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もういっそカモネギと呼んでくれ

いつのまにかお気に入りに入れてくれている方が十人を越えていてびっくり!

こんな話にお付き合い頂きありがとう御座います。

マガツはのほほんとえせシリアス気味だったりしますが、コメディ担当はウロボロスになりつつあります。

主馬鹿すぎて。

そのうち騎士さん視点を追加したい、きっと主主主・・・で、すごい事になりそうだ。


この世界での日常という現実に出会っちゃった編。


ファンタジーだったら力が全て、な部分があってもいいと思うんだ。

ちょっと胸糞悪い感じです。

でもって、マガツ自身は自分が人間じゃないので「人間」だの「亜人」だのばからしい、とか思ってる。

むしろエルフばっちこーい!獣人モフりてぇええ!!派。

ヒロイン(仮)が出てきます。モフりてぇええ!!!







衝撃の事実につい知恵熱を出しそうになったが、自分が大金持ちだと知って一気に目が覚めた。

貯金しなきゃ!である。

ガードマンであるウロボロスがいるので早々お金を奪われるような事件が発生するはずは無いと思うが、念には念を、だ。

何せ私自身の素早さは高くないし、紙装甲だし、鈍臭いという自覚もあるし。


「ウロボロス、付近に金を預けるところはあるのか?」

「そのような場所、聞いたことがありませんが・・・」

「は?」


銀行がないとか・・・マジで?

いやいや聞き間違いじゃないよな?と固まる私に、ウロボロスが言葉を続ける。


「貯蓄、という考えがまず難しいのです主よ。預けるところとやらを作っても、襲われたら一貫の終わり。力を持った場所でなければその考えが通じないので、富裕者と力を持つものは同等になります。預けるという意味ではギルドが当てはまるかもしれません。ですが基本的に一般庶民は僅かな金銭しか持ちませんし、冒険者らも道中魔物を狩って素材を売りさばいてその日暮らしなものですから・・・あまり不自由と思ったことはないですね」


こ、こんなところで異世界だと実感したくなかった・・・っ。

この世界、サバイバル度が高すぎではないだろうか?

銀行がないとか、毎日の買い物もギリギリだし、私の出した武器防具が超レア扱いされる理由が分かった気がする。

自分で扱える程度のものでないと、ムリに高い武器とかを持っていても盗られてしまうんだろう。

下手すると命ごと。


だからこの世界では強い人間しか強い武器防具を持てない、というワケだ。


じゃあやっぱり今の私はカモネギなのは間違いない。

ポーチには最上級のものが一式と、そうでなくてもこの世界では十分最高級品な武器がわんさと入っているんだから。

いや待て・・・ギルドカードならお財布機能がついているんだったか!?

今の説明でもギルドなら預けるのが当てはまるっていう台詞があったし。


「ギルドカードにはどういう機能がある?」

「ギルドカードは身分証明書にもなりますね。他にも、先に一定金額を支払ってカードで支払うということが出来るようになる機能くらいでしょうか」


え、銀行は無いのにクレジット機能つき!?

詳しく聞いてみると、ギルドにお金を払うとギルドが買い物のときなどに立て替えてくれる機能が付いているとのことだ。

使える店はギルドと提携していないと使えないが、安全に多額のお金を持ち運べるのだと冒険者の間では人気のシステムらしい。

それは確かに便利だ!

カードを盗まれたら一環の終わりじゃないのか、とは思うが、こういうギルドカードとかいうのは無くしたら再発行ができるっていうお約束なハズである。

多分、大丈夫だろう・・・うん。

まだまだ木になる部分があるので、更にウロボロスに詳しく聞いていく。


「その金額とやらは、どれだけが上限だ」

「支払った分だけが上限になります。勿論、ギルドカード自体、作る際に本人以外を認識できないよう作られるので、もしカードを盗まれたり落としたとしても再発行に金は掛かりますがまた作ることはできます」


OKOK、まるっきりお財布機能が付けられる、というわけだ。

上限が無いというのは、つまり今のところどれだけ入金しても大丈夫ということだろう。

なんてこったい。


やっぱりギルドカードはあったほうがいいじゃないか!!


今のところポーチにお金を入れているけど、持ち歩くとなると元一般人としては貯金したい!と思ってしまうよね。

それに元々私は財布に多額の現金を持ち運ぶ性格ではないし。

ポーチからごそっと金貨を出す瞬間なんか見られたら、次の瞬間には身包みを剥がされているであろう光景が、ありありと目に浮かぶ。

そこから更にポーチ内のアイテムも盗まれたりして・・・。


ああ、恐ろしい!


ギルドカードになら多額の金を突っ込んでもいいのかというツッコミを入れたくなるけど、カードならかさばらないし、文字通り肌身離さず持って歩けるというもの。

しかも残り残高は本人がギルドで提示したときにのみ確認が出来るという、誰にもバレることのない、安心できる作りだ。

一々ギルドでないと確認できないのか、とは思うが、店などで迂闊に残高を知られて、怖ーい連中に脅されながらお金を引き出すよりは・・・全然面倒じゃない。

むしろ、この世界においてコレだけが安全な貯蓄方法だろう。

隠し場所は・・・そうだな、パンツの中に隠しててもいいんじゃないかな?

乙女の発想ではないが。


「う、ううう・・・ウロボロス、私はギルドカードを作れると思うか?」

「主ならば問題なく紫銀、いえ、その以上になりますよ!」


あれ・・・なんとかなりそう?

私の正体を知っているはずのウロボロスが言うんだから、作れるのかもしれない。

ああ、憧れのギルドカード。

これで一人前の冒険者っぽくなれるかも。

ぐっと握りこぶしを作る私に、更にウロボロスは言葉を続けた。


「それに、主さえよければ俺のカードを使って頂いても・・・」

「ウロボロスのか」

「俺の全ては主のため。使って頂ければ幸いです!」


主のお役にたてますか?と期待に満ちた目で見られている。

どうやら今のところ街の案内しか出来てないことが不満だったようだ。

私としては十分すぎるほど役立っている存在なのだけれど。


物凄くキラキラとした目で、半分イケメン、半分鎧のウロボロスが熱視線を送っている。


存在するはずのない尻尾がパタパタと振られているような気すらする。

なんだろう・・・物凄くわんこっぽい。

どこからどう見ても超がつくほどのイケメンなのに、わんことか。

外を歩けば放っておいても女が声をかけるようなイケメンが、私に対して無駄にキラキラとした目で、じいっと見つめているのだ。


そ、そんなきらきらとした目で見つめないで!!と乙女らしい黄色い声を上げたくなったが、はっとする。


今の私はマガツである。

どこからどう見ても男で、神経質そうで、根暗そうなガリ男だ。

そんな私が上げられるのは黄色い悲鳴ではなく、低い嘲笑に違いない。


だって外見はどこからどうみても陰気で不気味なネクロマンサーがぴったりな、男のマガツなのだから。


声だって変わっちゃったしね。

・・・いやね、私だって初めのころは魔法で化けているんだから「元の私」になろうかとも思ったんだけど、昔のことをとんっと思い出せなくなってきていて、だから人間に化けるときはこれが精一杯になってしまったのだ。

年だね、年。

年は取りたくないものだ・・・って私は幾つになったんだったか???

あの森では四季の移り変わりなんてものがなかったからなぁ・・・しかも私のステータス欄を見てもハテナで隠されているため、知ることが出来ない。

知らなくても平気なのだけれど、なんだかもやっとする。

何だろう・・・歯の奥にスルメが挟まったみたいな違和感だ。


「主?」


ウロボロスの心配そうな声にまあいっか、と受け流す事にした。

どうせ気にしたってしかたないしね。

うじうじしたってどうにもならないのは身に沁みて分かっている。


「ギルドに行って作れなかった場合には、ウロボロスに全てを任せよう」

「はい!主のために、俺はいつでも付き添います!!」


お役にたてる!と嬉しそうだけど、私のカードが作れなかったら、だからね?

そこのところ間違えないでね?

私だって自分だけのギルドカードがほしいんだから。


そんなこんなしつつ立ち直った私は、決意も新たにギルドへと向かうことにした。


胸に下げたアミュレットはばっちり私の姿を変えてくれているから大丈夫だと思う。

けどホテルで話し合いをして改めて気付いたが、街には亜人と呼ばれるヒトではないものたちも多くが生活していた。

街の人口の三分の一ほどは亜人だろう。

とはいえ、彼らの住む場所は町の端、掃き溜めのような場所に決められているらしく、身に着けているものも粗末な布切れだ。

どこか薄汚れていて、皆して暗い眼をしている。

彼らのほとんどは過酷な下働き全般を任されていて、みんなしてそれが当然だと気にしていない。


鞭打ちとかも当たり前だという光景に、目を疑った。


飲食店で働いているエルフと呼ぶのに相応しい風貌のまだ幼さの残る少年が、皿を割ったと鞭で打たれていた。

エルフ!?と思っているとあれは森の民の一種ですよ、とウロボロスが教えてくれる。

ファンタジーでよくあるエルフとかドワーフも人ではないから「亜人」という一括りに纏められてしまうらしい。

動物系の亜人なんかは特に扱いが酷くて、文字通り動物扱いで荷物引きとか力仕事を強いられ、使えなくなったら捨てられるという最悪な環境におかれることが多いそうだ。

可愛らしいエルフの女の子や、小柄ながらも力持ちそうなドワーフ、手先の器用そうなホビットらなんかが店のあちこちでせかせかと動いている。

そんな彼らに一貫しているものがあった。


首輪だ。


店で「使う」亜人は、逆らえないように隷属の首輪を嵌められるという決まりらしい。

そうでなくとも、店で働く亜人は人間様に迷惑を掛けないよう、首輪をつけなければ働けないという。


・・・なんだそれ。


まるっきり奴隷じゃないか、という言葉を飲み込む。

何だか酷く胸がムカムカして嫌な気分になった。

ゲームやアニメならそういうものか、と思えても、現実となると思った以上に忌避感が強くなる。

潔癖だなと思う反面、何とか助けたいと思う。

とんでもない綺麗事だ。

だけど今の私にあるのは両替していないけれど膨大な量であるだろうお金くらいで、そのお金だって全員が全員を助けられるほどは無いだろう。

助けた後に守れるか?と聞かれれば無理だというしかない。

拾ったもの、助けたものの面倒を最後まで見切れないなら、それは単なるエゴだ。

これがこの世界の「普通」なんだ、と私は無理やり目を逸らした。


「冒険者の出入りが激しい分、こういう部分が強くなっているんですよ。治安のいい街はところはもっとまともなんですが・・・」


顔を背けた私に気付いたウロボロスが慰めるようにそう言ったが、どこにいっても彼らはこういう扱いなのだ、と言われているような気分になる。

だって「こういう部分」てのが無いのが普通なんじゃないの?

そう思う余所者の私がおかしいのだろうか。

憂鬱な気分になりつつギルドを目指して街を歩く。


大通りに面した道はあちこちに店が出ていて、とても賑やかだ。


いいなーと思っても、今の私は一文無し。

少なくともギルドに辿り着くまで買い食いは出来ない身分だった・・・のだが、見かねたウロボロスが気分を紛らわせるのにもいいですよとあれこれ買ってきてくれた。

子供じゃないんだけど、と思ったが、ウロボロスが嬉しそうに買ってきてくれるので大人しく受け取る。

中でもオススメだという果物を一つ貰い、齧る。

見た目は毒々しいパステルグリーンとショッキングピンクのマーブルだが、味はミックスフルーツという謎の果物は美味しかった。

ジュースもあるんですよ、といわれたが、ジュースは何故かアルコールの匂いがしたので遠慮した。

お酒はなー・・・すぐに酔っ払うから止めておこう。

他にもウロボロスに勧められたものを食べ歩く。

鶏肉っぽい何かの串焼きや、見た目からしてごってごてな砂糖まみれのお菓子、魚っぽいものと野菜をサンドしたものなどを次々と平らげていく。

どれもこれも久々に食べる外の食事で、いくらでも食べれた。


ようやく気分が立ち直った頃、叫び声が聞こえた。


スリだ!という声に振り向けば、財布を手に戸惑っている亜人の少女がある。

大きさは小学生くらいか。

粗末な布袋をすっぽりと頭から被っていて、所々に端切れを縫い付けているのを見る限り、それが唯一の一張羅のようだった。

その前には仁王立ちする男が居て、見た目からして冒険者だろうというのが分かる格好をしていた。

いうなれば荒くれっぽそうなタチの悪そうな顔構えで、ステータスは見えないが、ランクは高くないだろうなと判断する。

猫型の亜人である小柄な少女は可哀想な位怯えていて、彼女が盗んだようには見えない。


「あ、の・・・っ」

「獣畜生が俺の財布を掏ろうなんざ、ざけるんじゃねえぞ!」

「ち、ちがっ」


少女はただ財布を持っていただけだった。

私には男が落としただろう財布を拾っただけのように見えるが、男は少女の言葉に耳を貸そうとしない。

怯える少女に対して怒鳴る冒険者の男は、自分に逆らえないほどか弱いであろう亜人の少女を一方的に怒鳴りつけ、殴り飛ばした。


小柄な少女が易々と吹き飛び、通りの壁へと叩きつけられる。


それでも気がすまないのか悪態をついた男がぺっと唾を吐き、すすり泣く少女の声が微かに聞こえた。

驚きのあまり固まる私とは違い、周囲はまたか、とでもいうようにそっけない。


「見ろよ、親切心なんてモンを出すからああなるんだ」

「大人しく見てみぬフリをしてりゃいいのに」

「運が悪かったんだよ・・・」


路地裏の亜人たちが財布を拾って返そうとしただけで俺らはああいう扱いなんだ、と呟いている。

蹲って震える少女は今にも男に叩き斬られてしまいそうだった。

ここの人たちにとって日常の光景だったようで、誰一人助けようとしない。

こんな・・・こんな日常の光景なんて見たくない。

これが日常だっていうの?


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ・・・」


何も悪いことをしていないだろう少女はずっと謝っている。

虫の居所が悪かったのか男はそれでも少女を蹴り続けていて、固まっていた私を怒りが突き動かした。

私は怒っていた。


この街に。

この男に。

この世界に。


私からすると信じられないほどモラルが低い。

この街から早く逃げたいな、と思ってしまっても仕方の無い話だろう。


だって私は人間をやめたといっても中身は極普通の、人間なんだから。


でもだからといって見過ごしていい事と、悪いことがある。

もし仮に彼女が悪かったとしても、だからといって好き勝手に蹴られていいはずが無い。

いや、誰が許しても私が許さない。

ふつふつとこみ上げる怒りを押し殺す。


「見苦しいぞ、下種が」

「はあ?ンだよてめぇ・・・」

「貴様のような塵にも劣る存在に名乗る者がいるとでも思うのか?下種」


本当はこんなヤツと話す事すら嫌だ。

ちょっとキレている今の私に気付いたウロボロスだったが、下がれ、と目配せすると頷いて一歩下がった。

男を無視してぐったりしている少女を覗き込む。

猫型の亜人で、薄汚れてはいるが大層愛らしい少女だ。

大きめな耳と黒い鼻先。

二本足で歩く猫のようで、少女、と呼んだのはその服がワンピースに見えたからだ。

青っぽい毛並みの彼女は昔私が飼っていた猫に似ていて、見れば見るほど怒りがこみ上げる。

彼女の頭上に浮かぶHPバーは大分減っていて、半分以下になっていた。

手加減すら出来んのかこの男は。

一般人と冒険者ではステータスが違うことくらい一目瞭然だろうが


「・・・この少女は貴様が落とした財布を拾っただけのように見えたのだが?」

「知るか。亜人が俺のものに触れたってだけで殴ってもいいんだよ」


なんだその理不尽。

馬鹿かこいつ。

いや、間違いなく馬鹿でしょ。

一部のギャラリーはそうだそうだとか言っているが、そんなことを本気で思う馬鹿は死んでいいと思う。

っていうかむしろお前が害獣だ。

そう思う私に呼応して、バチバチッという音を立てながら右手に魔力が集まっていく。

普段は見えないはずの魔力が見えるのは、それだけ魔力をこめているからっていうのと、私が制御できないくらい怒っているからだ。

そう、私は今ものすごーーーく怒っているのである。


「では、私に不遜な態度を取る貴様に対してもそういう扱いをしていいのだな」

「て、てめえ、魔術師か!?」

「貴様に名乗る者がいるとでも思うのか?と、下らんことを二度も言わせるな」


私の右手から離れた魔力がふわりと浮き上がり、バチチチッと空気を弾く音が大きくなっていく。

久々に本気で魔法を使うから、威力間違っちゃったかも・・・テヘッ。

でもまあ、こんな馬鹿しかいないんだったら消しちゃってもいいよね?

答えは聞いてなーい。


よし、一発ぶちかましておくか。


選択するのは範囲魔法。

範囲といっても、ターゲット周辺だけだからこのあたりが焦土になることはないだろう。

多分。

まあ馬鹿につられた馬鹿共は一緒にお陀仏かもしれないが。

水晶球サイズだったのが大きさを増し、1メートルほどにまで成長する。

丁度いい頃合だろうと呪文を唱え・・・


「主、お待ちを」


止められた。

止めたのは他でもない、唯一私を止められるであろう存在のウロボロスである。

思わず睨みつけてしまったが、私の眼光に怯んだのは周囲の野次馬共ぐらいだった。

一切怯んだ様子の無いウロボロスが私に近づき、傍らで倒れている少女の様子を窺っている。

膝を着いたウロボロスが私を見上げ、彼女の怪我は深くないようですよと教えてくれた。

生きているのは私にだって分かってる。

問題は、あいつらが・・・


「主、怒りをお納めください。主が気にかけている少女も怯えているようですよ」

「何?」


言われて気がついたが、いつの間にか目を覚ました少女が怯えたような目で私を見ている。

深いグリーンの眼が可愛らしい、って・・・。

・・・・・。

き、キャンセルキャンセル!!

手を振れば魔力球が空気に溶け込むように消え、目の前の男や周囲から安堵の息が零れた。

・・・いや、やっぱり範囲魔法じゃなくて単体魔法ならいいんじゃないか?

周囲の馬鹿も巻き込む知れないが、と危険な考えがいくつもこみ上げる。


「内臓を痛めているとすると危険です。主ならば手当の方法がわかるのでは?」

「・・・そう、だな。下種に係わるよりも有意義な時間を使ったほうが私のためだ」


心底胸糞悪いむさくるしい男の相手よりも当然、ぷるぷると震える亜人の少女のほうが大事である。

心のケアも含めて。

命拾いしたな、と男を睨み付け、少女に声を掛ける。

やせっぽっちで目と耳が大きい子だ。

びびんっとなっているヒゲは私が怖いからだろうか?

だとしたらヘコむ・・・私は猫好きなのに!!


「・・・大丈夫か?」

「うにゃ!?だ、だいじょうぶ、です」


ぐおっ!?

に、にゃあだって。

リアルでにゃあって言って可愛い子、初めて見たよ!

でも猫だからにゃあっていうよね、言っちゃうよね!!


先ほどまでの怒りはすぽーんと飛んで行き、気分が切り替わる。


リアル巨大にゃんことか・・・ああやっぱり可愛いは正義だ。

もふもふしたいなぁと思うが、この子にもふもふ出来るほどのお肉や、ふさふさの毛はなさそうである。

毛皮や洋服で隠したって、彼女の体がぽきっと折れそうなほど細いのは一目で分かった。

あれほど手荒に蹴り飛ばされたんだから、お腹痛いとか、体痛いとかはないだろうか?

あんなに蹴られたんだから体の節々が痛いくらいはあると思うのだが。


「嘘は言うな。本当に、痛くないのか」

「だ、大丈夫ですにゃ!い、いつものことですもの」

「・・・」

「ご、ごめんなさい!でも、人間様に心配してもらうほどじゃないですにゃ」


必死にぺこぺこと頭を下げてくる少女に、今の私は人間な姿をしているだけで実際にはバケモノだから、と言いたくなってしまった。

魔法でどうにかなるなら変身の魔法を世界に広めてもいいくらいだ。

頭を撫でながらバレないようにヒーリングを掛け、さり気なく傷を治しておく。

猫独特のぐるぐるという喉の鳴る音が聞こえ、ほんの少しだけ嬉しくなった。


「もし体のどこかが痛いと思ったら言うがいい。呪い(まじない)ぐらいならば出来るだろう」

「うにゃぁ・・・ありがとうございます、人間様。なんだか体も痛くなくなりました」

「そうか」

「あの、あたし、クゥっていいます。このご恩、わすれません!」

「当たり前のことをしたまでだ」


人間大にゃんこを助けられた上、おしゃべりまでしてしまった。

気にしなくていいよともう一度頭を撫で、いい加減人が多すぎになってきたので逃げるように立ち去る。

亜人、かぁ。

多分私が今日出会った光景も、この世界の住人にとってはいつもの光景なんだろう。

亜人は虐げて当然。

そんな認識はおかしい。

もふもふとかを愛さずして何を愛すればいいのか!

亜人虐待はんたーいとか思いながらも無表情を装ってギルドに向かった私は、ぴたりと足を止めた。


「ウロボロス、もしや冒険者とはほとんどが「ああ」なのか?」

「・・・否定は出来ません」

「・・・否定出来ないのか」


ついさっきの出来事であれだ。

ギルド内では亜人らも数多く働いているという。

雑用的な意味で。

血気盛んな冒険者がわんさといる場所で、もしさっき以上のことが繰り広げられていたら、今度こそ私はぷっつんとキレてギルドを更地にしかねない、気がする。

いや下手すると街ごととか?

「私」が歩き回るだけで被害が出るだろうからなぁ・・・。


「今日は街の散策だけにしておかれますか?」

「そうだな、それがいいかもしれん」


今日の私は温厚モードが売り切れだ。

残っているのはまったりモードかブチ切れモードだけしかない。

今の私は堪忍袋の緒がとても短くなっているだろう。

次にあんな光景を目にしたら問答無用で魔法をぶちかますほどに。

治安のいい通りもありますから、と言われ、大人しくその道を通ってホテルに帰ることにした。

気を取り直して明日ギルドに向かおう、そうしよう。


「亜人にも平等に優しいのですね、主よ」


いや、これくらい普通だから。

そう口に出したかったが、残念ながら今の口は果物で一杯一杯だ。

主にあれもこれもとウロボロスがくれるせいで。

でも私の対応が普通の世になるといいんだけどなぁ、と私は何度見ても毒々しい色合いの果物を飲み込んだ。




にゃんこかわいいよにゃんこ。

ギルドに無事到着ルートを先に書いたのだけれど、つまんなかったのでボツ。

マガツさん、諦めは早いし温厚なようだけど、いったんキレたら苛烈苛烈。

ウロボロスは餌付けは覚えたようだ。


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