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飼い犬のしつけはキチンとしましょう

いつの間にかお気に入りしてくださっているかたが100件を越えていました、ありがとうございます!

何かとカモられやすい人外主人公と、真面目すぎる天然わんこ騎士ですが、これからもドタバタと続けていくので、よろしくおねがいします。


マガツさん、頭を抱えるの巻。





私偉い。

ちょー偉い。

いやね、確かに寒いと冬眠したくなるね~なんて話したよ、ウロボロスにさ。


ぷつっと意識が途切れて、目が覚めたら銀世界。


わあきれい、なんて思うのも束の間、目の前にはフル装備のウロボロスが悲壮な面持ちで仁王立ちしていた。

私の惜しみない愛情と魔力によって魔法に対する抵抗力はほぼ無効という寄生鎧の【ウロボロス】だけれど、騎士さんは生身だ。

寒さも暑さも感じる、普通の人間である。

なのに、コールドペインの道具効果「コールドストーム」を惜しみなく街中でぶっ放す姿に、気を取り戻した私は眼を真ん丸くしたほどである。

だってぽかぽかと暖かな日差しの街が一転して、雪が吹き荒れる一面銀世界になっていたのだから。

目を疑ってしまっても仕方ない。

常夏から極寒の地になっちゃったらね!

確かにコールドペインを道具として使うと発生する魔法効果は、氷属性の攻撃魔法を発動させるものだ。

でもだからってまさか、周囲一面に吹雪を呼べるほどのものとは思わなかった。


何せ・・・ウロボロスの上にもこんもりと雪は積もっている。


あと、私にも。

多分あのまま気を取り戻さなかったら、巨大魔蟲の氷漬けが出来たんじゃないかと思うくらいの寒さである。

間一髪、正気を取り戻した私、偉い。

寒さや暑さに関する感覚が鈍くなってた私でも寒いほど、周囲は冷え切っている。

つまり・・・このままじゃ周囲の人が凍えて死ぬんじゃね?ということだ。

そうと気付いた私は慌ててウロボロスの名を呼んだ。


『・・・ろす!うろぼろす、待テ、ダ!!』


むしろお座り!とも言ってしまいたかった。

立ち尽くしていたウロボロスが身体を竦ませた衝撃で、鎧の上に積もっていた雪がどさっと落ちる。

赤い燐光がぱちぱちと瞬き、私を見上げた。

もしかして騎士さんはウロボロスに吸収されちゃったのかなぁ、と心配になる私だったが、それは杞憂だったようだ。

ウロボロスの頭部―いわゆる兜だ―が半分だけ解除され、青銀色の瞳を潤ませた騎士さんが感極まった様子で私をまじまじと見つめていた。

鼻の頭とかちょっと赤くなってるけど、元気そうだ。


ちゃんと騎士さんも生きている、よかったー・・・。


ほっと安堵する私だが、ウロボロスは未だ半信半疑のようで、じーっと私を見ている。

まるで瞬きをしたら消えるとでもいうように。

しかし・・・泣いても絵になるとか、イケメンすごい。

騎士さんがそうやっているだけで、一枚の絵画にも思える光景である。

改めて言おう、イケメンってすごい。


「・・・あるじ?・・・あ、主ぃぃいいい!!!!」


ようやく私が本当に正気に戻ったと気付いたのか、ぽろっと剣を落とすなり、私の巨体に猛突進。

申し訳御座いませんでした!とか半泣きになって言う割に、私に縋りついた(多分これは抱きついたつもりなんだろう、今の突進で)衝撃は、巨体なりの防御力に多少の刃を弾く硬さの外殻を取り戻した私相手に、みしぃっという音を響かせるようなものだった。


うん、ちょっと自重しようかウロボロス。


人間時に比べれば頑丈になった私だが、やっぱりチート仕様のウロボロスがちょっとでも箍を外した状態になると、どう考えてもダメージを受けてしまうようである。

今の状態なのに100単位のダメージを受けているんだが?

これ、普通の人間だったら即死だわな。

HP21ぽっちの、人間体の私で即死なんだから。

運「1」だからって、さっきの私みたいに死ぬのなんて予測できるはずが無いじゃないか。


・・・あれ、さっきの、私?


そこでようやく、そういえば「一回」死んだんだなぁ、という事を思い出した。

ウロボロスの姿があんまりにも衝撃的だったせいですっかり忘れていたが。


「主、俺は、俺はっ・・・!!」

『・・・掴マレ、うろぼろす。ココデハ目立ツ、転移スルゾ』

「は、はい!!」


今の私、明らかに魔物である。

それもうっすらとだけれど、ヒャッハーーー!と暴れまわったような記憶があるような、ないような。

左半分で周囲を見渡し、崩れ落ちた建物や、溶けた地面らに、ああ間違いなく私が犯人だなと悟ってしまった。

だって私の体液は強酸性で猛毒だし。

ちょっと歩けば建物なんてぶち壊せるし。

だーいぶ遠くの方に、避難しているであろう人々の気配が窺える。

近くにも幾つか生命反応があり、亜人街にはまだ生き残りが居そうだった。

た、多分、死人は出てないよ!

アイツら以外はねー。


・・・か、かくなる上は、逃げるが勝ちだ!


人気が無い今しか、チャンスは無い。

亜人の方々は生命力が強いようなので、申し訳ないが逃げることを優先することにした。

落っことした剣を回収し、ウロボロスがこの猛吹雪を止めたのを確認する。

そして私の足に掴まろうとするウロボロスを、やっぱ上に掴まっておいてと背中に乗せ、呪文を唱える。

掴まれている背中の装甲がミシミシいっているのは、気のせいかな?

このくらいなら痛くないからいいけど・・・力加減は教えないといけないかもしれない。

ともかく、今は逃げなければ、と呪文を唱え、銀世界を残して私たちは逃げ出した。






辿り着いた先は勿論、不帰の森にある我が家である。

しぃんと静まり返った森も、それでいて魔獣のうろつく森の光景も、見慣れたものだ。

なんだか長旅だったなぁと思いながら家を見下ろす。

実際には家から旅出てまだ十日弱、街についてからはたったの二日の出来事だ。

なんていうか、うん、色々あったなあ。

早く家に帰ってゴロゴロしたいなと思うが、はっと気付く。


・・・そうだ、このままだと家に入れないんだった。


このままでは家の中に入れないので、身体をやや縮め、慣れた半人形態をとる。

ずっとしがみついていたままだったウロボロスがぼてっと落っこちたが、このくらいで怪我なんてしないだろう。

目を開けると不帰の森という事に驚いているようだったが、説教タイムがまっているから覚悟したまえ、ウロボロス。


「主、もしやここは・・・」

「そうだ。不帰の森にある我が家だ。さて、中に入りたまえウロボロス・・・君には少々、言わねばならぬことが多いようだ」


力加減とか、力加減とか、力加減とか。

気がついたらお出かけ用の擬態から本来の姿に戻っていたので、さっきまでの状況が死亡に含まれるのか疑問だが、今の私には確かに死亡ペナルティが科せられていた。

ゲームでは、ステータスが下がる仕様だった。


しかしここはゲームなどではなく現実である。


ステータス欄をチェックし、増減した部分を確認する。

見たところ減った箇所は無く、何がペナルティなのかと目を凝らした私は新たに追加されたものに目を疑った。

なんと、今の私は・・・人間に擬態時している間は、カモられるようになるオーラを放つようになるという要らないスキルが追加されていたのだ。


その名も【朧なる高嶺の花】。


名前だけなら優雅なのに、効果は「カモれそうなオーラをかもし出す」である。

ようするに、いくら陰険そうな魔術師姿の私とはいえひ弱そうなので、身ぐるみが剥がせそうだという雰囲気なんだろう。

要らない。

マジで要らない。

しかもウロボロスには見知らぬ称号が増えている。


【謀反なる剣】偉大なる創造主に牙をむいたものの称号。創造主に対して攻撃力+30%が追加される。


おい、ちょっと待て。

今ですら脅威なのに、さらに攻撃力が底上げされるとか、私に対して死亡フラグ立ちすぎだろう!?

頭を撫でられるだけでHPがガリガリと削られ、飛びつかれた衝撃でご臨終になるほど、私は魔法で擬態して人間になっているときはひ弱なのだ。

有り余る魔力以外のとりえが無い。

だというのに、これだけの追い討ちが発生するとは。


・・・私、いつかウロボロスに「うっかり」で殺られるかもしんない。


主危ない!?とかで庇ってくれたけど、突き飛ばされた衝撃でぽっくりとか、ありえそうで笑えない。

ある意味さっきのがそうだ。

主褒めて!!とかで飛びついてきて、その衝撃でやっぱりぽっくりとか。

さっきの衝撃は人間時なら死ねる威力だったし。


どれもこれも、ウロボロスには悪気がないから困る。


いそいそと紅茶を用意してくれたウロボロスは本当に私の無傷を喜んでいて、悪い子じゃないんだけど、強すぎるのも困り者だよなぁとため息が零れた。

いや、私のガードマンをしてくれる気は満々なんだけどね、本人は。

確かにガードマンとしては有能なんだけどね・・・如何せん、うっかりの発動が怖い。


「ウロボロス、今よりお前には幾つか科す事がある」

「はい、何なりとお申し付けください!!」

「・・・(やる気だけはあるんだよなぁ)」


しゃきんっと背筋を伸ばして、待機。

一字一句を聞き逃さないと真面目なんだけど、なんていうか、忠犬ハチ公みたいだなぁ。

本当、悪い子じゃないんだ。

騎士さん、もといウロボロスは。

ただ、ちょーっと力加減が出来なくて、ちょっと空気が読めないだけで。

・・・そのちょっとが私にとって命取りになりつつあるんだけどね。

あと何回か「うっかり」くらったら、この【謀反なる剣】のブーストも増えるんだろう、間違いなく。

い、今のうちに躾けないと私の命が危ない!!


「まず一つ。人間時の私から、離れないこと」

「勿論です!」

「もう一つ。人間時の私には、手加減して接すること」

「手加減、ですか???」

「・・・手を握ってみろ」


半人形態は、下半身は脚がちょっとわさわさっとしているけど、本を読んだりするために手だけは人間のままである。

脚がわさわさとしている理由は、脚立要らずでどんな所も移動できるからだ。

まあ、脚以外にも実は腕の下にもう一対腕があるけどね。

やや骨ばっていて細長い指は、見るからに頼りない。

美化していうなら・・・ピアニストみたいな手っていうのかな?

さすがに握手くらいで握りつぶしたりしないよね、と差し出した手は、私の予想を見事なまでに裏切り・・・パキポキといい音をたててくれました。

あれか。

そのウロボロスの手のせいか?

それとも騎士さんのほうか?


まあどっちにしろ・・・右手は哀れなことになりました。


ポッキーのような音をたてながら、見たくない状態になったのでした、まる。

流石にこの事態に驚いたウロボロスが手を離したので、その隙に慌てて手を引っ込める。

治癒魔法を掛けて治しけれど、やっぱり痛いものは痛かった。

これ、人間状態ならまたしてもぽっくりレベルの痛さじゃないかなぁ?

ははは・・・仏の顔も三度まで、ですぞ。


「あ、主!?」

「・・・接触禁止」

「き、気をつけますから!もっと弱く握ればいいんですね!!」


次は気をつけますと平謝りのウロボロスに、じゃあ、と今度は左手を差し出す。

籠手に包まれた左手がそっと握り、生身の右手が同じくそっと握ったかと思えば・・・めしゃっという音をたてた。

・・・左手も粉砕されたんですけど?


「ち、違います、俺はそんなに力を入れてません!!」


あわあわと涙目になりながら弁明するウロボロス。

うん、確かにちゃんと最初は手加減出来ていたよ、最初だけは。

なんで両手がそろうと握りつぶすかな・・・。

これまた魔法で治し、両手をこそっと後ろに隠す。

違うんです~~~と半泣きだけど、私だって両手を潰されるのは勘弁して欲しい。

痛いもんは痛いんだ。

でもしょげるウロボロスは、なんていうか、見捨てられちゃうの?って顔した犬にも似てて、接触禁止と言うのは容易いけど可哀想だなぁなんて思っちゃうのだ。

動物に甘い私は、どうやら騎士さんにも甘いらしい。

だってねぇ・・・半分は私の可愛い可愛いウロボロスだし。

騎士さんイケメンだし。

情けない顔してもイケメンだし。


「・・・卵を割らずに居られるよう、練習しろ」


そう言って卵を取り出す。

卵といっても、これまた魔法で作ったから、普通の卵じゃない。

綺麗にまんまるの薄青っぽい色をしていて、ぷにょんぷにょんしている。

うっかり握りつぶしても復活する単なるオモチャだ。

私の癒しアイテムでもある。

これもヒマだから作ったものだけど、まさかこんなところで役に立つとは思わなかったなー。


「一日中持っても潰さなくなったら、良しとする」

「おっ、うわっ」


・・・見ている前で既に五回は潰しているから、先は長そうだなぁ。

はは、あはははは。

私の将来のためにも、こればっかりはウロボロスの訓練あるのみ、だった。




ティーカップをもてるくらいなんだから出来るだろ?と思っているマガツですが、それはそれ、これはこれっぽいウロボロスは暫く悪戦苦闘を続けるようです。

マガツは暫くまったりモード(ただしたまに胃が痛い)。

ウロボロスは必死に猛特訓中(ある意味半べそ)。


必死になれば必死になるほど、ウロボロスもといソリュートはドツボに嵌るタイプだと思う(笑)

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