効率男
価値をもっとも端的に、わかりやすく表す指標は何か?それは、時間と金だ。
「世の中金がすべてじゃない」
きれいごとじゃなく、確かのその通りなのだが、こと、「思いやり」とか、「愛とか恋」とか、「快適さ」とか、そういったものは価値がわかりにくいのだ。
これに対して、時間と金はわかりやすい。金は値が大きければ大きいほど価値があるし、時間は短縮できれば短縮できるほど、余った時間を自由に使える。だからこの二つの指標はわかりやすく、絶対的に支持できる価値のあるものだ。
そして、時間と金は交換することも可能だ。高速道路や新幹線、あるいは飛行機、素早く移動するための手段は、その速さが速くなればなるほど、言いかえれば時間を短縮する能力が高ければ高いほど、その価格が高くなる。そういった考え方をすれば、乗り物は時間を金で買う手段ともいえる。逆の場合の説明はもっと簡単で、時間をかけて働けば、単純に金が得られる。
金、時間、こればっかりを言っていては、嫌な人間と思われるかもしれない。だが、それでも俺は、時間と金を重視して生きてきた。
なぜこんな人間になったのか。理由は大体わかっている。舞台の演出家とかいう、カスミを食ってるような地に足のついていない職業の親父。そして、その親父のどこがいいんだか一緒になってしまったお袋。
お袋の苦労、親父の自由人っぷり。そんな中で育ってきた俺。
別に歪んだ家庭環境というわけではなかった。
けれども、いつもフラフラ根なし草で、頼りにならない親父と家事の切り盛りと、苦しい家計を助けるためのパートの仕事、そして子供である俺の面倒、そんな全てを笑顔で豪快に、そして効率よくやってのけるお袋。
そんな二人を一緒に見て育った俺が、どちらを助けて、どちらのようになりたいと思ったかって聞かれたら、それはもちろんお袋のような人間になりたくて…。
高校時代は部活にも入らずバイトばかりやって、少しでもお袋の助けになればいいなと思った。でも、成績を落としたからといって塾に通う金なんかあるわけないので、バイトの空き時間を駆使して、なるべく効率よく勉強して…。
そんな風に生活していたら、いつの間にか金と時間の亡者みたいな思想が頭に染みついていた。まるで心ない人間のように思われるかもしれないが、それでも俺はそんな自分が嫌いではないのだ。なんだかんだいって、金と時間はこれまで俺を裏切ったことはないのだから。
そして、そんな俺は今大学に通っている。大学を卒業して、それなりの企業に就職する。それが今の俺が考えている、最大限に時間と金を効率よく使う方法で、一番お袋のためになる方法だと思うからだ。