私の名前はいっそカモネギでいいかもしれない
ゲームのこともうろおぼえになりつつあるマガツなので、ウロボロスにあれこれ聞いてみた編。
今日は発売日だ、いやっほう!とノリノリでお店に行ったら、予約の期限日前とか、そんな恥ずかしさな感じ。
もしくはレジに行ったら財布に残ってたのがお金じゃなくて記念コインとかドル紙幣だったとか、そんな感じ。
・・・あれは、穴があったら入りたいクラスの恥ずかしさだった。
目指すは大きな町。
そのためにはこの森から出なくてはならない。
しかしここは不帰の森なんて呼ばれる、魔物の巣窟な場所である。
・・・長らく住んでいたのに気付かなかったけど。
それにしても何故かやたらとエンカウント率が高かった。
一歩歩けば魔物の気配。
二歩歩けば魔物に出くわし。
三歩歩けば魔物を一刀両断。
四歩歩いてアイテム回収。
そんな行動がさっきから何度となく繰り広げられているほどだ。
スパンっと真っ二つにされた魔物は斬られた場所から凍っていき、もう一度ウロボロスが剣を振るうと甲高い音を立てながら砕けていく。
残ったのはいつも見かける綺麗な石で、私はいそいそとその石を拾いに行った。
これはどれだけ持ってても困らない石である。
ラッキーと回収していたら、ウロボロスが困ったようにしていることに気付いた。
「どうした」
外に出るんだからと男らしい言葉になるよう気をつけつつ、口を開く。
コールドペインから漂う冷気によって周囲はひんやりと涼しい。
フードを目深く被ったおかげで少しばかり蒸れるが、ウロボロスがコールドペイン片手に傍にいてくれるなら気にしなくていいくらいだ。
「いえ、主よ。これは普段使いにするには「良過ぎる」武器かと思いまして」
「良過ぎる?」
「はい。俺は元より剣の扱いに慣れていますが、切れ味がいい上に凍結の魔法まで加わったこの武器に慣れてしまうと、通常の武器の扱いでは物足りなくなってしまうのではないかと思ってしまい・・・」
【ウロボロス】は強い。
勿論、その辺をうろつく雑魚(それでもこの森の魔物は結構強いんだそうだ)なんて一刀両断クラスである。
だって私が手塩に掛けて愛情一杯、時間無制限、アイテム盛り盛り、魔力込め籠めで造った傑作だもの。
魔王クラスのチートになれるよ!と言っただけあり、【ウロボロス】装着者であるソリュート=ウロボロスはそれはそれは向かうところ敵無しと言っていいレベルの強さだ。
素体である騎士さんの強さも相俟ってだと思うけど。
強いもんね、と言ったらウロボロスは自慢そうに最高傑作ですからと胸を張っていたから、自他共に認める強さなんだろう。
でも、騎士さん的には武器自体も在り得ないほど「強い」のだそーだ。
言われてみれば、コールドペインは普通の武器より切れ味が良い武器だ。
更に魔法に耐性があるか、氷に耐性がない限り、斬った相手をほぼ凍らせてしまうだろう強力な追加効果まで付いている。
その上、素早さも上がっちゃう武器である。
うーん・・・確かに、これに慣れると他の武器では物足りなくなってしまうだろう。
あんまり便利すぎる武器だと、他の武器を扱った際に力加減を間違ってしまうかもしれない。
「ではこれを」
少し悩んで、予備の武器として持っていたシルバーソードを取り出す。
何の変哲も無い銀で出来た剣だ。
けれどそこそこ頑丈で、材質上魔法を通しやすい剣になっている。
普通の武器としては最上クラスかな。
魔法効果が一切無いにも係わらず、攻撃力的にはコールドペインとさほど変わらないので、魔法効果付きか、普通の剣か、という程度の違いだ。
コールドペインは使わないときは柄だけなので、同じ左腰に装着しても違和感が無いだろう。
全長一メートル程度のこっちのほうが何かと扱いやすそうだし、これはこれでいいかもしれない。
取り出した武器にウロボロスが軽く目を見開いた。
「このような武器を容易くお渡しになるとは・・・よろしいのですか?」
「ただの武器だ。お前が使え」
ほい、と渡した剣を、これまた恭しく受け取られる。
シルバーソードはちょっとお高いが、普通の剣だ。
ちなみにコールドペインはちょっといい剣。
コールドペイン一本買おうと思ったら、シルバーソード五本分のお金を貯めないといけないくらいには、値段的にも性能的にも差がある。
そんな何の細工もされていない大量流通品(それをいったら同じく店売りのコールドペインもそうなんだけど)に感動されても、不思議でしょうがないだけなんだが・・・まあいっかと受け流す。
ウロボロスは何かと「流石は主」「主ならば」「お見事です主」と褒め称えてくるので、これもその一つなんだろう。
「ですが主。あまり人目のある場所で道具の出し入れをなさいますと、よからぬ輩に目を付けられるかもしれません。お気をつけください」
「成る程。気をつけるとしよう」
こくりと頷いてポーチをコートの内側に隠す。
そうだよね、ゲーム中は街中でぽんぽんアイテム弄っててもヘンじゃなかったけど、ここでは現実。
宿屋とか路地裏とか、人目につきにくい場所でやらないと強盗に襲われるかもしれない。
それは困る。
このポーチだってそれなりに貴重品なんだから。
コートの上からポーチをぽんぽんと押さえて、気をつけようと思った。
魔法も使わず不帰の森からとことこ歩いて五日ほど。
着いた場所がアルソートの街である。
見かけはまさしくファンタジーにありそうな石壁に囲まれた、そこそこ繁栄していそうな街だった。
足を踏み入れてみると思った以上にごちゃごちゃしている。
建物は隣り合うように建てられ、この世界に高い建物を作る技術はないのか全て低い建物ばかりだ。
どれも古臭そうに茶色いけれど、そんなに古そうじゃないから・・・この街は比較的新しいのかもしれない。
ゲームにそんな街あったっけ?と思ったが、気付かないうちにアップデートしていて新しい章が始まったんだろう。
それにしてもこの街の名前ときたら、某チョコクッキーを髣髴とさせる街の名前だ。
・・・あ、お菓子が食べたい。
ちゃーんと甘いお菓子。
ここにきて自炊生活オンリーだったから、お菓子なんて手作りするしかない。
しかも私が知っているレシピときたらうろ覚えなクッキーの作り方くらいで、でも、チョコレートは手に入らなかったからなぁ・・・。
そんなことを思っていると、ウロボロスが軽く街の説明をしてくれた。
「ここがアルソート、不帰の森から一番近く、冒険者も多い街です。ここより大きな町になりますとまた暫く歩かねばなりません。ですが、不帰の森は冒険者らにとって格好の猟場でもあるため、馬車などもありますので便利ですよ」
「あそこには人が近づかないのではなかったのか」
そういえば、人が近づかないって言ってた気がする。
だからこそ騎士さんに会うまで誰にも合わなかったわけだし。
あ、でも、思い返してみるとこんな深くにとかいってたから、私が住んでたところは森の中腹ぐらいっぽいのかな。
森自体が結構な大きさだったし、もし奥に向かってたらドラゴンとかいたりして?
「普通の人間は、近づきません。ですが、申し上げたように魔物の落とす素材などは貴重なものですから・・・」
「金か」
「勿論、生半可な冒険者は足を踏み入れられません。ランクの低い者たちは森の手前が精一杯ですよ」
ということは、私のいた場所はお宝ダンジョン的な場所だったようだ。
強くて良いアイテムがゴロゴロしているが、一匹一匹がボスクラスっていう寄り道要素的なアレ。
冒険者たちがどの程度の強さかはわからないが、あんな場所に住み着いた私はそこそこやっていける強さだろう。
騎士さんだって結構な腕前だから瀕死とはいえあんなところにこれたわけだし・・・あれ、私が今まで誰にも会わなかったのって、本ッ当に、単純に運がよかっただけなんじゃ・・・・・?
それにしてもウロボロスは分かりやすく教えてくれる。
冒険者じゃなきゃ分わからなそうなことも。
ということはもしかして・・・。
「ウロボロスは冒険者だったのか?」
もしかしたら今までの情報は単なる一般常識だったのかもしれないけれど、こうも詳しく教えてくれるということはもしや?と訊ねてみる。
ウロボロスのガントレットに包まれた手に、いつの間にか銀色のプレートが収まっていた。
大きさは名刺サイズ。
見た目は唯のプレートっぽいけど、もしやこれはギルドカードというものでは?
「ギルドに入っていると便利ですので加入していました。俺はあまり依頼などをこなしたことは無いですが」
どうぞと手渡される。
表には名前が流暢な文字で記されていた。
なんだこれ、と思ったが何故か読める。
英語の筆記体ってやつに似ているようだ。
名前が・・・あー・・・うん、元の騎士さんの名前じゃなくて、今のソリュート=ウロボロスに変更されているや。
ファンタジーっぽく、これ自体も魔法的な何かで出来ているようだ。
裏面には数字が記入されていて、これは受けた依頼の回数らしい。
依頼に失敗すると印が付き、印が三個貯まるとランクを自動的に落とされるそうだ。
他にも、あまりにも悪事を働き続ければカードが取り消されたりと、一定のルールはあるらしい。
ウロボロスのカードに記された依頼数は五十数回と、多分、冒険者としては低いほうだろう。
「ランクとはどういうものがある」
「冒険者には加入するとプレートが与えられます。これは身分証明書代わりになり、一定の保証が付くのです。持ち主の実力や依頼をこなした数によりプレートの色が変わりますが、上から紫銀、金、銀、銅、赤銅、青銅とランクがありますね。俺は銀ランクですが、銅から赤銅ぐらいが一番多いランクでしょう」
おお、騎士さんはやっぱり高ランクだったのか!
でも待った。
銀プレートだ、といったけれど、どうもそれは違う気がしてきた。
返したプレートがウロボロスの手の中で銀色に黄が混ざって金色になり、だんだんと色が薄くなってほんのりと紫っぽい光を放ち始めた。
今やうっすらと紫の銀光を放つこれは・・・金の上クラス、紫銀ではないのだろうか?
「お前は既に紫銀のようだが」
「俺がですか?・・・ああ、主の温情により俺が【ウロボロス】となったことで能力値が上がり、ランクも上げられたのでしょう。主のお力ですね」
流石です主よ、と誇らしそうに微笑むウロボロス。
ちなみに、何人くらいが紫銀かという問いには、三人くらいでしょうか?と返された。
どういう人たちかと訊ねると、何でも伝説の勇者らだけが紫銀のプレート持ちだったそうで、今の世には紫銀持ちがいないそうだ。
今は最高でも金プレート持ちが四人いるだけなんだとか。
・・・ちょ、勇者魔王クラスだけが紫銀のプレート持ちってことか!?
改めて【ウロボロス】が凄い防具だったと実感しつつ、慌ててプレートを返す。
元の騎士さんで銀だったんだから、ステータスアップして紫銀クラスにも行くわな。
ますます私の身の安全は保証されたな、と思いつつ、私はどんなランクになるのだろうかと考える。
私のステータスが普通より低いのは間違いない。
ただMPがバグってて、魔力もちょっとおかしくて、単に引き継ぎスキルがある程度だから・・・私は銀くらいかな?
いやいや、ステータスは殆ど一桁だし、実は銅ランクというオチがあるかもしれないから期待しないでおこう。
そんな風に自分がどんなランクになるのかと考えてちょっとうきうきとしてしまったが、ウロボロスにギルドについての詳細を聞いていくうちにテンションが下がっていく。
亜人種は、冒険者ギルドにほとんど存在しないのだそーな・・・。
亜人種が少ないから、というワケではなく、ただ亜人と呼ばれる人間以外の全ての種族は奴隷扱いされていて、冒険者になれるのはその極僅かな一握り。
その一握りの彼らも、血と汗の滲むような中、蔑まれながら頑張っているとかで・・・ゲームではそういう設定がなかったはずなのにとは思うが、先ほどから会話の端々に違和感を感じていた。
ゲームでそういう設定あったっけ?というようなものが、ウロボロスからいくつも語られている。
なんかおかしい。
これは、そう、麦茶だと思って飲んだのがめんつゆで、しかも飲めないほどまずいわけじゃないから飲み込んでいいかわからないっていうような、微妙な感じだ。
もしかして、これってゲームじゃないんじゃ?という考えがよぎる。
いやいや。
どこからどうみてもここはゲームの世界だ。
勘違いなんだと自分を無理やり納得させる。
いやこれもきっとゲームがそういう設定にアップデートになったんだ、うん。
覚えた魔法は使えるし、言葉も通じる。
だからこれはあのゲームの中なんだと自身を落ち着かせて気分を切り替える。
亜人の肩身が狭いなら、今のウロボロスの正体がバレたら危ないかも。
だって半分は人外だし。
まあ私は全部人外だけど。
「主、如何されました?」
急に立ち止まった私を心配するようウロボロスが顔を覗いてくる。
道の真ん中で立ち止まったせいで周囲の人々の視線が痛い、というのに気付き、慌てて道の端に寄った。
いや・・・黒くて胡散臭い細長いの(私)と、立派な鎧のでかいの(ウロボロス)が居れば注目もされるか。
「・・・ヒトの多さに圧倒されただけだ」
「そうですね、ずっと歩き続けでしたし疲れもたまっているのではありませんか?先に宿を取ったほうがいいのでは」
今は昼前だから宿は空いているけれど、もう少しすれば混むらしい。
いい部屋を取るなら今のうちに取ったほうがいいですね、とウロボロスが周囲を見渡した。
宿といわれても、寂れたモーテル的なかび臭そうな部屋に、ベッドに虫がいそうな所はいやだ。
それくらいなら外で野宿したほうがいい気がする。
そう思う私とは裏腹に、いつの間にかウロボロスは進路方向を決めていて、こっちですと案内される。
「お前はこの街には慣れているのか?」
「俺は旅をしていましたのでこの街だけではなく旅全般に慣れています、主よ。この街自体は二、三度来た程度ですが、主ならばあちらの宿がよろしいかと」
到着したのは、ごちゃごちゃとした街の中でも一際清潔感のある、見るからに高そうなホテルだった。
宿ではなくホテルである。
流石に低い建物ばかりなのでその建物自体も精々二階建てという高さだが、他に比べて大きく、白い石で作られた建物は丈夫そうで綺麗な外壁をしていた。
「ならばそれで構わん」
「あの宿は食事も一級品だそうですよ、主」
「・・・早く行くぞ」
「はい!」
先ほどまでの沈みがちな思いはどこへやら。
ホテルのような宿に泊まるということで一気にテンションが上がる。
しかも更に食事がおいしいとか、期待は膨れ上がる一方だ。
それをなんとか隠しつつ、少しばかり足早に本日の宿へと向かった。
ついた先はやはり・・・ホテルでした。
内装は派手ではないがシックに落ち着いていて、いざとなったときの避難所にもなるようこの宿は特別丈夫に作っているのだそうだ。
一階は上品なレストラン。
地下、二階が宿となっているらしい。
不帰の森で手に入れた高級食材を他よりも新鮮なまま提供できるとかで、このレストランだけでも有名なんだそうだ。
いわゆる五つ星レストランのような扱いなんだろう。
そ、それはぜひとも食べてみたい。
引きこもりで自炊生活の私には久々、この体になってからは初めて外の料理を食べれるのだ!
喜び勇んでカウンターに向かう。
ポーチの中の現金は、このホテルと食事がン百万と言われても何日かはどうにかなるほど残っている。
これだけあれば今日くらい贅沢できるよね!とテンションが上がっても仕方ない話だ。
しかし、大問題が発生した。
・・・私のお金、使えないみたいでした。
ホテルの受付カウンターで取り出した金貨がぎっしり詰まった小袋に対して、受付さんが困ったように眉を下げている。
ちょっと引きつった顔のようにも見えるのは気のせいではない、はず。
「お、お客様、申し訳ございませんが当店では古代遺物でのご清算が出来ません。ギルドなどにて換金していただいてからのご来店をお願いいたします」
「使えない、のか」
私が出したのはゲーム内で普通に流通していたGだ。
お金が足りませんとかいった言葉ではなく、古代遺物なので使えません、と来た。
こ、古代遺物?
古代遺物って何だ!?と軽くパニックになる私だったが、とりあえずお金は使えないのだけは確かだ。
こんな所に来てそんな事が発覚するなんて!
うっわ恥ずかしい。
レジ前で財布の中にお金が足りないって、どれだけ恥ずかしい事態か!!
愕然とする私に代わるよう、ウロボロスがギルドカードを提示して何かをしている。
一泊で、と言っているのを聞くと、今日の宿代を払ったようだ。
どうやらギルドカードはお財布機能もついているようである。
便利だなぁ、ギルドカード。
是非ともほしいものだ。
人間じゃないけどギルドにダメ元で行ってみようかな・・・とか混乱している間も上手くウロボロスが纏めてくれ、何とか部屋に辿り着くことができた。
着いた部屋でこれまた度肝を抜かれる。
部屋はスイートルームとでも呼ぶような立派なものだった。
絨毯が敷かれた室内は清潔で、ここは一流ですからねとウロボロスが教えてくれる。
どうやらこのホテル自体、かなりグレードが高いようだ。
その中でもこの部屋は、上級クラスが使用するような部屋なのは間違いない。
だってキングサイズのふっかふかのベッドがででん、と鎮座しているほどなのだから。
そんな高級そうなベッドに腰掛けて、ため息を吐き出す。
取り出したのはゲームでは普通に何百万、何千万単位で必要だったG金貨だ。
ぴんっと弾き飛ばした金貨を上手い具合にウロボロスがキャッチする。
「・・・ウロボロス、これは、古代遺物になるのか」
「そう、ですね。これほど綺麗な状態の遺物はあまりお目にかかることがありません。ギルドに持っていけばこれ一枚で10金貨になるかと」
私のお金が10金貨とか・・・多分、古代遺物とか言われたのを考えると、元の値段より上がったんだろう。
単純に考えてもこれ一枚が10枚分になるのかもしれない。
一枚が10枚とか、どんな錬金術なんだ?とか、あれこれ考えているとなんだか笑えて来た。
結局、私の置かれた立場は変わっていない。
ただゲームじゃなくて、異世界だったってだけの話だ。
そう、ここは異世界だってことを、いい加減私は認めなきゃならなかった。
今までなんとか誤魔化していたが、とても致命的な・・・お金が使えないとなると受け入れるしかないだろう。
気のせいだろうと思っていた聞いたことの無い地名とか。
やたらと普通の武器に珍しがられたりとか。
もしかして、と思っていたがそのまさか。
・・・私が今まで考えたくなかったのが答えだった、ということらしい。
初めはゲームのキャラになり、男になって、次に人間を止め、今度はゲームではなく異世界というオチである。
三段オチ、いや、四段オチだ。
あーもう!と、ぐしゃぐしゃと頭をかき回すとウロボロスが慌てたように手を押さえた。
ぼさぼさ頭の私に対して、おろおろとしながらも手櫛で直そうとしてくれる。
いや、ちょっとそのガントレットが痛いんですが・・・まあ折角の気遣いが嬉しいよ、うん。
ちょっぴり私のHPが減っているのは気のせいではないだろう。
けれどウロボロスの焦りっぷりに気が抜けてしまって、何だか悩んでいるのがばかばかしくなってきた。
私が否定しようが肯定しようが現状は変わらないんだし、さっさと受け入れる事にしよう。
私は男だし、人外だし、異世界に居る。
OK、とっても簡単なことだ。
ふうと目頭を揉み、間近にあるウロボロスを引き離す。
主に情けなく垂れ下がった眉とか少しばかり潤んだ青銀色の瞳とかで、折角のイケメンフェイスが残念なことになっていた。
けれどそれでもイケメンはイケメンって凄い。
悲壮そうな顔でも似合うものなんだなぁ。
「あ、主、どうなさいました?俺でよければなんなりと御申しつけ下さい」
「説明を、求める。・・・金貨の価値が分からない」
おどろおどろしい雰囲気を纏う私に戸惑いつつも、ウロボロスは迷う事無く頷いた。
世界観とかはどうでもいい。
そんなもん耳にしたって私のことだ、右から左に聞き流すに違いない。
欲しいのは一般常識だ。
だって、ウロボロスが私の取り出したもので今まで散々驚いていたのは、私が取り出したものが全てこの世界では超が付くレアものばかりだったからなのだろう。
贔屓目なしにしても。
ゲーム中では武器屋で売っていたコールドペインが国宝級とか言われた。
ありふれた市販武器のシルバーソードですら何だか評価が高かった。
これはウロボロスから「この世界の常識」を教わらないと、危険な気がする。
ガチで。
「ギルドのランクと似た様なものです、主よ。一番安い通貨が青銅貨、これ一枚でなら花を一本買うくらいでしょう。大体は青銅貨三枚でパンを買ったりですね。次が赤銅貨、一枚で一日を満腹で過ごせます。銅貨、これと赤銅貨が一番一般では流通しているほうだと思います。銅貨が一枚で一家族がその日満腹になるでしょう。銀貨、これは平民が一年に三枚手に出来るかというものです。金貨、この辺りになると富裕層くらいしか持っていません。水晶貨は金貨の百倍の価値がある通貨で、市民は見ることすらないでしょう」
簡単な解説を交えて教えてくれるが、とりあえずこの世界の物価が低そうだ、というのだけは分かった。
よし、頑張って分かりやすく考えよう。
簡単に解読すると、青銅貨っていうのは多分一枚十円くらいだ。
三枚で三十円なら分かる。
パン一つ三十円ってのも、小さいパンならありえる値段だ。
赤銅貨がその上で、一枚百円。
銅貨はその上で、一枚千円。
銀貨はその上で、一枚一万円。
金貨で十万円。
水晶貨なら・・・一千万でお金持ち。
さて、思い返そう。
ゲームでの通貨はGだった。
まんま呼び方はゴールドで、一個一個が金貨になっている。
多分まじりっけなしの金だ。
それが一枚10金貨になると言われました。
この世界の物価が安すぎだとしても、今の私の手持ちはゲーム内での「引き継ぎ」の効果もあって・・・約3000万ほど持っている。
ゲームの中ではこれでも普通か少なすぎる金額だ。
金貨一枚10金貨、つまり百万。
100掛けるの3000万枚で、単純計算しても・・・さんおくえん?・・・・・さんちょう・・・・・・・ダメだ、ゼロが多すぎて目が滑る。
とりあえず私、大 金 持 ち?
「主・・・あるじ?主ーーー!?」
手にした金額の重さに、一般市民の私は気が遠くなっていったのでした、まる。
ちなみに。
シルバーソードは一本3万G。
コールドペインは売られているときに追加されている数値によって金額は若干変動するが、約15万G。
この世界ではシルバーソードですら超が付く高級品。
コールドペインなら一億越え?
いや、それ以上?
・・・なんて恐ろしい物価の違いなんだろう。
身に着けているものの価値を考えると、今の私はカモネギなんじゃないかと背筋が凍った日であった
騎士さんは通常運行。
マガツは軽く混乱状態。
騎士さん自体も無駄遣いをしない性質なので、そこそこ小金持ちだったりする。