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番外◆アルソートの異変 編◆



アルソートの街は、降って湧いたあの天災からなんとか復興しつつあった。

突如街に現れた巨大な魔物。

その巨体はドラゴンにも引けをとらぬ大きさ、外殻の硬さも天然の装甲として十分厄介、さらに斬り付ければ毒とともに瘴気を撒き散らす。


そんな危険きわまりない魔物が暴れる中、突如として街全体が冷気に取り囲まれた。


逃げる中、魔力を感じ取る能力の強い魔術師たちだけがあることを感じ取っていた。

街全体を凍らせるほどに強大な魔力が、この吹雪が吹き荒れる直前まで全く存在していなかったことに。


つまりこれは魔力を練って作り上げた「魔法」ではないのだ。


かといって幾ら涼しい季節になってきたとはいえ、温暖な気候であるアルソートを突然襲った吹雪を自然災害と言い表すのも違っていた。

逃げながら街の住人が遠巻きに見た光景は、白銀の世界の中、あれほど暴れ狂っていた魔物が抵抗もせず消えていくものだった。




あれから数日。




氷自体はそう手を施すまもなく、日光の暖かさだけで解けていった。

だが街全体が凍っていたのだ。

溶けた膨大な量の水が、ただでさえ痛手を負っていた街を更に痛めつけんばかりに侵食しようとしていたが、そこは魔術に長けた魔法使いたちによってなんとか排除することに成功していた。

幸いにも、あの魔物が手ごわく、防衛に徹したことと、無茶をせず撤退に応じた魔術師たちの消費が思ったほど激しくなかったのが功を奏した。

とはいえ、爛れた地面を見れば死者が少なかったことは奇跡と言い表すしかない。

石が溶けるほどの強酸となれば、人間が触れればひとたまりもないのだから・・・。


あれだけの天災と呼ぶしかない異変に告ぐ異変の中、死者はたったの「三人」しかいなかった。


勿論けが人は多数でた。

だが凍傷や、しもやけになった程度か、逃げる途中に負った傷程度で、命に係わるほどの重症を抱えた人間は居ない。

その三人は何故か亜人区域の程近いところにてほとんど同じ場所で発見された。

そのため、あの巨大な蟲のようなバケモノはここから現れたのではないか、と噂されるようになっていた。


なにせその細い路地裏には十メートルほどの「何か」が居た痕跡が残っていたのだから。


大きくひしゃげた地面。

何かがめり込んだかのような左右の壁。

遺体は残っていなかったが、血溜まりの中に落ちていたギルドカードと血痕の量からして、生きてはいまいという結論だった。

亡くなったのはマーカス兄弟らしく、残された血痕は三つ。

銅ランクとはいえ三人でつるむ彼ら兄弟の強さは、卑怯な手に目を瞑ればそれなりのもので、良くも悪くも有名だった。

まあ、どちらかといえば悪い意味で、だが。


街の者たちはあの柄の悪い兄弟がどこぞで手に入れた怪しい古代遺物で魔物を呼び出したのではないか、という噂をしていた。


かの兄弟は得体の知れないものをこれ見よがしに手にしていたこともあるため、それは信憑性の高い噂だった。

柄の悪い兄弟が魔物を呼んだ、というのはあながち間違いでもない。

そして一部では、その日に新しくギルドに加わった新入りの魔術師から脅し取ったのではないか、という噂まで上ったのだ。


確かにその日、奇妙な新入りが加わっていた。


それを知るものは、当然ながらマーカス兄弟以外にも何人かいた。

人通りの多いギルドという場所だけに、奇妙な新入りの存在は何人かの記憶に残っていたのだ。

容姿は知れないが、才能がないことをあらわす黒いギルドカードを持った魔術師の存在は段々と異質さを感じさせた。

落ちこぼれかもしれない魔術師。

魔術師ならば魔具を作ることもあるだろう。


そしてどんな現象であろうと、魔術師が作り上げた魔具ならば「何でも起こりえた」のだ。


もしかすると魔術師の作った出来損ないで、見知らぬバケモノが呼ばれただけならまだ良い。

効果が切れて送還できたのだろうと予測できるからだ。

だが、もしその魔具が未だ街に残っているとしたら?

あんなバケモノが未だ現れる可能性があるとしたら?

ギルドがそれを確かめようと動こうとした矢先、ある者がこう零したことから全ては一転する。


「亜人があいつにたてついていた。もしかして亜人共が何かしたんじゃないのか」と。


ごろつきといっていいマーカス兄弟に逆らう亜人は居ない。

特に、出入りの激しいこの街を気に入り、何かと入り浸っていたあの兄弟の怖さは、殆どの亜人が知っている。


近づくな。

係わるな。


少しでも目を付けられれば痛い目に合うことを知っているため、亜人区域に住む者たちは彼らに近づこうとはしなかった。

亜人たちは、ただ静かに暮らしていたかっただけだ。


だが、その数日前に揉めた光景を、何人もの人々が見ていた。


そしてこの世界において、亜人に対して排他的な考えもまた、強かった。

亜人といえば単なる労働力。

そう考えている人間も多く、酷いものでは家畜だと呼ぶものも多い。

そんな中、噂が捩れていく。




―マーカス兄弟が何かをしてバケモノを呼んだ。

―いや。

―亜人たちがマーカス兄弟を贄にしてバケモノを呼んだ。




そう捻じ曲がるのに、時間は掛からなかった。











この世界において、どうしようもない格差、というものがある。


生まれは選べない。

格差は縮まらない。

差別は消えない。


しかし、「彼」にとってそのようなしがらみなど関係が無かった。

なにせ彼は異邦人なのだから。











アルソートの街にて亜人狩りが始まったのは、マガツが街から脱出して十三日目のことだった。




どう転んでももう後戻りできないところに進みつつあるマガツさん。

のほほんしている間に街ではとんでもないことになってました・・・。


死して尚やっかいごとを残すゲス兄弟、マジでゲスい。

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