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図書室の幽霊は占星術師《アストロロジー》  作者: 夜斗
第二章:『少年、決断す』
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第18話

 目を覚ますと、正面に真っ白な天井が映り込んだ。まるでペンキを塗りたくったみたいにのっぺりとした天井を見て、それが前に見た保健室の天井と違うことに気付く。鼻につく独特の匂いも似ているような気がするけど何処となく違うような気がして、僕はそれらを確かめるべく上体を起こした。


「ここ……は?」


 正面には天井の色と同じく白い壁、右手に振り向いてみると窓が半分開かれていて、清潔そうなカーテンが吹きこんだ風に揺られている。


「気がついたか、朝日奈」


 不意に聞こえた声に振り返ってみるとそこには黒羽里先輩がいた。窓に気を取られてて左側には意識を向けてなかったのだけど、先輩は部屋に備え付けられていたパイプ椅子にちょこんと腰をおろしていた。僕は驚いて掴みかかりそうな勢いで口を開いた。


「せ、先輩!? でも、あの時屋上から落ちて……!」

「悪運尽きたかと思ったんだけど……放り出された後、運良く中庭の木に引っ掛かってて助かったんだってさ。あのお姫様が教えてくれたよ」

「萩月さんが……?」


 先輩曰く、木に引っ掛かっていたのを助けてくれたのは萩月さんだったという。ほんの少し前まで敵対していた彼女を助けるなんてどういう風の吹き回しだろうか。何にせよ先輩が無事で僕はホッと胸をなで下ろした。……と同時に、先輩が死んだ(てい)で戦っていたことについて心の中で謝罪した。


「でも……正直驚いた。まさか君があの男に勝つなんてね。何がミスター平凡っ子だ、並大抵の人間じゃ普通勝てないって」

「だからその称号は……え? あの、今何て?」


 信じられない言葉が先輩の口から飛び出したような気がして、僕は今一度先輩に確認する。先輩はさも平然そうに告げた。


「何って……君があの男を倒したんだろ? アタシが君を助けに行く前にお姫様が言ってたんだ。『朝日奈君が勝ったけど、力尽きて倒れてるから助けてほしいって』さ」

「僕が圷さんに勝っただって……?」


 あの時、僕の斧槍と彼の一撃が交差したまではハッキリとは覚えている。けれど彼を倒すには至らず、逆に僕はそこで力尽きて倒れてしまったのだ。その後のことは知らない。それだけ鑑みれば僕が勝つなどということはあり得ないのに、どうして……?


「まぁ、何にせよ君は生きてるんだからいいんじゃないか。しばらくはゆっくり休みなよ……じゃ」

「……ま、待ってください」


 退室しかけた先輩の背中に向けて声を掛ける。振り返りはしなかったが、僕は構わずその背中に向けて言葉を続けた。


「先輩は……この後、どうするんですか?」

「どうって、何時までもあの学校にはいられないでしょ。まだ私の手にはコレ(、、)があるんだから」


 そう言ってポケットから取り出した『隠者』のカードを手の平で弄びながら先輩は呟く。


「連中の追手もあるだろうし……ここはやっぱり転校がベターなんじゃないかな。手続きとかは面倒だけど、少しぐらい時間稼ぎ出来るさ」

「その先でまた襲われたら?」

「その時はアタシ一人でどうにかするって」

「だけど、圷さんみたいに強い人が来たら……」

「言いたいことがあるなら、ハッキリ言ったら?」

「……い、一緒に戦いませんか?」


 先輩の力は強い。それは先輩と戦った僕が身を以て知っている。だけど、圷さんは僕たち二人掛かりでも辛い相手だった。そんな相手を前に、一人で立ち向かえるかと言えば――否だ。二人でも歯が立たなくとも、それでも二人いれば生存する確率だって多少は上がるし勝てる可能性だってもしかしたら上がるかもしれない。


「……君、何か忘れてない?」

「何をですか?」

「アタシは、君の――君たちのカードを狙ってたんだよ? そんな人間を君は引き入れようっての?」

「僕は先輩に……」


 離れてほしくないから――と、愚直なまでにストレートな言葉は飲み込んでしまった。それは、このタイミングで言うのはどうなのだろうと躊躇したのと、そんな言葉を言う資格が自分にあるのかどうか悩んだのが理由だった。首を振って思考をリセット。なるべく当たり障りない言葉を探してから……続けた。


「その、先輩に借りがあるから返したいんです。あの時庇ってもらってなかったら僕死んでましたから」

アレ(、、)だって私の借りを返したに過ぎないんだけど……そんなコト言ってたら貸し借りでずっと堂々巡りじゃない」

「それでも、借りたものはちゃんと返したいんです」

「……言っておくけど、アタシは君が思ってるほどそんなに強くないんだよ? あの時みたいに一撃喰らってアッサリやられちゃうかもしれない」

「その時は、僕が守りますから」

「君……」


 振り返った先輩は、小さく微笑を浮かべていた。そのまましばらく僕と視線を交わしていたが、先輩は再び踵を返してしまった。


「あ……っと。そうだ。君のその怪我は、学校に忘れ物を取りに行って、途中で階段で転んだのが原因ってことになってるから。友達には上手く説明しなさい。アタシはもう行くから」

「転んだ、で納得してもらえるのかな……」

「そこは君の説得力次第。じゃあね、朝日奈」


 コトンと病室の引き戸が閉まると、部屋は途端に静寂に包まれてしまった。ほんの数分程度身体を起こしていただけなのに、僕の身体は疲労感に包まれていた。真っ白なベッドに再び身を沈ませ、ひと眠りしようかと瞳を閉じかけた――その時、ドア越しにパタパタとスリッパを鳴らすような音が聞こえてきたので目を開けた。


「樹ッ! 大丈夫かぁ!?」

「ちょっと高広! 病院なんだからもっと静かにしなさいよ!」

「あぁ? 親友の一大事だってのにんな悠長なコト言ってられっかよ!」

「えぇっと……二人とも十分にうるさいんだけど……」


 そこから先は、先輩の言う通りに転んで怪我をしたということにして二人に説明した。転んだだけで制服が血塗れになったり、左腕の凍傷になるわけないだろうと何度も何度も突っ込まれたけど、それとなく会話をうやむやにして誤魔化す。……仮に本当のことを言っても、信じてもらえるわけがないし。

 事情を説明し終わってからは、至って普通の雑談になっていた。

 僕が退院してからのこと、前に話していた夏休みの旅行の行き先、加えて宿題の自由研究に話が飛んで高広が大騒ぎして、それを聴きつけた看護師さんから説教喰らって。


 それはそれは、とても平和で楽しい時間だった。

 でも、この時の僕はそんな楽しい時間に酔っていて気付いていなかった。


 当たり前に平和な時間が、酷く脆くなっているということに。

年内最後の更新となります。

皆々様、今年は如何でしたでしょうか?

なんやかんやで色々とありましたけど、来年も頑張りましょう。


うん、俺も普段通りマイペースかつ気まぐれに頑張りますので。

来年最初の更新は……うぅん、7日辺りにしようかな?


では、ちと早いですけどよいお年をば!

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