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第6話:隣国の聖馬と、白銀の騎士隊長

 ドードードードーッ!!


 それは、地響きのような力強い蹄の音だった。

 のどかな郊外にあるペットホテル『アルカディア』の前に、白銀の甲冑を纏った一団――隣国の王家直属騎馬隊がずらりと整列する。


「な、なにあれ……!? なんで隣国の無敵の騎馬隊がこんなボロ小屋に大挙して押し寄せてるのよ!?」

「それに、あの豪華な馬車は……まさか隣国の王女殿下の紋章クマ!?」


 ちょうどボロ宿の様子を『ツンデレ偵察』しに来ていたシャロンとクゥマが、門の影で腰を抜かさんばかりに驚愕していた。近所の住民たちも、国家規模のVIPの登場に遠巻きからおそるおそる息を呑んでいる。


 豪華な馬車の扉が開き、輝く金髪の縦ロールを揺らした可愛らしい少女――隣国のエリザベス王女(十二歳)が、白いミニ馬を引き連れて降りてきた。

 その隣には、鍛え上げられた体躯に整った髭を蓄えた白銀の甲冑姿のナイスミドル、ギルバート隊長が厳かに控えている。


「レント殿、息災であったか。約束通り、我が隊の精鋭たちの定期メンテナンスに参った」


「ギルバート隊長、エリザベス王女殿下。ようこそ『アルカディア』へ。お待ちしておりました」


 俺はいつものエプロン姿のまま、深く礼をして二人を迎え入れた。


 数日前、ホテルの近くの街道で、旅のストレスから完全に機嫌を損ねて暴れていた王女の愛馬、聖馬のミルク。誰も近づけず立ち往生していたところを、俺がふらりと近づき、鼻先と耳の裏のツボを完璧にマッサージしたところ、一瞬で「ヒヒ〜ん❤」と骨抜きになって大人しくなったのだ。

 これに驚愕したギルバート隊長が「我が隊の馬の月イチのフルケアを!」と涙ながらに懇願し、今日がその最初の予約日だった。


「レント! ミルクがそなたに会いたがっていたわ。ほら、今日もあの『みみうらカリカリ』をして差し上げて?」


 おませなロイヤル口調でエリザベス王女が微笑むと、ポニーサイズの聖馬ミルクが、早く撫でろと言わんばかりに俺の胸元に頭をぐいぐいと押し付けてきた。


「よしよし、長旅でお疲れ様、ミルク。蹄の裏もしっかりケアしてあげるからね」


 俺は特製の木彫りクシとブラシを構え、ミルクのブラッシングを始めた。

 さらに、騎馬隊の精鋭たちのたてがみや、長距離を走ってガチガチに凝り固まった太ももの筋肉を、次々と的確に揉みほぐしていく。俺の目は、すでにエリート馬たちの毛並みを最高美に仕上げるプロの職人へと切り替わっていた。


「ヒヒ〜〜〜ん……❤」

「ブルルルゥ、ふにゃぁぁ……」


 演技や走りを魅せるトップアスリートであるはずの高貴な軍馬たちが、レントの手技によって全員だらしなく目を細め、お腹を見せんばかりに地面にへたり込んでいく。


「お、恐るべき男だ……。触れずして我が隊の獰猛な軍馬たちを一瞬で骨抜きにし、極上の忠誠を誓わせるとは。これぞ、あらゆる生き物の心を掌握する真のマスター(達人)……!」


 ギルバート隊長は、レントの技術を武術的な意味で深く勘違いし、畏怖の眼差しを向けながら莫大な報酬の入った革袋をフィオへと手渡していた。


 ◇


 エリート馬たちのケアが一段落し、プロとしての俺のテンションは極限まで高まっていた。

 アドレナリンが出まくり、職人としてのリミッターが完全に外れた俺の目に、門の影から覗いていたシャロンとクゥマの姿が映り込む。


「……ん? ああっ! シャロンさん、それからクゥマさん!」


「ひゃっ!? な、何よ急に大きな声出して!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、クシを握り直して二人にじりじりと迫る。


「大変だ! シャロンさん、その尻尾の毛流れ、さっきの馬のたてがみと同じで乾燥にすごく弱いんだ! クゥマさんも、手首の筋肉が昨日よりガチガチじゃないか! 職人として放っておけない、今なら二人を国宝級の最高美に磨き上げられるぞ。さあ、今すぐ俺にブラッシングとマッサージをさせてくれ!」


「いやぁぁ! 来ないで! 今のアンタにそんな目で睨まれたら、仕来りで本当に結婚(婚約)になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤にして必死に威嚇するが、職人のオーラに圧倒されて足がすくんで escape(逃げる)できない。


「そんな技に屈しないクマ! 熊族のプライドにかけて、嫁入りなんて認めないク……マ……(でもクシを見たら気持ちよさそうで震えるクマ❤)」


 クゥマもガードの姿勢をとるが、理性が崩壊しかけていた。


「マスター、ストーーーーップ!!」


 ズサアアアアッ! と凄まじい風を巻き起こしながら、メリンがパレード終わりの馬たちをズラリと並べて物理的な壁を作った。馬たちもレントに撫でられたいので大人しく壁になる。


「マスター、駄目ですぅ! そいつらはただの泥棒猫(豹)と泥棒熊です! 隣国の馬さんたちだけで満足してください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて自由を奪い、背後からはカルラが笑顔のまま「命が惜しければお帰りなさい❤」とライバル二人を笑顔で押し戻していく。


「待ってくれ! 彼女たちの毛並みはあと一歩で国宝級になるんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


 俺は三人にズルズルと引きずられながら、筋違いの絶叫を上げるのだった。


「ふむ……あの大柄な豹族や熊族の戦士すら、触れられる前に恐怖(快感)で戦意を喪失するのか。やはりレント殿は底が知れん」


「ふふ、レントに撫でられたくてあんなに強がるなんて、獣人の娘たちも可愛いおねだりをするものね」


 勘違いを深めるギルバート隊長と、仕来りを知っていて優雅にお茶を飲むエリザベス王女。

 国家規模のVIPが見守る中、今日も『アルカディア』には、賑やかで可愛い修羅場の声が響き渡るのだった。


第6話をお読みいただき、ありがとうございます!

隣国の王女殿下と直属騎馬隊という超強力なお得意様(後ろ盾)が加わり、ボロ宿の経営はますます安泰へ!

しかし、レントの無自覚な職人魂の暴走と、ヒロインたちの全力阻止による可愛い修羅場は、国家お墨付きでヒートアップしていきます。


次回、ホテルの評判を聞きつけた「とんでもない大物ペット」がやってくる!?

ますますモフモフと笑いが加速するアルカディアの日常をお楽しみに!


続きが気になる方、馬たちまで蕩けさせるレントの技術にスカッとした方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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