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毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~  作者: 桜咲かな


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第26話 復讐の果てに

 この場で唯一スカイブルーの瞳を持つレンティは、赤い瞳に呑まれるしかない。


「い、いや……助け……お兄様……」


 命乞いすら言葉にならないレンティの前にゼンティが立つ。その表情は穏やかな兄・王子センティではない。


「うるせえ、オレを兄と呼ぶな! 胸クソ悪い、目障りだ、餌らしく無様に死ね!!」


 それはセンティの人格ではなく、魔物本来の人格であった。これは禁断症状ではない。レンティへの憎しみから魔物の本性が表に出ただけ。


 続いて、その隣にリィラが立つ。感情の昂ぶっているゼンティとは逆に冷ややかに凍りついた微笑みを浮かべている。


「レンティさん、さようなら。どうか痛く苦しみながら死んでくださいね」


 リィラのその笑顔を合図に、ヒメがレンティに掴みかかり食らいついた。

 きっと、これでは苦しむ間もなく即死だろう。腹を空かせたヒメに理性など存在しない。


 レンティが最後に視界に映したのは、魔物に成り果てたアレンの赤い瞳だった。

 アレンの愛が偽りであっても、多くの偽りの中でも……レンティのアレンに対する愛だけは本物だった。


 リィラは、あんなに恐怖に思っていた捕食から今は目をそらさない。どんなに悲惨で残酷でもレンティの最後を見届ける。

 レンティの命と姿が跡形もなくなるまでが復讐なのだから。


 やがてヒメの捕食が終わると、リィラはようやく息を吐いて肩の力を抜いた。その瞳の色は赤から紫に戻っている。

 そんなリィラの肩を抱いてゼンティが優しく支える。


「リィラちゃん、お疲れ様。やっと僕たちの復讐が終わったよ」

「うん……ゼンティ、ありがとう」

「ふふ、でも式は改めてやり直さないとね」


 リィラは床に飛び散る捕食の血の跡を見て意識が現実に戻る。魔物のヒメが乱入した事で結婚式も中断という形になった。


 結婚式と戴冠式は、日を改めて行う必要がある。どちらにしても、復讐と血で染まった今日が結婚記念日にならなくて良かった。


 しかし、やり遂げたとは言っても、これは復讐。後に残るのは清々しさや爽快感などではない。


 そう思って再び捕食の跡を見ると、そこにはヒメの姿がなかった。代わりに一人の娘が座っていて、こちらを見ている。


「え……ヒメちゃん、なの……?」


 リィラが目を疑うのも無理はない。そこにいたのは魔物のヒメではなくレンティの姿。ウェーブのかかった長い銀色の髪と白い肌、黒いドレスまでもが同じ。


 ただ、さっきまでのレンティと違うのは、瞳の色がスカイブルーではなく魔物の瞳のデーモンレッド。

 レンティを捕食したヒメが、その体を得て生まれ変わった姿だった。


 ヒメはゆっくりと立ち上がると、その赤の瞳を真っ先に向けた相手はアレンだった。


「アレン!!」


 駆け出したヒメは、アレンの側まで駆け寄ると彼の逞しい胸に全力で飛び込んで抱きついた。


「アレン!! やっと私、大人になりましたの!! これでアレンと結婚できますわ!!」

「ヒメ様……はい。お待ちしてました」


 ようやくアレンも頬を緩めて愛しい思いでヒメを抱き返す。元々、ヒメは子犬の姿の時からアレンを本気で愛していた。

 そしてヒメを愛していたのはアレンも同じ。ヒメが人の姿を得た事で、ようやく二人は結ばれる事ができる。


 しかしゼンティはなぜか素直に喜べない。複雑な心境で笑顔が歪んでしまった。


「おめでたいんだけどさ……ヒメの口調、レンに似てるよね……」

「……偶然、だよ……たぶん」


 リィラも思わず苦笑いをする。ヒメはレンティの口調を真似てはいないはずだが、見事にシンクロしている。


 結局はレンティもヒメもアレンを本気で愛していたので、中身が変わったとしても何も変わらない。

 これではレンティを殺したはずなのに、そのまま生き返ったような錯覚を起こしてしまう。

 文字通り、レンティから毒気を抜いたのが今のヒメだ。


「今後はヒメちゃんじゃなくて、レンちゃんって呼ばなきゃダメなの?」


 リィラの何気ない疑問を聞いて、ゼンティが珍しく青ざめている。絶対に嫌なのだろう。


「ヒメは今後もヒメだよ。僕の妹の名前はヒメだ!!」


 ヒメという名はリィラが名付けた仮の名前。獣魔は人の体と名前をそのまま得るが、今回は特例となる。


 ……しかし、幸せそうなヒメを見ていると、これは『復讐』ではなかったのかと思ってしまう。


 今では魔物となったアレンは、ヒメを愛している。レンティがアレンと結ばれる方法は、ヒメとなって生きるしかない。

 つまり、これはレンティにとっての幸せの形。『復讐』ではなく『救済』だったのではないかと。


 そんな幸せそうな娘の姿を、両親のベスティとスティアは微笑ましく思って見ていた。


「うむ。ヒメも立派になったな! 次はヒメとアレンの結婚式も兼ねて一緒にお祝いだな!」

「今日はおめでたい事ばかりで嬉しいわぁ。ゼンティもヒメも幸せになるのよ~!」


 王子センティ、王女レンティ、国王ベスティ、王妃スティア。

 これで、かつてのアディール国の王族全員が獣魔の体となって生まれ変わった。


 レンティの体をヒメに与えようと思ったのも、家族の絆を繋げたかったからだろう。

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