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ねんがんの「ギルドカード」をてにいれたぞ!

ごはんを食べてギルドへ、編。


綺麗なお姉さんは好きですか。

私は好きです。

かわいいケモっ娘は好きですか。

私は好きです。


普段は二人旅で女性成分がないので、ここではちょっと女性を増やしてみた。

もふもふの為なら金を惜しまない、そんなマガツ。

そして相変わらずイケメンすぎるウロボロス。




ホテルのレストランの料理は、これまで私が生きてきた中でも上位ランクに入れるほど、おいしいものだった。

でも、たったひとつだけ残念なお知らせがある。

出てきた食材がやたらと見覚えがあって、今まで私は高級食材をもりもり食べていたのだなぁと知ってしまったのだ。

食べ応えがあって気に入っていたキノコとか。

香りが好きだった野草ハーブとか。

たまーに生っているのを見つけた木の実とか。


森ではちょっと出歩けばホイホイと見つかるような、私にとってはありふれた食材が高級品で、なんと一皿銀貨5枚はするのだ。


庶民には到底口に出来ないであろう高級品ばかりを、私はてきとーに料理して、盛り付けなんか考えずにてんこ盛りにして食べていたのだ。

中に入ってみて気付いたが、レストランに居る人たちもどこかのセレブっぽそうな人たちばかりで、美味しいけど・・・森の我が家ではタダで、しかもてんこ盛りで食べれるんだよなぁと思ったらありがたみが半減してしまった。

いや、おいしいんだけどね。

特に今日の朝ごはんもウロボロスのおごりだから美味しいんだけどね!

だけど貧乏症な私は値段を考えたらウロボロスが昨日買ってきてくれたような屋台のもののほうが好きだなぁ、なんて思ってしまうのだ。


「どうされました主?」


冒険者の多い街だけに、高級レストランとはいえ鎧での来店はOKなようだったが、兜は外して下さい、とのことで今のウロボロスは左半分を覆っていた兜部分がない。

だからといって騎士さんの顔が露わになったというわけではなく、左目付近には兜の名残を思わせる銀色の刺青にも思える装飾がされたままだし、赤い眼光もそのままだ。

でも顔の左目付近以外はほとんど晒されているから、騎士さんを知る人はたまにぎょっと目を見開いたりしていた。

どうやら騎士さんは有名らしい。

もぐもぐと食べていた分を飲み込んで、口の周りを拭いてからぽつりと呟く。


「レストランというのもいいが、昨日お前と食べた時のほうが私には美味しく感じるな。・・・そのほうが、気を使わなくていい」


上品に食べる、なんてそんな難しいことを考えてたら美味しいご飯も美味しくなくなっちゃうしね。

だって生粋の庶民だもの。

そう思って呟いたのだが、ぽかん、としていたウロボロスは急に表情をほころばせて、周囲にも分かるようなキラキラオーラを放ち始めた。

うっ、何だこのイケメン度は!?


「では、主さえよろしければ今日の昼は屋台で構いませんか?」

「勿論」


美味しいものを知ってるウロボロスだから、今日のお昼も楽しみだね!なんて呑気に私は頷いていた。

ちょっと重苦しいギルドへの道のりも、これで楽しくなるというものだ。






着いた先にあったのは丈夫さだけが取りえっぽそうな建物だった。

見た目は何処かの公民館、といった感じで、大きな看板にはギルド集会場と書かれている。

中に入るとどこか市役所っぽい雰囲気と、併設されている情報場兼酒場からの騒がしい雰囲気が、奇妙なバランスで存在していた。

カウンターにいるのは見目麗しい、緑がかった金髪のエルフの女性だった。

私は今までそこそこ長い間生きてきたが、これほどの美女にお目にかかったことはない。

なんというか、これぞ生命の神秘。

神の作りし芸術といっても過言ではないほどの、圧倒的美人だ。


「いらっしゃいませ、どういたしましたか?」


驚きに目を見張る。

本物のエルフだということに驚いたのが一つ、もう一つが彼女の首にある首輪だ。

それを見て「亜人が奴隷のような扱いをされているこの世界の現実」というのを改めて知った。

彼女には似つかわしくない、無骨な首輪に気付いてウロボロスに視線を向けると、見目がいい者はこういう場で受付などをしているんですと教えてくれた。

受付は肉体労働などがない為、これでも扱いはいい方なんだそうだ。


荒くれ共に舐めるように見られて嬉しい女性なんて居ないと思うんだがね。


現に、彼女が身に着けている服はやたらと布面積が小さく、露出が激しい。

カウンターに腰半分ほどが隠れているから分かりにくいが。

・・・いかん、気分がささくれてきた。

私とギルドはかなり相性が悪いようだ。

低いカウンターのため、自然と彼女を上から見下ろす形になるが、失礼にならないよう視線をカウンターへと集中させる。


「・・・ギルドに登録したい」

「初めてでしょうか?」

「ああ」

「では登録いたしますので手付金として銅貨を十枚頂きます」


入会料が必要だ、というのに思い至らなかった私は、まだ一文無しだということを忘れていた。

先に金貨を換金するか、後で返すから貸してってウロボロスにお願いしようかな、と思っていると、カードを翳したウロボロスがちゃちゃっと支払ってくれた。

お役にたてましたかと微笑むウロボロスに、後でちゃんと代金を返していいアクセサリをあげようと心に誓う。


ウロボロスへの好感度は鰻登りだ。


イケメンで気が利くって、どれだけモテ要素があるんだか・・・と改めて騎士さんのスペックの高さに感嘆する。

これが【ウロボロス】の影響ならともかく、この辺は騎士さんの「素」らしい。

あんまりにも人間が出来すぎていて、ウロボロスなしでは一人で出歩けないだろうなぁと苦笑した。

私の苦笑に首をかしげながら、エルフさんは支払いを確認いたしましたと言ってなにやら加工された石を取り出した。

つるっとしたその石の大きさはピンポン玉ほど。

乳白色のそれは何処かで見たことがあるよう石で、どこで見たんだったか?と思い返すと、森で拾った石に似てるのだと気付く。


道端に転がっている石にちょっぴり魔力が篭っているようなそれは、所謂「魔石」というらしい。


魔力のある場所でなら幾らでもドロップするらしく、けれど私が森で拾うものよりもかなり頼りない雰囲気がある。

魔石の中でも魔力を記憶できる種類の石があり、それを丁寧に特殊加工をしたものがギルドで使われる特別な「魔石」になるのだそうだ、ウロボロス曰く。


「これは特殊な加工をした魔石でして、貴方様の魔力を記憶することが出来ます。まずはお名前と、情報のご記入をこちらに」


指先で触れるとぽうっと魔力に反応して光る。

どうやらこれで私の魔力を記憶した、ということらしい。

石が光ったのを見たエルフさんは続いてバインダーで止められた羊皮紙をさしだした。


素朴な疑問だが・・・文字は何故か読めるが、この世界の文字をかけるんだろうか?


悩みながらも、読めなかったら私の故郷で使われている文字ですとか言っておけばいいか、とペンを走らせる。

なんとなくそれっぽそうなローマ字でいいかと名前を書き、職業、住所を記入する。

読める文字じゃないとダメですとかいわれたらウロボロスに代筆してもらおうと思ったが、私が書いた文字はこの世界で使える文字だったらしい。


「古代マージ語ですか。はい、マ・・・マガツさま、ですね。住まれているのは、え、不帰の森ですか?」


古代マージ語って何だ!?と思ったが、そこらへんは何かが勝手に翻訳してくれたんだろう。

とりあえず私はこの世界において一応読み書きの出来る人間らしく、少しだけほっとした。

エルフさんは魔術師なら古代マージ語を知っていて当然ですね、とか言っているから、多分あんまり使われない言葉だが使わないわけではない文字らしい。

エルフさんの凄いですね、という微笑みに軽く視線を逸らす。


「・・・魔術師としてあそこほど住み心地のいい場所はないのでな」


昨日ウロボロスと話し合った結果、私は流れの魔術師で、マジックアイテム制作に便利だから不帰の森に住み着いている、という設定になった。

あながち間違っては居ないし、嘘でもない。

だって人種欄とかないから嘘もいってないしね。

何故職業を書くのかと思ったが、パーティを組んだりするさいにある程度の目星を付けやすくするためだそうだ。

確かに、得意技術などを書いてあると勧誘しやすいだろう。

まあ私はどこにでもいる無難な魔術師だが。


エルフさんと話していると、酒場が騒がしくなった。


振り向けば酔っているであろう男共が私のことをまじまじと見つめている。

上から下まで舐めるような視線に鳥肌が立つ。

ちゃんと今の私はウロボロスに装備を見てもらっていて、この世界においてそんなに珍しそうに見えないものに変え、無難な装備にしている。

私としては大分心もとない装備だが、その分見えない場所に装備しているアクセサリー系は属性攻撃を無効にするものや物理ダメージ軽減などといい性能のものを目くらましの術をかけた上で幾つか身につけているし、ウロボロスが守りますからといっていたから、安全のはずだ。

どこからどう見ても目を付けられる要因はないはず。

そう思う私だったが、こちらを見ている男共の中に見たくないものを見つけてしまった。

・・・昨日さんっざん下種と呼び捨てていたあの胸糞悪い男が、にやにやと笑っていたのだ。


「不帰の森に住むなんてホラ、よくもまあ吹けるもんだな」

「学者様ごときが戦えるのか?」

「違いねぇ!」


ははは、と馬鹿にするような笑い声。

何人かが同調しているのが分かる。

あーもう・・・。

やっぱり私とギルドは相性が悪いんだ。

特にこの街とは相性が悪いに違いない、そうだ、きっとそうだ。

茶化す声をスルーしながらエルフさんの言葉に集中する。

エルフさんも仕事柄こういう茶化しには慣れているのか、私が続きを促すとあっさりと次の手続きへと進んでくれた。


「更に能力値を測定致しますので、こちらの魔計器に・・・」

「おい、そういやお前、昨日俺に突っかかってきたやつだろ」


そういって足元に投げつけられたのは、酒が入っていたらしいカップだった。

少しばかりローブの裾が濡れる。

人が無視しているのに蒸し返す馬鹿がどこにいる!


・・・あ、ここにいたか。


無視だ無視。

さっさとギルドカードを作ってお金を換金して、入金して、この街からはおさらばしよう。

ちょっとでも治安のいい街をみて、それでもこの世界に合わなさそうだったら森で隠居生活をしよう。

そうだ、それが一番私の精神上幸せな生活だろう。

イケメンとの共同生活・・・嫌いじゃないわ。


「ドルフ、お前にケンカを売る馬鹿がいるのかよ」

「ってこのひょろいヤツにお前負けたのか?」

「負けたんじゃねーよ。街の中で魔法を使おうとする馬鹿に俺様が懇切丁寧に・・・」

「お前がそんなごたいそーな言葉知ってることに驚きだよ!」

「違いない!!」

「ンだと!?」


ゲラゲラと笑う声。

昨日の下種男はドルフというらしい、って、そんな情報はどうでもいい。

私に係わらないでくれ。

とりあえず殺さないで居てやるから。

そう思いながら無視していると、傍らに居るウロボロスが静かなことに気付いた。

あるじあるじと煩いウロボロスのことだから、私の文句を言われた時点で怒るかとおもって・・・あれ?


「貴様ら、銅ランクのマーカス兄弟だな。銀剣のソリュートの連れと知って・・・その暴言を吐いているんだろうな?」


私が怒るよりも早く、ウロボロスが静かに怒っていた。

青銀の瞳は細められ、赤い燐光を放つ左眼窩は敵意を表すよう鈍い光を放っている。

いつもは聞き惚れるほど穏やかな声をしているウロボロスだが、いまやその声には絶対零度の怒りしか込められていない。

怒鳴りつけるような声ではなく深々と静かな声だからこそ、周囲に突き刺さるような殺気が立ち込めているのがありありと分かった。

気付かぬうちに私の傍からその男共の元へと瞬きの間に移動したウロボロスは、昨日の事も含めて最も私を侮辱していたドルフという男に抜き身のシルバーソードを首へと押し当てていた。

不用意な発言をすれば、すぐにその刃を引くだろう。

エルフさんが息を呑むのが分かり、周りの奴等がどうなろうとどうでもいいがエルフさんには悪いか、と思って仕方なく声をかける。


「止めろ。雑魚に構う暇が惜しい」

「主」

「放っておけ、下種に何を言われようが一向に構わん」

「・・・はい」


ウロボロスも係わるだけ無駄だと思ったのか大人しく引いた。

とはいえ、私が放っておけと言ったからだろう。

ギギギ、と鈍い軋んだ音を立てる左手は、怒りをこらえるためにか硬く握り締められていた。

命拾いした男共は呆然としていたが、流石に三人いるとはいえ銅ランクの人間が銀ランク(実際には紫銀なのだが)相手というのは部が悪いと感じたのか、そそくさと酒場へと戻っていった。

明らかに負け惜しみのような台詞を吐いて。


まあ、ランクの差というのは大きいらしく、銅から銀という差は特に大きいのだそうだ。


銀ランクからは国に召抱えられる実力者しかなれないということで、銅ランクが束になってやっと互角というくらいだから、さっきの雑魚三人では逆立ちしたってかなわないだろう、元の騎士さんでも。

とはいえ、その上の金ランクとなると世界を救う勇者クラスと言われ、紫銀は文字通り伝説クラスだというから、今のウロボロスの規格外っぷりが分かるものだ。


「・・・マガツ様はお強いのですね。銀剣のソリュート様といえば、十二人いる銀プレートの一人、金に最も近い御方と聞いております。そのような方のお連れとは」


ようやく落ち着けたのか、ほうっと息を吐いたエルフさんがそういった。

え、銀プレートは十二人だけ、だと?

金プレートは四人。

つまり、限りなく五人目に近い銀だったのか・・・騎士さん。

怒りをひっこめたウロボロスはいつのも穏やかさで、俺はまだまだです、とエルフさんに返事をしている。


「強いと思っていたが、俺なんてまだまだだ。死に掛けたところをこの御方に助けて頂いたほどだからな」

「え、うそ、ソリュート様っていったらたった一人でドラゴン退治したっていう話があるのに!?」

「リュリュ、仕事中よ」

「あっ、ごめんなさいルーア!」


話に割り込んできたのは隣のカウンターにいた兎耳の女性だった。

そのカウンターの上にはお金マークがついていて、どうやらそのカウンターで換金や入金が出来るらしい。

こちらは昨日見たクゥとは違い、獣系の亜人とはいえほとんど人間で、でも茶髪から伸びている兎耳や、普通よりも目が黒目がちな部分が「人」との違いだろうか?

ルーアと呼ばれたエルフさんは驚くほどの美人だが、リュリュと呼ばれたほうは美人というより可愛らしい感じで、見た目だけなら儚げだ。

中身はなかなか元気娘のようだが。

これはギャップ萌え、というヤツかもしれない。


しかしアレだな・・・受付の娘は乳がでかくなければダメなのか、と聞きたくなるほど、どちらも夢のおっぱいだ。


元女の私でもついつい目がいってしまう。

カウンターの上に乗る乳とか、なんてけしからん。

巨乳エルフと巨乳ケモノ娘、これって世の男性陣には喜ばれると思うんだが。

そんな彼女らを亜人と蔑む連中の考えが分からん。

まあ私は一生分からなくていいんだけどね。


「ソリュート様が助けて頂いたと言うほどですから、マガツ様があの不帰の森に住まわれているのは事実なのですね。驚きました」


最初の頃の作り笑顔ではなくて、彼女本来の笑顔で微笑みかけられた。

ああなんていうか・・・うん、いい。

凄く癒される。

さっきまでのささくれだった心なんて忘れられるくらい、イイ。

これってエルフセラピー?

それともアニマルセラピー?

彼女らと会話するだけで私的には場の空気が和んだ気がして、ほっと安堵の息をついた。


「では長らくお待たせいたしました、こちらのほうで魔計器にて測定をお願いします」


やや柔らかい雰囲気のままルーアさんに案内され、中央カウンターに置かれた魔具の前へと立つ。

見た目はゲーセンとかに昔置いてあった、丸いガラス玉のピカピカ光るヤツっぽいものだ。

昔は物凄く欲しかったけど、アレって結局なんて名前だったのか。

一目でそれを気に入った私は、ぼーっと見ているだけでもなんだか満足してしまいそうだった。


「こちらに手を翳していただけましたら、測定が開始されます。魔法効果は一切解除されるので、実力しか測定できませんからね?」


微笑みながらかけられた言葉に伸ばした手が固まる。

けれどその言葉は少しだけ遅かった。

私の指先は既にその魔計器とやらに触れていたのだ。


・・・魔法効果が解除される、だって?


世界が違うから魔法も違うさ、なんて思って落ち着こうにも、私の足元でみしりと建物が軋んだ。

はっとしてアミュレットを見下ろせば、目立たないようローブの中に仕舞われたアミュレットから全ての術が消えいくのが見える。

慌てて取り出して手に取れば、次々と魔法効果が消されていくのは気のせいでもなんでもなかった。


「おい見ろよ、魔術師様はズルをしていたようだぜ」

「ばっかだなー、あれにゃ、英雄様が掛けた魔法がかかっていて全ての魔法が打ち消されるってのよ」

「どんな貧弱な姿かみてやろうぜ」


異変に気付いた先ほどの馬鹿共が懲りずに寄ってきたようだった。

うるさいと追い払おうにも、口からは意味のない雑音しか出ない。

みしみし、と床が悲鳴を上げる。

慌てて魔計器から手を離して魔法を掛けなおすが、今まで私が長い時間をかけて何度も掛けてきた魔法全てが打ち消されたらしく、油断していた私は姿を維持することが出来なくなってきていた。

このままでは床を踏み抜くのも時間の問題だろう。

一歩よろけただけで床を踏み抜きそうなり、慌てて動くのを止める。

ぎしぎしと音を立てる床は、なんとか踏み抜くのをこらえている状況だった。

これはあと一歩でも踏み出せば、床をブチ抜く予感がする。


「う、ロボ、ろ、す、お前ノ全力で、私を、離脱させヨ」


ぱきりと音がして術がほつれ始める。

多少は目隠しの効果があるローブのお陰で目立っていないだろうが、魔法が解除され始めている私からはだんだんと威圧感のようなモノが洩れ始めているはずだ。


なにせ私は欲しくてとったわけではない【極悪非道】と種族スキル【名状しがたきモノ】を持っている。


これらは誰であろうとランダムで敵対させるフラグを立てるもので、こればかりは抵抗のしようがない。

どうなるかは分からないが、ギルドなんてところで敵対されたら世界中追い回される気がする。

頷いたウロボロスが私を連れ出そうとしたが、残念ながら・・・「私」の重さはウロボロスには持てないほどにまで増大していたらしい。

失礼しますと取られた腕は引き千切れそうなくらい痛むのに、微動だにしないし、抱えようとしたウロボロスが固まっていた。


まー・・・元の「私」はデカい、重い、長い、の三点セットだからなぁ。


おろおろとするウロボロスに腕が痛いからやっぱいいや、というべきか、少し悩む。

ミシミシと音を立てる床をいつ踏み抜くか。

それともウロボロスに引っ張ってもらうか。

どっちにしろ、被害が出そうである。

私の体か床に。

明らかに状態のおかしい私に驚きながらも、ルーアは大丈夫ですか?と話しかけてきた。

リュリュは耳を伏せ、心配そうに見ている。

周囲は慌てて遠のいていっているというのに、二人は逃げる素振りがない。

これが受付魂ってやつか・・・。


「申し訳ないですが俺には主を運ぶ力がないようです・・・。主、先にカードを作られたほうがよろしいのでは?」

「・・・そウだな。ヒトでなくトも、ギルドかーどは作レるのか?」

「は、はい。能力さえ認められれば、私たち亜人でも作れます」


そっと伸ばした手からはぬらりとした触手や、金属にも見える刃鎌まで覗いた。

ローブに隠れているため間近にいるルーア以外には見えていないようだが、野生の勘からかリュリュが震えているのが見える。

でもこればかりは私にもどうしようがない。


半人外形態にならないよう、私だって必死なのだ。


変身の術に込めすぎた魔力が体の中で暴れ狂い、恐ろしい勢いで治癒と破裂を繰り返している。

他にも色々と酷いことになっているが、ぎりぎり、ほんっとーにぎりぎりでヒトの形は保てていた。

やけに鋭く伸びた爪先が計器に触れ、術が掛けたそばから解除されていくのを実感する。

けれど腐るほどある魔力で強引に押さえつけて、押し切って、なんとか拮抗した状態を保ちながら情報が読み取られるのを待つ。


薄い氷の上を歩くような慎重さで待つ時間は、恐ろしく長く感じた。


秒単位でMPが減っていく。

1、2、3、なんてものじゃない。

万単位でMPが減っていくのだから、この水晶自体もかなりの業物だろう。

常人であれば間違いなくどんな術でも解除させるほどに。


色がめまぐるしく変わる水晶は様々な色に移り変わっていたが、最後には真っ黒になって落ち着いた。


待てども待てどもそれ以上変化する気配がないので、もういいだろうと手を離した。

これはどういうランクなんだろうか?と水晶を見つめる。

なんだか測定できてない・・・ように見えるのだけれど、変化がないのだからこれで終わりだろう。

魔計器を見たルーアさんが目を瞬かせ、暫く思案して、実に言いにくそうに口を開いた。


「あの・・・測定値をふりきったため、計測不能です。言いにくいことですが、マガツ様はランクなし、のようです」

「・・・かーどハ、作れないノか」

「いえ、情報だけでしたら登録されていますから・・・ランクなし、で作ることができます」


こ、これだけ苦労してランクなし。

計測値を振り切ったと聞くと最高ランクに聞こえるが、必ず紫銀から青銅まででランクを当てはめなければいけないらしい。

もしや計りきれないと最上級も最下級も、一緒くたのランクなしに振り分けられるんではないだろうか?

私はそう思ったのだが、薄々そう思っているからこそ、ルーアさんは言いにくいといったのだろう。

だって私はランクなしとか言われても、その辺のヤツに負ける気しない。

むしろ街くらい頑張れば壊滅できちゃうレベルだ。


だけど計りきれないからランクなし。


今までも、あんまりに能力が低すぎてランクなしだったものがいたらしい。

だから私もそっち側、なんだそうだ。

・・・青銅よりも下ランク、という事態に張り詰めていた気がぷしゅうっと抜けていく。


あ、今気を抜いたら危ないんだった。


アミュレットに一々全ての術を掛けるのが面倒なので、一か八かで時間を撒き戻すリターンの術をかけてみる。

出来るかどうかは不安だったが、意外にもあっさりと少し前までの状態を呼び戻すことが出来た。


アミュレットに宿していた術は多い。


姿を変えるための変身の術。

姿を変えても体重は変わらないので絶対必須な、体重軽減の術。

種族スキルを発動させないために幻影の術に目くらましの術。

他にもこまごまとした術が色々と込められているのだ。

時間を撒き戻すことによってアミュレットに宿っていた術が戻り、空気が薄くなったかのような感覚と共に、ようやく私の体は落ち着いた。

相変わらずの息苦しさに安堵する日がくるなんて、さっきまで考えもしなかったけど。


「ランクなしとか、初めてきいたぜ!」

「亜人並み、いや、亜人以下とか・・・!!」

「さっきのもなにかインチキしようとしてただけかよ」


・・・もう、いいや。

どう笑われてもいいや。

ずーんと沈む私に、ウロボロスが慰めの言葉をかけてくれる。

何かの間違いです、とか、俺は主の実力を知っていますという声に、そうも必死になられるともっとヘコみそうだと苦笑する。

もう笑うしかなかった。


「お待たせいたしました。こちらがマガツ様のギルドカードになります」


そう言って渡されたのは、艶のない黒のカードだ。

ブラックカード・・・現実では持つことができない、選ばれしカードだ!なんちゃってね。

せめてのも空元気で笑顔を作り、受け取る。

いやまあ、選ばれた者だけっていうのはあってるのだ。

・・・ランクなし、とかさ。

どこか気まずい空気の流れるギルドだったが、私はお金を作るべくゴールド金貨を幾つか取り出す。


「これを売りたい。そして直ぐカードに入金したいのだが」


まさかの結果にショックを受けつつ、足早に向かったのは隣のカウンターだ。

リュリュはぽかんとしていたが、ちゃりんと澄んだ音を立てるゴールド金貨にぴくぴくと耳を動かし、仕事を始めた。

時折ちらちらと視線を向けられるのがこそばゆい。


「・・・ふわぁ、こんなのはじめて見た。普通の古代遺物ならこんなに綺麗な形で残ってないし、これ、ぜーんぶ金で出来てる!」

「珍しいのか」

「うんうん!こんな感じのはたまにダンジョンで見つかるけど、もっと磨り減って状態が悪くて3金貨だから、これなら美術品として欲しがる人も、錬金用に欲しがる人も居ると思うから・・・一つ15金貨で買い取れるよ!」


凄い凄いと目を輝かせるリュリュに、少しだけテンションが上がる。

提示したゴールドはウロボロスの鑑定以上の金額になった。

な、なんと一枚15金貨で売れたのだ!

暫くはギルドに近づきたくないからとポーチからゴールド金貨十枚を取り出し、換金の結果手にしたのは金貨150枚。

普通では到底手にすることが出来ないだろう金額をまるっとギルドカードに入金し、ちょびっと手数料を取られたが、それでもよほどの事がない限り換金しなくてもいいくらいの金額を手にすることが出来た。

このカード一枚に、市民にとっては一生分の金額がはいっているのだ。

無くさないように大事にしまおう。

パンツ・・・はダメかな、やっぱり。

先ほどまでの怯えはどこへやら、私に対して興味深々にしているリュリュの手を見てあることに気付く。


こ、これは!?


気付いてしまった私は、ささくれ立った心を癒すべくリュリュのほっそりとした手をとった。

両手でがっしりと握りこむようにしながら、リュリュの手にゴールド金貨を二枚滑り込ませる。


「ルーアとリュリュ、君たちの好意に感謝しよう。また逢いたいものだ」


突然手を握られ、更に手の中に滑り込まされたゴールド金貨に驚いたリュリュが小動物っぽい仕草できょろきょろしている。

兎耳もせわしなく動いていて、余裕があればいつまでも見ていたかったが、ここはギルド。

さっさと立ち去らなければいけない。

主に私の精神面での安定のために。


でも、この二人が居るなら長居してもいいかなぁと揺らぐ辺り、私も大概単純である。


少し名残惜しいが、二人で分けるように、とリュリュに囁いて手を離す。

聞こえるか不安なくらい小さな声での呟きだったが、長い耳はちゃんと私の声を拾ってくれたらしく、うん!と元気に頷いたリュリュが笑顔で見送ってくれた。

ルーアにもごくろうさまでした、と目配せをした私は何食わぬ顔で立ち去った。

迷惑かけちゃったし、これくらいの手数料は払っておいたほうがいいだろう。

彼女たち、とてもいい子だったし。


それに・・・それにリュリュの手はモフモフだった!


兎耳だけだと思ったら、手も獣に近い手をしていたのだ。

猫ではないので肉球はないが、兎っぽい少し細い手は、間違いなくもっふもふで、その手を握りたいという邪な思いがあったのだが・・・ゴールド金貨二枚くらいであのもふもふに触れるなら、得だ。

間違いなくお得である。

ギルドには来たくないが、彼女たちになら会いに来てもいいな、とギルドから去っていく私を見る幾つかの視線には気付かなかった。

ポーチから一枚金貨15枚もするものをひょいと出す私はカモネギだったのだ、と気づいたのは、だいぶ後のことである。




普通なら最上級ランクだ!となるのを、あえてのランク外にしてみた。

がっくりするも、ブラックカードがカッコイイからいっかな、とあっさり受け入れるのがマガツです。

主は喜んでいるし、黒は主に似合ってるからいいかな、と思うのがウロボロスです。

似たもの主従。


マガツの実体はかなりクリーチャー。


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