キャラクリエイトで一時間は掛かっちゃうのは仕方ない。
このお話には俺tueeeっぽいものや、チートっぽいものが含まれるかもしれません。
あと、あれこれ勘違い要素も含まれる可能性があります。
それでもよろしければ、お付き合いください。
更新は不定期になるかと思われます。
【マガツ】は偶々生まれたキャラクターだった。
曲津 千尋 ―マガツ チヒロ― は一度嵌ると長いが、飽きるのも早いゲーマーだった。
とりあえず趣味に合えばどんなジャンルにでも手を出した。
スタンダードにRPGは勿論、アクション、シュミレーション、ギャルゲにエロゲにBLゲーにも手を出した。
一人暮らしなので時間はあるが、あれこれ買いあされるほど懐が暖かいわけではなく、なんとかやり繰りをしていた。
が、フリーで遊べるゲームがあると気付いてからはそれらにも手を出すようになった。
ネットには個人で自作されたゲームが多々あり、ツールさえあれば自分でも作れる。
一度嵌れば長い千尋は、これはいいかもとあれこれゲームをしてみた。
そんな中、フリーで遊べる「日常RPG」と謳っているゲームに嵌ってしまった。
料金は当然ながら無料。
オンラインゲームではあるが、ぼっちで遊ぶも良し、みんなで遊ぶも良しのゲームで、今までオンラインゲームを作ったことの無い殆ど無名な会社が造り上げたらしい。
種族や職業も普通に豊富で、やりこもうと思えばどこまでもやりこめる。
作っている途中のようで要望を出すと向こうが「アリ」と思ってしまえば、チートじみた職業も選択肢に入るという自由っぷり。
無料なので当然、気に入らなければ途中でやめても懐には痛くない。
ただ、説明を受けてもすぐに用語などを忘れてしまいがちな千尋は普通のゲームでも説明書片手に遊ぶタイプだ。
設定資料集やwikiというのも好きな方である。
それぞれのキーにショートカットが設定されていることが多く、最低限のキーは分かっているので知らなくても平気だが、知っていればゲームはしやすい。
なのでゲーム中に度々ヘルプを呼び出してどのキーで何が表示されるかを一々確認しなくては心配でしょうがなかったので、手書きでどのキーでコマンドが実行できるかとメモを残したほどだ。
ちなみに地名などもうろ覚えなので、世界マップはケータイで写真を取ったり簡単に手書きでメモしてある。
初めのキャラは、趣味で作ったキャラだった。
種族は人外種族を選び、ランダム性の、クセのあるキャラにしてしまった。
初期ステータスもとりあえず「魔」の一点に極振り。
均等にするよりもそのほうが生き残れる気がしたのだが、これがまた少しだけ間違っていた。
魔法使いなら魔力に振っておけばという狙いは間違ってはいないが、当てはまっているわけでもなく、魔力(MP)はあるが、知力(魔法攻撃力)が無くて与えるダメージが雀の涙。
職業もこれまたクセのある、操作に一通り慣れ、マゾプレイに耐えられる上級者にオススメとされていた「死霊魔術師」にしてしまったので、とにかく打たれ弱い。
魔法を唱えるが初期に覚えている魔法は死霊魔術師との相性が悪く、相手に与えるダメージは微々たる物。
ぺらっぺらに薄い装甲は殴られれば確実に一撃で瀕死にされてしまうほどの脆さである。
なんとかしようにも殴ろうが魔法を唱えようが、どう足掻いたとしても今のキャラに次のターンで敵を倒すことは出来ず、恐る恐る逃げて回復を図るも、挟み込まれて・・・フルボッコ。
そして目覚めれば自宅のベッド(初期は自宅ベッドが復活地点になるのだ)。
結果、にっちもさっちも行かなくなった。
操作の右も左も分からない間に死にまくってしまい、ゲームの仕様として死ねば一部のステータスがダウンする作りになっている。
下がる数値は微々たる物だが、死んだ回数が回数な為、どう足掻いても悪循環だった。
レベルが5を越える頃には、素直に最初から作り直したほうがいいんじゃないか?と思ってしまうほど弱体化してしまった。
力が無い、防御力が無い、魔力がない、素早さが無い、運が無い、お金は・・・元から無い。
無い無い尽くしすぎて笑えるほどである。
結局新しく作り直してしまうことになったが・・・それでも捨て駒になった一号くんのお陰もあり、コツはなんとなく掴んだ。
ならばと次は地道に生き残れる、スタンダードな種族を選び、毎回必ずゲームでは金欠になるのでお金を稼げるキャラにした。
二度目のキャラは慎重に育てただけあって上々で、歌って殴れる吟遊詩人だ。
吟遊詩人なのに武器は拳である。
お金を節約するために金のかかる装備を選ばないようにした結果、そうなっただけなのだが。
吟遊詩人なだけあって道端で歌って稼ぐことが出来るのが強みで、その分ステータスは他の職業などに比べると高くないが、千尋は仲間も連れずに食料だけを持って旅をするのが好きなのでゆっくりと満喫する分には十分だった。
たまにダンジョンに出向いてレアそうな武器などを探すが「いい楽器とかがあればいいなぁ」程度で、本腰を入れたことは無い。
なので、二度目のプレイヤーであるチロはそこそこお金のあるのんきなプレイをしていた。
吟遊詩人の「歌を紡ぐ旅人」というランクは決して高いランクではない。
職業にはそれぞれランクはあり、最高で10がカンストとなり特殊能力を一つ得ることが出来る。
吟遊詩人の最上ランクは「悠久の神々の語り手」と呼ばれ、周囲の仲間のステータスを上げる祝福効果のある歌を歌える能力を得るのだが、今のところチロに出来るのは弾き語りでおひねりをもらうくらいだ。
なのでチロのランクは精々「まあ吟遊詩人としてやっと一人前かな?」程度である。
とはいえ、依頼をこなしてみたり、たまに弾き語りをするだけでそこそこの収入が得られる程に落ち着いた。
一段落すれば、手を出してみたいことが一気に増える。
お金を掛けて家をせっせとカスタマイズして自己満足し、拾ったものや作ったアイテムを街の一角にあるフリーマーケットで売ってみたり、牧場や畑に手を出してみたり、ひたすら歌を歌って世界を旅してみたり、魔法を学んでみたり、レアそうなものを集めたり、ちょっと凝ったアイテムを自作してみたり。
そのゲームをしているプレイヤーからしてみればまだ初心者レベルかもしれないが、吟遊詩人のチロは、千尋にとって楽しくプレイが出来るキャラの筆頭になった。
ある程度落ち着いてプレイが出来ると、手元には使い切れないほどのお金と、作ってはみたが吟遊詩人のチロには使えない武器防具と、その他もろもろが残った。
メインストーリーはクリアした。
だがクリア後のおまけダンジョンに足を踏み入れるほど強いわけではない。
当の昔に世界中を隅々まで回り歩いたし、牧場や畑や店は雇ったNPCが回してくれるし、家の改装ももう十分。
特にやってみようかと思うことがなくなってしまった。
やりこみようはまだまだあるのだろう。
チロは精々中堅プレイヤーといったところである。
上には上がいて、チロの能力だってまだまだ上げようがあるのだろう。
だがチロに飽きてしまった。
かといってこのゲーム自体に飽きたわけではないので「そうだ、キャラを新しく作ろう」と思い至ったのだ。
飽き易い千尋にしては珍しく途中でゲームをやめて挫折するということも無く・・・一応チロはメインシナリオはクリアしているので挫折ではない、ハズ・・・もう一人のキャラを作ることにした。
このゲームは他のゲームに比べて課金できる部分が少ない。
その少ない課金部分がこの「子孫」システムである。
作ったキャラを「親」として、次に作るキャラを「子孫」として情報を引き継げるだ。
持ち越せるのは流石に極一部だが、ゼロでの始まりよりもぐっとお得なのは確かだ。
人外種族から人間がうまれたり、その逆もある、常識的に考えたら何ともトンデモというしかない仕様である。
クリエイト画面を呼び出し、今度こそ、と人外種族を選択する。
人種は結構、というか大分幅広い。
スタンダードに何でも装備できるヒューマンは最も多種多少なプレイが出来る種族だ。
中装備が主なエルフは器用で、ある程度ならば一人でなんでもこなせてしまう。
重装備可能で遅めなドワーフは接近戦に秀でているが、体力も高く、やはり種族特性で鍛冶などのスキルが高い。
軽装備のみで身軽な妖精は魔法が主に攻撃手段で、魅了の高さが特に秀でていてサポートなどの後衛に向いている。
初期から最も硬くて攻撃力はあるがロボは、いいこと尽くめにも思えるが魔法が使えず一部のアイテムも使えない上級者向けの種族だ。
亜人は植物・鳥・魚・獣と更に分けられていて、またその種族ごとに特性が異なるが、こちらも凡庸性は高い。
そして最後に・・・古の種族と呼ばれるユニーク種。
この最後にある古の種族こそ、千尋が最初にプレイしようとしていた種族だ。
初期能力値は他よりも断然高めだが、その種族性から魅了と運だけはダントツで最下位という「うっかり」で仲間にすら攻撃されるか、自分で「うっかり」死にかねないステータスだった。
更に「古の種族」は初めこそ人族と同じ姿をしているが、成長するにつれ姿が人間離れしていき、装備できるアイテムが減るか増えるかのランダム性がある種族なのだ。
運がよければ増え、対照的に魅了値減少。
運が悪ければ減って、その分のステータスが上がる。
・・・やっぱり魅了値は下がるが。
どちらもいいように思えるが、後者は装備品のスキルの恩恵が受けられないという欠点があった。
千尋はその、どこからどう見ても「いあいあ」系な種族に惹かれてしまった。
所謂一目惚れにも近い。
これを使わねば!という意識がどうしてもぬぐえなかったのだ。
お陰で名も無き一号くんはズタボロな結果に終わったのだが・・・。
カチカチとマウスを動かす。
一部引継ぎをし、【マガツ】という名のキャラを造り上げた。
今度こそという決意を籠めて魔術師にして。
初心者でも扱いやすい魔術師にしたのは多少妥協した部分もあるが・・・やっぱりファンタジーには魔法使いのキャラが一人くらいは欲しいからだ。
さてと、と意気込んでオープニングを開始し、チュートリアルを一通りすませる。
が、開いたステータスがおかしい。
【マガツ】
古の種族
魔法使い
191cm70kg
27歳 男
LV1
HP 15/15
MP 62187698763218648/62187698763218648
筋力 2 (攻撃力に関係あり、荷物の持てる量も増える)
耐久 1 (防御力、HPに関係あり)
敏捷 3 (移動速度、回避に関係あり)
魔力 666(魔法の成功率に関係あり、高ければ最大MPが増える)
知力 10 (魔法を習得する速度、魔法攻撃力に関係あり)
精神 7 (魔法の成功率にも関係あり)
器用 5 (回避、鍵開け等作業スキルの成功率に関係あり)
幸運 1 (クリティカル率、突発イベントの発生に関係あり)
魅了 1 (クリティカル率、突発イベントの発生に意味あり)
所持スキル
【世界を旅する散策者】【悠久の歌い手】【マゾ】【お料理好き】【土いじり好き】【ブリーダー】【お家が一番】【器用貧乏】【我が拳にて覇道を築く】【名状しがたきモノ(※)】【魔術の心得(※)】
レベルの最大値は999。
ステータスの最高値はHP、MPは9999で、能力値は999。
姿形やその由来から、幸運や魅了が低いのは分かる。
それがデフォルトなのだから。
が、MPが文字化けしているのか?という状態だった。
そして何故か魔力が666で固定されている。
・・・古の種族だからだろうか?と千尋は首をかしげた。
他にもスキルなどを見てみると、取った覚えの無いものがスロットを埋めている。
けれど見覚えのあるそれらのスキル(前半の9つ)は吟遊詩人のチロが持っていたものだ。
【世界を旅する散策者】は、文字通り世界をあちこち移動したため、移動効率が上がるスキル。
【悠久の歌い手】は吟遊詩人がもつ職業スキルの最上ランクの一つ下。一応ステータスアップの歌は歌えるが本人のみという、あと一歩頑張りましょうレベル。
【マゾ】ダメージを受けるとMPが回復する・・・だってマゾだから。
【お料理好き】は文字通り料理を一通りこなせるスキル。美味しいご飯が作れるよ!
【土いじり好き】は文字通り畑仕事を一通りこなせるスキル。貴重なハーブも作れるよ!
【ブリーダー】は牧場経営が出来る人間なら誰でも手軽に手に入れられるスキル。人間だって繁殖させることが出来ちゃいます☆
【お家が一番】・・・引きこもっていると貰えるスキルで、ホームでの作業効率がアップする、地味にいいスキル。このスキルの上位名は【自宅警備員】となるらしい。
【器用貧乏】ある程度のスキルを、ある程度のランクまで持っていると貰えるスキル。器用さにいくらかプラスされる。
【我が拳にて覇道を築く】どこぞの拳王様みたいな名前だが、素手での格闘が多いと貰えるスキル。素手での筋力・耐久・敏捷力・回避力がアップする。ただし武器を持っていないときに限る。
【名状しがたきモノ】古の種族固有スキル。ランダムで発動し、ありとあらゆるモノと敵対状態になってしまう。一定時間が経過するまで街などには踏み入れられず、もし踏み入れると敵扱いされる。
【魔術の心得】魔術師の職業ランク1のスキル名。駆け出し。
吟遊詩人のチロはあくまでもまったりプレイのキャラだ。
職業的にもソロプレイに特化していないため、攻撃力は剣士に及ばず、魔術は魔術師に及ばない。
ただ、のびのびと日常をこなすのに優位な職業だった。
戦いに関してのスキルは殆ど無いが、日常や、補助などのスキルは一通り持っている。
それらを何故かLV1のマガツが持っていた。
やっぱりバグなのかな、と千尋は首をかしげた。
ステータスやスキルの詳細を見ると、やはりバグっぽい予感がひしひしとする。
特に改造した記憶も無いんだけどなぁと思いつつ、不具合が出ないかと暫く戦ってみたりダンジョンに潜ってみたりと様子を見るが、異常は無いようだ。
魔法使いは時間がかかるし、この程度のズルはいいかなと初期に与えられたホームを弄くる。
最初に与えられるホームは小さいが引き継いだアイテムはきちんとボックスに収納されていた。
高値で売れる商品と貴重なスキルブック、魔術書、レアアイテムが箱にはぎっしりと詰まっている。
「よかったねーマガツ」
前任のチロはいい仕事をしてくれていた。
運や魅了の値が比較的高めに設定されている吟遊詩人は、戦闘能力は高くないがアイテムを収集するのにいい職業だった。
戦闘にはあまり関係の無いステータスだが、運や魅了はレアアイテムの入手率やお金の入手率を上げることができる。
幸運にも序盤から伝説クラスのアイテムを手に入れられたため、チロはさほど苦労も無くダンジョンを散策できたし、その後、これまた偶然にも手に入れた装備アイテムが強いからこそちょっと無理をしてもなんとかなった。
・・・まあ、吟遊詩人なのに何故か運にばかり呪いのステータスダウンを掛けられて哀れなことになっていたが・・・それでも魅了値はすこぶる高かった。
画面の向こうにいる、まだ「人型」なマガツに声を掛けつつカーソルを動かす。
杖で殴ったところで微々たるダメージも与えられない程の虚弱さだが、連発する魔法は敵をあっさりと打ち倒した。
魔力だけは腐るほどあるため、途中に休憩を入れなくとも余裕で進めそうだ。
何匹かモンスターを倒すとピロリンッと言う音と共にレベルが上がったという表記が出た。
改めてステータスを見てみると、見たことの無い特殊スキルがある。
【異世界憑依】貴方は異世界に移動できる。
異世界?と首を傾げる。
こんな特殊スキルは攻略サイトにもなかったはずだ。
いや、もしかしたらいつの間にかバージョンアップして追加されたのかもしれないという考えがよぎる。
このゲームで行ける大陸は限られているが、もしかすると異界という新しいマップが追加されたのかも知れないと、何かあったら戻れるようセーブをせずにそのスキルに振る。
千尋は特に何も考えていなかった。
見たことも聞いたこともないスキルだから興味があってなんとなく振っただけ、ただそれだけ。
異世界というマップが難しければセーブをしないで終わって、このスキルに振らないまま他に振ってしまえばいいだけだと思っていた。
ピコン、とメッセージが現れる。
【貴方は異世界の貴方に憑依した】
そのメッセージと共に視界が歪む。
ゲームのしすぎかなと目をこすろうにも、だんだんと意識は遠のいていった。
ゲームをクリアした途端、飽きるのが私です。
いや、嵌れば長いんですがね。