フォーチュン・テーリング
――また今夜。
黒羽里天音に引きずられながら、彼はそう言い残した。今夜もまた彼はここに来てくれる。私を守る騎士としての務めを果たそうとしてくれる。
知れず、小さな笑みが零れる。
何て素敵な騎士だろうか。
私が望めば、彼は何だってしてくれる。
そんな風に思うのは自惚れか、それとも慢心か。
どちらにせよ、私は戦うための力を手に入れた。
『幸 運 の 総 符』という、夢と現の間から生まれた願望器。
誰が何のために創ったのか、それは私もあの人も誰も知らない。
今となっては知る必要もない。
使えるものは有効に使えばいい。
その資格は、カードを全て揃えた者に与えられる。
揃えて、彼らを目覚めさせることでその力を顕現していく。
そうして初めて鍵が開いてゆく。
「カードだけでは、意味が無いのだけれど」
総符目録はこちらが握っている。
あの人が願いを叶えるためには、カードを集める手間に加えこちらも手に入れなくてはならない。
その度、あの人は私に向けて刺客を放つ。
私はそれを、迎え撃つ。
そうして小競り合いを続けていくうち、勝利するのはどちらだろうか。
占星術師である私は、残念ながらそれを知ることは出来ない。
自分の占うのはルール違反。
だけど、自分の騎士を占うのなら話は別。
規則的に並べたカードの中に手を伸ばし、私は瞳を細めた。
「No13『死神……か』」
手に取ったカードは――逆位置。
天地をひっくり返した世界の中、死の行軍をモチーフとしたイラストに私は微笑を浮かべる。
『死神』と聞けば自ずとマイナスなイメージを抱くものだけど、タロット占いにおいては歴とした意味がある。
正位置であれば『終末』や『停止』といった“終わり”意味するのに対し、逆位置では逆転し『好転』や『変化』といった、所謂“新たな展開”を象徴している。
「今夜……か」
夜が待ち遠しいと思ったのは随分と久しぶりな気がした。
彼が来るまで少し眠ろうか。
夜になれば彼がやってくる。
取り留めの無い話をして愉しむもよし、彼をからかうもよし、カードの蘊蓄でも聞かせるもよし。
心踊る幽霊とは如何なものか。
自問するも意味の無いことを悟り、私はしばし眠りにつくことにした。
夢なんて、もう見れないのだけれど。




