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『婚約破棄されたので、王子に「蛙化現象」の呪いを贈りました ~聖女を見るたびヘドを吐け~』

作者: かおるこ
掲載日:2026/05/23

「――よって、ルクレツィア。不敬かつ残虐な悪役令嬢であるお前との婚約を、本日限りで破棄する!」


魔法学校の卒業式。荘厳な大聖堂に、アルベルト王子の怒声が響き渡った。


シャンデリアの眩い光が、彼の腕にしなだれかかる“聖女”マリアを照らしている。周囲の貴族生徒たちは、面白い見世物でも見るようにこちらを窺っていた。百合の香水の甘ったるい匂いが鼻を刺し、私は吐き気を覚える。


悲しい――のではない。


胸の奥で煮えたぎっていたのは、理不尽への怒りだった。


「……私の罪だと仰るのですか? その女の自作自演でしょう」


「黙れ! 言い訳とは見苦しい! マリアの爪の垢でも煎じて飲むがいい!」


怒鳴る王子を見た瞬間、私の中で何かが“パチン”と切れた。


愛しいと思っていた金髪は、急に油を吸った生ゴミみたいに見えた。甘く聞こえていた声は、黒板を爪で引っ掻くような不快音へ変わる。


(……あぁ、もう無理ですわ)


「ルクレツィア、その反省なき態度――」


「あー、喋らないでくださる?」


私が冷え切った声で遮ると、空気が凍りついた。


私は右手を掲げる。指先からどす黒い魔力が煙のように立ち上り、大聖堂をざわめきが包んだ。


「な、何をする気だ!?」


「“愛が冷める呪い”を差し上げますわ。俗に言う――蛙化現象、ですわね」


次の瞬間、吹雪のような冷気が渦巻き、魔力が王子を包み込む。


だが傷一つつかない。


アルベルトはきょとんと瞬きをした。


「……? 何も起きていないではないか。ハッタリも大概――」


「アルベルト様、大丈夫ですか……?」


不安げに潤んだ瞳で、マリアが彼の袖を掴む。


その瞬間だった。


「うわあああっ!! 触るな!!」


王子は絶叫し、彼女を突き飛ばした。


「えっ……?」


「気持ち悪い! その媚びた声が耳にまとわりつく! 涙目を作れば可愛いとでも思っているのか!? ぞわぞわする、寒気がする!!」


彼は狂ったように腕を擦り始める。さらにマリアの香水の匂いを吸い込んだ途端、顔色が土気色に変わった。


「おぇっ……オロロロロッ!!」


盛大な嘔吐音が大聖堂に響く。


「く、臭い……ッ! 甘ったるい! 無理だ、死ぬ! なんなんだこの女!!」


「ア、アルベルト様ぁ!?」


マリアは涙声で縋るが、王子は彼女を見るたび鳥肌を立て、悲鳴を漏らした。


愛そうとするほど、嫌悪感が全身を引き裂く。


それが私の呪い。


私はその惨状を見下ろしながら、静かに息を吐いた。胸のつかえが消え、代わりに甘い爽快感が広がっていく。


「さようなら、アルベルト様」


私は優雅に微笑む。


「一生、“最愛の聖女様”に吐き気を催しながら生きてくださいませ」


蒼白な王子と泣き崩れる聖女を背に、私はドレスの裾を翻した。


コツ、コツ、と大聖堂に響く靴音は、驚くほど心地よかった。


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