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第8話:お留守番の終わりと、広がるモフモフの輪

「ただいま戻りました! 俺たちのウールとチビは無事でしょうか……って、ええええ!?」


 翌日の夕方、ダンジョン調査を終えた新米冒険者の二人組が、息を切らせてホテル『アルカディア』に駆け込んできた。

 そして、居間の光景を見るなり、門のところで完全に硬直した。


 そこでは、白くてフワフワなウール・スライムが、見たこともないほど透き通った桃色に輝きながら、メリンの膝の上でプリンのようにプルプルと弾んでいた。

 さらにチビ・グリフォンにいたっては、俺の特製クシで羽の裏をカリカリと撫でられ、野生を完全に忘れて「キュ〜❤」とだらしなくお腹を見せて転がっている。


「あっ、お帰りなさい! 二人ともすごくお利口にお留守番してくれましたよ」


 俺が笑顔でクシを置くと、チビ・グリフォンは「ピピィ……」と名残惜しそうに俺の指先を小さな前足でつっついた。


「す、すごすぎる……! いつもなら一晩預けたら毛並みがバサバサになって怒るのに、むしろ行く前よりピカピカで元気になってるじゃない!」

「ウールの弾力も、高級スパの最高級ソープを使ったときよりモチモチだよ……!」


 冒険者たちは我が子を抱き締め、そのあまりの『激変(極上ケア)』っぷりに涙を流して感動していた。


「フフン、当然です! カルラさんの栄養満点メニューと、マスターのゴッドハンドにかかれば、どんな魔獣だって世界一幸せになっちゃうんですから!」


 受付カウンターからフィオが、待ってましたとばかりに自慢げに胸を張る。


「本当にありがとうございました! 明日、冒険者ギルドの仲間たちに『絶対に行くべき神ホテルがある』って、全力で宣伝しておきます!」


 二人は何度も頭を下げ、嬉しそうに二匹を連れて帰っていった。


 ◇


 数日後。

 最初の可愛いお客様たちが広げてくれた口コミの効果は、俺たちの想像を遥かに超えていた。


「あの、冒険者ギルドで聞いたんだけど、ここに預けると狂暴な魔獣もお利口になるって本当かい!?」

「うちのパタパタ・フェレットが働き詰めで元気がなくて……どうか癒やしてあげてほしいクマ!」


 手書きの看板を掲げたボロ宿の前には、毎日のように街の冒険者や、郵便配達員、地元の農家たちが大切なペット(魔獣)を連れて列を作るようになっていた。


「はいはい、お並びの皆様! 受付はこちらです! 当ホテルは一泊五百リン、手作りご飯とマスターの極上ブラッシング付きですよ!」


 フィオが天才的な手際で受付を捌き、帳簿にどんどん予約を書き込んでいく。

 カルラは厨房で様々な魔獣の生態に合わせた栄養満点のハーブフードを仕込み、メリンは毎日山のような洗濯物やふかふかベッドの作成に追われながらも、みんな本当に楽しそうに働いていた。


 そんな大繁盛の様子を、遠くの物陰からじっと見つめている二つの影があった。


「な、なによあの上代(価格)設定……! 一泊たったの五百リンですって!? ウチの高級スパなら一万ゴールドは取る内容よ! あんなの完全に価格破壊じゃないの!」


 高級なトリマー服の襟を握り締め、顔を真っ赤にして悔しがっているのは、豹族のシャロンだ。


「そうだクマ……! しかも預けられた魔獣たちが、みんな見たこともないような極上のウール(毛並み)になって帰っていくクマ。オレたちの最新魔導機器が、完全に形無しだクマ……」


 隣でクゥマも、熊耳をへにゃりと寝かせてがっくりと肩を落としていた。


 勝負に負けたあの日から、レントの手の感触が忘れられず、毎晩ベッドで悶絶していた二人。

 今日も『怪しい魔法の監視(偵察)』と言い訳をしてボロ宿にやってきたのだが、あまりの実力差を見せつけられ、すっかり圧倒されていた。


「……ん? ああっ! シャロンさんに、クゥマさんじゃないか!」


 お客様の送り出しを終えた俺の目が、門の影に潜んでいた二人を正確に捉えた。

 そして、プロのトリマーとしての俺の血が、再び激しく沸騰し始める。


「大変だ二人とも! シャロンさん、連日の偵察(心労)のせいで、せっかくの美しいポニーテールの根元がさらにパサついている! クゥマさんも、そんなところで縮こまっているから背中の剛毛が完全に絡まっちゃってるよ! 職人として絶対に放っておけない! 今すぐ俺のクシで最高美に整えさせてくれ!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、特製クシを構えて二人に向かってじりじりと足を進める。


「ひゃっ!? だ、だから来ないでって言ってるでしょ! アンタにそんな職人の目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動しちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染め、後ずさりながらも、レントの放つ圧倒的なプロのオーラ(快感の予感)に身体がすくんで逃げ出せない。


「クシが、気持ちよさそうだクマ……! だ、ダメクマ、熊族の誇りにかけて、ここでヘタレ込むわけには……うぅぅ❤」


 クゥマも腕でガードを作るが、クシを見ただけで本能が恐怖と快感で震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、洗濯物干し用の巨大なシーツを俺との間にバッと広げて物理的な壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! うちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうですよ! マスター、あいつらはただの不審者(偵察)です! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついてブレーキをかけ、厨房から出てきたカルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を無言の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちのハサミダコと毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の鉄壁の連携によって完璧に阻止され、俺はズルズルと居間へ引きずられていくのだった。


「も、もう何なのよあのボロ宿はぁぁ……! でも、やっぱりあの人の手、すごく格好よくて……うぅぅ!」

「オレ、本当にあの人のところに嫁に行かなきゃダメなのかクマ……❤」


 引き離された後も、レントの純粋すぎる言葉にときめきを隠せず、さらに複雑なツンデレを拗らせていくシャロンとクゥマ。

 大繁盛のペットホテル『アルカディア』には、今日もモフモフの癒やしと、可愛い修羅場の賑やかな声が響き渡るのだった。


第8話をお読みいただき、ありがとうございます!

最初のお客様を極上の仕上がりでお見送りし、ボロ宿ペットホテルはいよいよ口コミで大繁盛のフェーズへ!

そして毎日『監視(ツンデレ偵察)』に来るようになったシャロンとクゥマですが、レントの無自覚なアプローチに毎度ベッドで悶絶する日々が定着してきました。


次回、ホテルの評判はいよいよ平民の間を飛び出し、王都の「大富豪や貴族階級」の耳にまで届くことに……?

高飛車なお嬢様ペットとの出会いが迫ります!


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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