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こんの居候共が!家賃徴収すっぞこらーーー!!

あけましておめでとうございます。

ちょっと書き足したら増えたので、前に割り込み。


ある意味、完全にオマケです。






私のうっかりのせいで魔窟(いっそダンジョンといったほうがあっているかも?)と化しつつある地下五階は、ひそりと静まり返っている。

せいぜい聞こえるのは私が手にした本のページを捲る音くらいだ。

耳を澄ませば重厚な響きのあるクラシックが流れていることに気付けるだろうけれど、流れている音楽は読書に集中したとしても気にならない音量で、とても居心地がいい。


読書に熱中すると時が経つのはあっというまだ。


それこそ、ちょっと放っておくと時間の感覚がおかしくなってしまう今の私は、ウロボロスが「ご飯ですよー」と声を掛けてくれなかったら、何年でも何十年でも私は引きこもっていただろう。

い、一応、ただ読書してるだけじゃなくて、これにはちゃんと理由が・・・あるわけで。


ゆらりと本棚の影からモンスターが現れる。


半透明で向こう側が透けて見える、霧のような何か。

ほのかに光る赤い燐光―多分、目だ―がじっと私を見つめていた。


― イビルシェイド。


精霊に属するスピリッツ系のモンスターで、ゆらゆらと揺らめく黒い霧のような姿を一目見て分かるように、闇属性の相手だ。

ほとんどの攻撃に耐性を持ち、そうでなくともある程度までのダメージを無効化する能力を持つ。

レベルは・・・私の五倍以上はあるLv48と、モンスターとしても結構な強さで、高レベル冒険者であっても弱点である聖魔法属性の武器でも持っていない限り苦戦する相手だ。

しかも耐性だけでも厄介なのに、攻撃を加えると分裂する特性を持つ。

戦えば戦うほど増えるイビルシェイドに、最初は単なるスピリッツ(厄介なことにスピリッツのレア種も同じく黒いのだ)か、と舐めていた冒険者が、最終的には大量に湧き出したイビルシェイドにフルボッコにされる・・・というのが脳筋プレイヤーなら誰しもが経験する登竜門だったりする。


・・・ちなみに、吟遊詩人のチロは幸いながら聖属性の武器ナックルを持っていたので、いい稼ぎ場とさせてもらったが。


イビルシェイドはそのやたらとハイスペックな耐性や特性を除けば、HP自体はかなり低い。

聖属性の魔法があれば、低レベルの聖職者(Lv20もあれば戦える)がタイマンをはれる程度には、おいしい相手だ。


けれど一撃で倒せないなら逃げたほうがいい。


そんな相手だ。

レベルがたったの9しかない私なら、当然ながら瞬殺されておかしくない。

本来なら召喚できるモンスターは同レベル程度なのに、こんな高レベルのヤツが召喚できちゃったのだって魔力の暴走のせいだし。

・・・まあ、サーチ&デストロイで、湧いた瞬間に蹴散らすんですがねー。

わざわざ書庫にて読書をしているのだって、コイツが隠れてるのをおびき出すためだ。


「全く・・・地下一階にはムキムキサイクロップスが跋扈してむきむきナンバーワンを決めるためにトーナメントを始めてるし、地下二階にはヘルハウンドがわんさと巣を作って動物王国を建設しつつあるし、地下三階には勝手に繁殖してるドライアードとエルダーエントが勝手に地下庭園つくりかけてるし、地下四階にはどこからか出てきたクリスタルドラゴンが住み着いて宝物庫にしてたし、地下五階でこれか・・・イビルシェイドの巣なの?というか、こいつの態度からして人ん家をダンジョン化させてたのってこいつっぽいよね・・・」


はぁ、とため息をついて手にした本を閉じる。

こいつを待ちながら休憩したっていいじゃない。




なにせ地下五階に降りるまでも大変だったんだから。




何度かちょろちょろと覗いていたため、ある程度はモンスターの数や状況を把握しているつもりだった。

本当に「つもりだった」と気付いたのは、地下一階に下りてすぐに気づいた。

・・・だって地下一階、元は生活区域として機能していた場所が大きく様変わりしているのである。

大きなキッチンや十人でも入れる広い風呂場、小さなカジノまで取り揃えた娯楽室、小さな釣堀、公園、その他くつろぎスペースがあったはずの場所が、いつの間にやらプロレス会場になっていた。


いや、自分でもなんでこんなことになっているのか分からない。


元は娯楽室として広く取っていたダンスルームの跡形も無く・・・今、私の目の前に広がっているのはプロレスなどで見かける四角いリングへと変わってしまった奴らにとっての娯楽場=闘技場だった。

地下一階でトーナメントを繰り広げていたサイクロップスたちは、魔法なんぞに負けん!と勝手に息巻いている。

なんというか、勝手に人ん家を一大娯楽場にしやがったこいつらを懲らしめてやりたい。

懲らしめたいが、ムキムキのサイクロップスたちを見ていると、やる気が殺る気になりそうだった。


なので、ウロボロスを召喚する。


彼らが立ち退きに出した条件はたった一つ・・・俺たちを負かしてみろ、というもの。

私が魔法を使って倒すことはできたとしても、何度も何度も湧いて出てくると面倒だ。

こいつ等のやる気を肌で感じる限り、納得するまで根性で湧いてきそうである。

肉体言語で語り合ってもらった結果、サイクロップスたちはウロボロスを「兄貴!」と慕ってしまった。


考えてみて欲しい。


角を含めず三メートルはあるムキムキの・・・これでもかと鍛え上げられた肉体を持つサイクロップスたちが、ウロボロスを兄貴と崇め、慕う。

暑苦しい。

とてつもなく暑苦しい光景だ。

そして勝手に合宿所を建設したのには驚いた。

・・・まあ、うん、私の地下エリアに住みつかないならいいよ。

ウロボロスのとこも広いしね、うん。

兄貴親衛隊とか見てないから。

こっそり主をお守りし隊、なんていうのも見てないから・・・うん。


地下二階に住み着いたヘルハウンドたちは、見た目は黒と赤のツートンカラーの犬だ。


地下二階は火山である。

溶岩の流れるごつごつとした岩場と、崖と、ごく一部に草原。

草原の一部では一面花の咲き誇る綺麗な場所があり、私の憩いの場だった。

主にピッケルで鉱石を掘るのに使っているフロアだったのだが、そこが今では「ワンワン王国」と化している。


ヘルハウンドは大きさはライオンくらいとちょっと大きい体躯の、火を吐く以外はいたって普通の狼である。


居心地がいいのか、小さな子犬にしか見えない、明らかにここで産まれただろ!?な仔ヘルフハウンド含めれば多分20匹近い。

これもまたウロボロスを背後に従え(その背後にムキムキサイクロップス×10がイイ笑顔で並んでいたが)、丁寧にお話した結果、めでたく番犬ならぬ番ヘルハウンドになってくれた。


うん?その手にあるマドレーヌはなんでもないよ?


おいしいものはみんなで分け合いたいよねー。

しかし、ご主人ご主人たまにオヤツをくださいな!という可愛いお返事に、私は喜んでクッキーやマフィンといった甘味を大盤振る舞いをしたのは言うまでもない。

モフらせてくれたし。

ちょっとゴワゴワだったけど手入れをすればきっとモフモフだ。

よし、なんちゃって山羊さんをもっと繁殖させて、この子達のオヤツを作ろう!

山羊ミルクでチーズも作ってチーズケーキもいいな~。

そして一週間に一回は全員お風呂に入れてブラッシングを!!

そうして私は可愛い番ヘルハウンドを手に入れたのだった。

(※ちなみに、実際の犬にお菓子を上げてはいけません。彼らはモンスターだから問題ないけど)


地下三階は全体的に薄暗く、森の奥、のイメージで作った場所だ。


主に生育の難しいハーブ類を育てるのに使っている場所である。

地下三階に住み着いたドライアードとエルダーエントは樹の人といった風貌だ。

まあモンスターなんだけどね。

性別によって種族が分かれており、ドライアードが女性型、エルダーエントが男性型、なのだが・・・ゲームではドライアードは薄い緑の肌をした女性といった姿だ。

彼女らは濃い新緑色の髪を持ち、頭部からは花が生えている。

エントはドライアードとは違い、樹に人の顔がある、見るからにモンスターといった姿だった。


そう、”だった”のだ。


なのに何をどうやったのか・・・エルダーエントもドライアードらと同じく、薄い緑の肌をした男性といった感じである。

男である彼らには花は生えておらず、角のように枝が伸びていた。

彼ら樹の一族は、葉で作った服を身につけ、密やかに、平和そうな集落を作っていた。

ここが私の家のワンフロアでなければのどかな光景だ。


・・・これ、壊したら私ちょー極悪人じゃないかな?


いや、もうとっくの昔に極悪人だけどね!

とくに荒らすことも無く住んでいる彼らを狩るのは、私のちっぽけになった良心にも流石に響いた。


なにせ上二つのフロアだってなんだかんだで和解しているのである。


こうなれば交渉して出て行ってもらうしかない。

彼らは喋る設定のあるモンスターではないため、喋ることこそなかったが、知能は中々に高く、ここより外のほうがいいよ?と軽く説得するとすぐに納得してくれた。

肥料なんかも提供するから畑を見て欲しい、というと、喜んで受け入れてくれたほどだ。

結果、超凄腕の庭師&専属農家を手に入れた気分である。

なんだか棚ぼた形式で進んでいて、今まで足を向けなかったのを後悔したほどだ。


・・・で、なんで私がずっと足を向けなかったのかと言うと、地下四階に住み着いたヤツのせいだ。


一番問題なのは勝手に人ん家に湧いて出てきたクリスタルドラゴンの野郎である。

クリスタルドラゴン―水晶竜―は、文字通り、水晶で出来た竜だった。

魔法に対して完璧な耐性、というか魔法を反射する特性をもち、明らかに私と相性が悪い。

確かゲームでのレベルは・・・クリア後の高レベルダンジョン(敵の平均レベルが100くらい)に出てくるレアモンスターで、ランダムでレベルが変わるけれど、多分Lv128くらいじゃなかったかな?


うん、桁が違うよね。


それに加えて魔法反射、物理耐性大、これを知っているからこそ敵う相手じゃないのが分かる。

だから地下一、二、三階をこそこそと偵察し、四階に来た時点で「あ、これムリだわ」と退散したのだ。


だって私、魔法使いだしね!


その頃は騎士さんいなかったから、前衛いなかったし。

・・・でも、今はウロボロス&オマケ(サイクロップスたちだ)がいる。

しょんぼりする私に、何があっても俺が主を守りますよ、と眩しい笑顔を見せてくれたウロボロスのお陰で、私はクリスタルドラゴンの前に進むことができた。


地下四階は宝物庫兼寝室・・・だった場所だ。


私がつくったガラクタとか、レアアイテムとか、見た目が気に入った武器防具を保管している場所だったのだが、コイツがいるお陰で私は地上一階にてソファを定位置とするハメになったのだ。

宝物庫のなかでも鉱物類を集めたキラキラと眩しい部屋に、そいつはいた。


・・・でかっ!体長5メートルはあるんじゃないのコレ!?


元々宮殿風にしてあった宝物庫の中央にそいつはどっしりと構え、巣を作っていた。

水晶でできた体の下には、金銀財宝が積まれている。

その大半は間違いなく私の私物だ。

ってかなにこいつ、人ん家に勝手に住み着いた挙句、人のもん勝手にちょろまかしてないか!?

おい、勝手に漁ったのか・・・(レディー)の寝室を!


しかもそれだけではない。


・・・そいつが敷き布代わりに使っている光沢のある不思議な色合いをしたローブは、レベル制限のせいで私が装備できない、超レアアイテムだ。

運よくドロップしたはいいものの、職業制限でチロは装備できず、いつか来る日のためと大事に大事にしまいこんでいたソレは・・・神級防具の【久遠なる深淵衣(エタナティ・アビスクローク)】(装備Lv80)。

わなわなと怒りに震える私に対し、虹色の瞳を向けたドラゴンが微笑んだ。


『これはこれは、異なる世界の禍津神の一端よ。そなたの住処は心地良いな。我の宝具も心地よいと輝きが増しておるわ』

「・・・・・・・人ん家に勝手に住み着いて、挨拶がそれ?」

『せせこましい事を言うものよなぁ、若き禍津神よ。もっと寛大に振舞うがよかろ。我が居るのは喜ばしいことぞ?この場を我に提供するというのならば、鱗をくれてやらんでもない』


ぷち・・・


『ああそれにな、そなたには着こなせぬこれをしまいこむには惜しいものではな・・・』


ぶっちん・・・!


「いう事に欠いてそれなのアンタ!?」

「あ、主?」


なんというか、腹に据えかねた。

こういう相手は苦手だ。

なのにこの上から目線に、偉そうな態度、人の物を盗んだこと、まだ装備もしていないレアな防具を勝手に敷物にされていたこと、そのすべてが私にとって「敵」と見なすには十分すぎるほどだった。


ちょーーーっとオシオキしてやろう。


高レベルがなんだ、魔法反射がなんだ、私には有り余る魔力(MP)があるじゃないか!!

時には質より量が勝ることもあるはずだ、きっと。


「・・・スキル【三重詠唱(トレブルスペル)】発動・・・【虚無なる威光】!!!!!」


私が知りうる限り最大級の攻撃魔法を詠唱する。

同時に三重詠唱のスキルを発動させると、本来は一つしか発生しないはずの魔法が三つ発動し・・・左右と頭上に揺らぐ光が現れた。

つい最近習得したのだが、これを発動させると、一度の詠唱で三回魔法が発動するのだ。

このスキル自体は使用回数が定められているが強力なのは間違いない。

それに、今私が唱えた【虚無なる威光】は魔法だが、反射の無視及び防御貫通というありえない能力を持っている。

この防御というのは魔法防御力も含むのだ。


だがそれでも魔法は魔法。


効果は薄いかもしれない、と使わなかったが、流石にコイツの態度には腹が立った。

大体、レベル9がレベル128に攻撃したところで大したことにはならないだろう。

もし返り討ちにあったとしても多分復活できるし。

一度の詠唱に必要なMPは500と普通の魔法使いであれば一度唱えるだけで魔力が枯渇するほど膨大だが、バグった私にとってはその程度のMP消費は痛くも痒くもない。

唱えながら、無理やり魔力を詰め込んでいく。

普通は範囲を広めたり、威力を上げるためにするが、今回は後者だ。


有り余る魔力をこれでもか!と捻じ込む。


魔力が高まるにつれ、キィィイイイン、と響き渡る耳障りな高音。

今にも破裂せんとばかりに張り詰めた魔力が部屋の中を荒れ狂う。

私を庇うよう立ちはだかるウロボロスが目を丸くしていたが、部屋に立ち込める魔力の強さに、波打った【ウロボロス】がしゅるりと流れる銀へと変わり騎士さんの体を包み込む。


それとほぼ同時に、私は最後の一小節を唱え終わった。


クリスタルドラゴンの、大きく見開かれた虹色の瞳はキラキラと綺麗だった。

・・・私の物を盗ったりしなきゃ、仲良く出来たんだろうけどねー。


「・・・・・朽ちろ、盗人」

『待て、それは如何な我といえ、ど!?』


ふわりと舞うように流れる【虚無なる威光】は吸い込まれるようにクリスタルドラゴンの元へと飛んでいった。

待てといっておろうが!という声が聞こえたが、しらんがな。


ぷいっと私が顔を逸らした瞬間、どっごぉおおおおおん!!!!と強烈な風と閃光が吹き抜けた。


くっと両手で顔を覆い、腰を落としてウロボロスがその衝撃を耐えている。

その後ろにしがみつくよう居る私だったが、衝撃などを一切防いでくれたウロボロスのお陰でいたって無傷だ。

それでも吹き荒れる魔力により、ばたばたとローブが激しくばたついた。

少しすれば、ぱらぱらと鉱石や宝具だったものが降り注ぐ。

光が落ち着いた頃には、透き通るような色がまるで磨り硝子のように色あせたクリスタルドラゴン・・・いや硝子ドラゴンがいた。


『まてと、いうた、ろうが・・・』

「人ん家に来て、勝手に荒らした人・・・ドラゴンなんてしらないしー。これ以上ヤルナラ、・・・本気デ、ヤル」


ビキビキという音に、私の体に掛けている魔法が解けそうなのが分かる。

怒りで解けるとか、あんまり経験したくない体験だ。

どっちかというと私温厚だし。

どーせそんなにダメージうけてないんでしょー、とむすりとしながらいえば、いやいやこの状態を見ろ!とヒビの入ったドラゴンがいった。

どうやら思った以上に効き目はあったようである。

おお、魔力も籠めればなんとかなるもんですなー。


「主、あれは、危険です。この距離では主にもダメージがあるのでは・・・ないでしょうか」

「でも・・・人の物を盗むのは、許せない」

『分かった、我が悪かった!!次を喰らえば我の命が尽きるわ・・・。つ、罪滅ぼしに、そなたの宝を手入れさせてはくれんか?そなたときたら宝を放置し、こなたが寂しがって居るように見えるのだ、我には』

「・・・」

『て、手入れと、我の鱗でどうだ。魔術師であれば水晶竜の鱗と聞けば喜ぶ一品ぞ?』


どう聞いても命乞いである。

じとーっと睨み付けていると、それだけではダメだと思ったのか、更に取引材料になりそうなものがないかとドラゴンはきょろきょろと視線を彷徨わせた。


『そ、そうさな。さらにココを水晶で作り直してもよいならば、我が手入れしよう。水晶宮はどうだ?そなた、美しいものに対する目は確かなようであるし、そなた好みの宮殿を作ろう』

「・・・じゃあ、そうしてくれ」


あからさまにほっとした様子のドラゴン。

まあ、うん、水晶でできた空間にいるクリスタルドラゴン・・・なんて幻想的でいいよね!

周りを住んだ湖とかが囲っていたら、更にいいね。


そんな幻想的な光景を思い描いた私は渋々頷く。


ちょっと素直になった今のドラゴンなら、居てもいいかもしれない。

いそいそと体の割に小さな前足でお宝の破片を拾い集めている姿に、やっぱりお宝が好きなんだなぁ、と分かる。

その拾う手付きが一々優しいのだ。

が、釘を刺すのは忘れない。


「私の部屋には、許可無く入らないこと。・・・下敷きにしているソレは、返すこと」

『む、無論だ!』

「あと、ここにあったのは私が後で直しておくから、好きなように展示してみて。基本的に管理は任せるけど、勝手に盗らない事」

『こ、心得ておる!』


それならいいか、と、ごそっと減った・・・はずのMP以外の疲労感を抱え、私は下に降りてきたのだ。




そんな事があれば、疲れるのも仕方ない。




まあ結果として、出てきたのはイビルシェイド一匹。

ご飯の支度をしてきますね、と離れたウロボロスはいつでも呼び出せる状態だけれど、こいつ相手なら別に私一人で問題ないだろう。

減っていた魔力も時間の経過とともに回復し、万全の状態だ。


他の階とは違って、ここ地下五階は一切荒らされた形跡がなかった。


地下五階は書庫だ。

私が持っていた本や、せっせと書き写した魔道書などが並んでいる。

あと、曰くつきのモノとか。

歩くものの居ない床には埃が積もっているけれど、不思議なことに本棚には一切埃が積もっていなかった。

・・・もしかしたらこいつが掃除してた、とか?

イビルシェイドがそこまで高い知能を持っている、なんて設定あったっけ?


・・・いやいや、ここはゲームじゃない。


ゲーム中ならそういうものだった、という常識は通用しないのだ、今の現実には。

サイクロップス然り。

ヘルハウンド然り。

姿の違うエントら然り。

もしかするとこのイビルシェイドは突然変異で知能があるヤツなのかもしれない。

顔を上げた私はソイツを見る。

ソイツもじっと私を見る。


「私の名はマガツ。ここの本の持ち主だ」

『・・・本』

「そう、色んな本があっただろう。全て私の持ち物だ」

『・・・スゴイ』


ぽつぽつとではあるが、驚いたことにこのイビルシェイドは会話ができた。

つたないが、会話できるだけの知能を持っているらしい。

それになんというか、上のちょっと調子乗ったドラゴンよりも、断然話が通じるのが好印象だ。


『本、オモシロイ』

「そうか。どれだけ読めた?」


ひょろりとした、半透明で黒い枯れた枝のような腕が一冊の本を手に取る。

ぺらりと捲り、本の半ばほどで指を突きつけた。

ここまで読めた、ということらしい。


『スコシ。・・・ホンノ、スコシ』

「ならゆっくり読むといい。ああそうだ、そのまま掃除もしてくれるなら、好きなだけ居てくれて構わないぞ」

『オイダサナイ?』

「キミが出たいなら、出て行くといい。私は追い出さないよ」

『・・・スンデ、イイ?』

「キミが望むなら」

『ウレシイ』


赤い目を点滅させる姿にかわいい!と内心もだえた。

・・・こういう生物、好きなんだよねー。

【ウロボロス】だってそんな思いで作った部分もあるのだ。

流体金属だったりするのはその名残である。

まあ、【ウロボロス】には確かに自我が芽生えていたというのだから、私の魔具制作も着実に目標へと近づいているわけだ・・・ふふふっ。


『ミンナ、イイ?』

「ここを大事に扱ってくれるのなら、二十も三十も構わないよ」

『・・・百モ、イイ?』

「・・・いいよ、みんなで読むといい」


そんなにいたのか!?と思うがなんとか表情には出さなかった私の言葉に釣られて、あちらこちらの影からイビルシェイドが湧いて出た。

実体らしい実体がない彼らイビルシェイドだが、流石に百近くともなると・・・うん、圧巻だ。

あ、でもかわいいやっぱり。


『ソウジ、スル』

『ダイジニ、スル』

「ああ、大事に扱ってくれるのならば好きにしていい」


きらきらと赤い燐光を瞬かせる彼らに、なにこれ私のハーレム?と顔がにやけそうになるのは仕方ないことだった。

だってかわいいんだもん!!




ちなみに。




彼らの中にも外に出てみたいという個体は居るようで、百匹中三匹だけが旅立った。

一応、私が最初に会った個体が「核」となる固体だったらしい。

ある程度は意識も共有しているので、行く先々の情報を家にいる個体が受け取れるとのことだ。

書庫の掃除だけでいいとはいったのだが、恩返し、とばかりに彼らは家をピカピカに掃除してくれた。


・・・なんということだ、可愛いハウスキーパーができてしまった!


そんなこんなで、私は癒される充実した日々を送り、ウロボロスはサイクロップス強化塾を営み、外ではドリアードとエルダーエントが畑を世話し、その周りをヘルハウンドがちょろちょろと駆け回る。

なんとも和やかな日常があるのだった。

・・・え、あのドラゴン?

あいつなら不眠不休で水晶宮を作成中だよ?






さってと、そろそろ街の警戒も落ち着いたかなぁ、なんて呑気に自堕落的な生活をしていた私は馬鹿だ。






どうしようもない考えなしだ。

今ならそういえる。

・・・思ったところで、時間を巻き戻したりなんて出来ないけど。





サイクロップス男塾:受講生募集中!

我こそは、という男児、集まれ!!


ヘルハウンドのワンワン王国:増えます。


ドリアード&エルダーエント:農作業好きな方、大歓迎!

実は、エルダーエントはLv100近い強モンスターだったりする。


水晶宮:復旧中。

マガツの怒りに触れないよう、ちょっと自重を覚えたクリスタルドラゴンであった。


影の書庫:マガツのマガツによるマガツの為の楽園。

イビルシェイドらは着実に懐いている。

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