面接?
自転車を漕ぎたどり着いた喫茶店。
バイトの面接とはいえ、正装の方がよかっただろうか?しかし突然こいという指示があったのに、正装というのは少々理不尽だろう。
喫茶店の外から窓ガラスを使って、乱れた髪を多少直す。そして喫茶店の中に入って気がつく。
えっと、誰だよ。面接官!!
気がつかなかった俺もなかなかの馬鹿だと思うが、面接対応の女も相当バカである。落ち合う場所をきめときながら、集合場所にいる誰が目的の相手かわからないとは、間抜けにもほどがある。
今この喫茶店内にいる女性客は4人。スーツ姿でメイクをかっちり決めた、若い女性客。しかし、彼女は雑誌を読んで音楽を聴いていた。バイトの面接をする直前に、音楽聴いて雑誌読んでるなんてさすがにないだろう。
次に40代ぐらいの女性二人、しかし2人で仲良くお話しているところをみると、こちらでもないだろう。というか、40代の女性が「ボクっ子」とか嫌過ぎる…。
すると最後に残るのは、窓際に座っている若い、というか大学生ぐらいにしか見えない黒髪ショートカットの女。女の姿はジーンズ地のパンツに、なぜか様々な色で薄汚れた白衣。これも…とても面接官とは思えないのだが…。
だが俺は、白衣の女性の前に進んだ。
理由その一。他の女性客は違うと状況が告げている。
理由その二。電話で聞いた声、そして「ボクっ子」それらの要素が彼女にぴったりと当てはまる気がした。…つまりは勘だ。
「久世浩也です」
俺が白衣の彼女に名乗ると、彼女はゆっくりと微笑み、
「ああ、どうもこんにちは。初めまして久世さん。バイトの募集をしてました大橋かなえです。どうぞよろしく」
そう言った。
俺の勘は正しかった。正しかったが、彼女が面接官とは、怪しかったバイトの雲行きが、さらに怪しくなってきた。