第01話~勇者になる権利をいただきました~
ある日突然、ふと思った。この人生って無意味じゃないかって。今こうして家でごろごろしていても、何も変化は無い。時間の浪費である。高校卒業し、家に引きこもり、ひたすらパソコンに向かう毎日。働かず、親の脛をかじる日々。何も目標が無く、ただ生きている。ドアの下から差し入れられた供物を食し、その残りカスを排出する。確かにパソコンさえあれば、様々な情報が手に入り、溢れんばかりの娯楽を一瞬で手に入れられる。毎日掲示板を眺め、ネトゲをプレイし、動画を見て腹を抱えて笑い・・・・・・
「ああ、なんて素晴らしい天国なんだ!」
このまま死んでも構わない。生きているようで死んでいるようなものだから。毎日「生」を浪費するだけなら、いっそのこときっぱりこの瞬間死んでも同じだ。
「ヒデアキ!ごはん、置いておくから」
決まった時間にご飯が『配給』される。母の温情で私は生かされている。私の家族は4人居るが、父は既に別の場所に女性を作り、兄は一流企業に勤め家庭を持っている。この家には年老いた母とニートだけ。お金は父が定期的に振り込んでくれるので、生活に困ることはないが、最早家庭の体をなしていないのが現状だ。もうこの現実は鎖のようにボクを縛っており、抜け出すことなんて余程のことが無ければ不可能だ。
ぼうっとそんなことを考えていると、突然「ガタッ」と窓が勢い良く開いた。確か鍵は閉めていたはずだが。窓からは、凄まじい突風が部屋に吹き付け、床に散乱していたティッシュペーパー・カリフラワーが宙に舞い、顔に直撃する。既に長期間経過し、白いキノコが生えているモノもあった。
その風に混じり、茶封筒が窓から飛び込んできた。非日常をすっかり忘れていた私は、その茶封筒を吹き荒れる嵐の中から、救った。宛名も、送り主の名前も無い。一体なんだろうか?
封を破り、中身を取り出す。そこには一枚の手紙と、「青春18勇者」と「新世界行き」とだけ書かれた切符が入っていた。
恐る恐る、手紙の文章に目を通す。
「おめでとうございます。サイジ ヒデアキ様
あなたには 勇者 になる権利が与えられました。
さあ、切符を手に取り、ドアを開け、未知なる世界へ飛び出しましょう!
インパラジオ協会」
何なんだこれは!私の名前が手紙に書かれている。しかも何だ、勇者になる権利って。今時勇者って、DQとかFFとか、それぐらいでしか見ない。現実世界に勇者の格好して、魔物討伐とかやってたら、間違いなく笑いものだ。下手すりゃ警察に捕まって臭い飯喰う羽目になる。
インパラジオ協会ってのもなんだかきな臭い。騙そうとするにも、もっと良い名前があるだろう。「勇者育成協会」とか「こどもいきいき教室」とか、「NPO法人ニート卒業の会」とか。さすがにあんな名前じゃ誰も引っかからないだろう。
まあ、切符も手元にあることだし、試しにドアでも開けてみるか。
この数年、トイレに行く以外、まともに開けられたことの無いドア。ようやく自ら、生理的欲求以外で、自らの意思で開かれる。おそらくこのとき私は、この「日常」に飽き飽きしていたのだろう。このドアの先にあるかも知れない「非日常」に期待していたのかもしれない。この「現実」には未練は無い。
ドアノブに手を掛け、ひねり、ゆっくりとその扉が開かれる・・・・・・
ドアを開けたその先に広がっていたのは、フローリングの廊下では無く、まさしく「勇者の住む新世界」だった。