですか?」
私はミツキのその発言を聞き、思わず持っていた陶器製のコップを落とし、甲高い破裂音と共に割ってしまった。
「あ~だいじょうぶですか~?」
待ってましたとばかりにミツキは私を心配しているのかは分からないが、すぐさま駆け寄る。
それに遅れまじとセレジアも私に駆け寄る。
「ちょっと!アンタが驚かすようなこと言うから・・・・・・」
床の惨状を目の当たりにしたセレジアは、部屋の隅に立てかけてあった箒とチリトリを持ち寄り、破片を掻き集める。
「あ~!それミツキがやる!」
セレジアが持っていた箒を無理矢理奪う。
「何すんのよ!危ないじゃない!」
「いいじゃないですか~もう同じパーティなんですから!」
「同じパーティなら尚更でしょ!返しな、さい!」
強制的にミツキから取り返そうとセレジアが躍起になる。それを見かねた私は箒を二人から奪い、破片を片付け始めた。
「私がやるので二人は寝る準備でもしていて下さい。やかましいです」
二人は我に返った顔になり、各散り散りになった。
お風呂は部屋備え付けで交代で入り、無事に終了。サービスは残念ながら脱衣所から透けて見える程度であった。残念。
そんなこんなで、宿の食堂で夕食を取ることとなった。食堂も部屋にある物と同じ材質の木で、サイズを6人用に大きくしたものであった。
食堂の厨房から客の様子を見通すことが出来、宿の主の爽やか変態スマイルを拝むことが出来る。
食堂からは、お手製料理の『マニファカ』という、パン生地にゲルマニという竜の一種の肉を詰め込んだ郷土料理を支給された。味は、例えて言うならばボタン肉のようだった。
料理を食し、一息ついたところで、セレジオが話を切り出した。
「そういえばミツキはまだこの世界に来たばっかりなの?」
「う~ん、たぶんだいぶ経ってます~」
「・・・・・・パーティは組んで無かったの?」
セレジアは怪訝な表情を浮かべる。
「あ~、以前は組んでいたのですが~追い出されました~てへぺろ」
「え?パーティ追い出された?やっぱりか・・・・・・」
セレジアは諦め混じりに嘆息する。
「なので~、ちょうど新しく宿に来たパーティを紹介してもらったわけです」
「じゃあ、ずっとこの宿に張り込んで、パーティ探ししてたって訳?」
「そういうことなのです!」
ミツキはテーブルの上に乗り、胸をドンと張り、高らかに宣言する。
「いや、そんな悲しいことを堂々とアピールされても、ね」
私はミツキの見えそうで見えない魔の領域に翻弄されつつ言を発し、手元にあったお冷やに口を付ける。
「サイジさんなら、ミツキのこと好きだからパーティ入れてくれるもんね~」
私に抱きつき、腕を私の首に回す。顔にマシュマロ状の温かく柔らかいものが当たり、ささやかな至福の時をもたらす。
「は、はう~」
それに見かねたセレジアは、ムチを取り出し、私の背中に間髪入れず二発食らわせる。
「アッー!アッー!」
「いい加減にしなさいこの淫乱痴女!サイジから離れなさい!」
なんだろう、今私、とても幸せな気がする。
その後もセレジアとミツキの際限の無い応酬が続き、結果として、回復要員そして貴重な魔法の使い手として、パーティに正式加入が決まったのであった。
一晩去り、変態の宿主の下を、逃げるように発った。