最終話:モフモフたちのパラダイスと、終わらない可愛い修羅場
しんしんと夜の静寂が降りる王都の郊外に、アルカディアの温かい明かりが優しく灯っていた。
裏庭の『特製ぬくぬく温泉』からは心地よいハーブの湯気が立ち上り、真夏に大活躍した『特製温水プール』の水面が月明かりにキラキラと輝いている。そして、宿の裏山からは、神獣ルナが展開する白銀の聖魔力の結界が、悪党も魔物も寄せ付けない世界最強の聖域として、この愛する我が家を優しく包み込んでいた。
「さあ、みんな! シャロンとクゥマの完全引っ越しと、ウチの宿の大繁盛を祝して――カンパイだ!」
俺が笑顔でグラスを掲げると、テーブルを囲んだ全員が「カンパイですぅ!」「カンパイ!」と元気よく声を合わせた。
今夜の食卓は、これまでにないほど豪華だった。カルラが腕によりをかけて作った、隣国の最高級ハーブをふんだんに使った特製のすき焼き風ハーブ鍋が中央でほかほかと湯気を立てている。
足元では、お留守番中のチビ・グリフォンやパタパタ・フェレット、そしてカルラ特性のスープを食べておねしょ火を克服したちび竜の赤ちゃんが、大喜びでじゃれ合っていた。
「ふふ、レントさん。シャロンちゃんもクゥマちゃんも、お鍋を美味しい美味しいって、たくさん食べてくれて本当に嬉しいわね❤」
カルラが聖母のような笑顔で、二人の器に次々とお肉を運んでいく。
フィオも「これからは五人体制ですからね。明日からの王宮騎馬隊の定期メンテナンスの予約処理も、完璧に捌いてみせますよ!」と、金の狐耳をピコピコと誇らしげに動かしていた。
「……っ。あ、ありがと。べ、別にアンタと一緒に暮らせて嬉しい(新婚生活が楽しい)わけじゃないんだからね! カルラさんのお料理が美味しすぎるから、毎日ここにいてあげるって言ってるのよ!」
シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて、フンスとポニーテールを揺らしながらツンツンと言い訳をまくし立てる。クゥマも、熊耳をへにゃりと寝かせながら「オレ、この新しいお家で毎日レントにお世話されるの、世界一幸せクマ……❤」と、目は完全にハートマークになっていた。
◇
みんなの笑顔とお留守番魔獣たちの愛らしい姿を見つめるうちに、プロのトリマーとしての俺の血が、再び激しく沸騰し始める。
「……みんな。お祝いも最高だけど、俺のプロの目は誤魔化せないよ。五人とも、連日の引っ越し作業と大繁盛のおもてなし(心労)のせいで、毛並みもウールもコリの塊も、過去最高に乱れて引きつっているじゃないか!」
俺の目は、すでにギラギラとした純粋すぎるプロの目に切り替わっていた。
お祝いの夜の空気よりも、目の前にある五つの最高峰の原石(毛並み)の乱れ。それを放っておくことなど、職人のプライドが1ミリも許さない。
「さあ、誰からでもいい! 今すぐ俺の両手の特製クシとゴッドハンドで、全員同時に最高に蕩けさせてやるから、まとめて俺の前に座るんだ!」
俺は両手のクシをキラリと光らせ、ギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせて五人にじりじりと迫る。
「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! お祝いのごちそうを食べてるこんな幸せな夜に、そんな真剣な一夫多妻プロポーズみたいな熱い目で見つめられたら、あたしたちの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に毎日お世話(結婚生活)になっちゃうじゃないのよぉぉ!」
シャロンは顔を真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。
「く、クシの誘惑が夜の宴会でも容赦ないクマ……! だ, タイムクマ、ここで全員一緒にヘタレ込んで声を漏らしたら、本当に明日から六人で新婚生活になっちゃうクマ……うぅぅ❤」
クゥマもブラシで必死に防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。
「マスター, ストーーーーップですぅ!!」
ズサアアアアッ!
そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、増築祝いで新調したばかりの巨大なふかふか敷布団を俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。
「シャロンちゃん、クゥマちゃん! お祝いのお部屋でうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早く大人しく並んでくださいぃ!」
「そうです! お祝いディナーのどさくさに紛れた、全員同時のハレンチな公開求婚は絶対に禁止です! マスター、あいつらは同じ家に住み始めたのをいいことに、夜に無防備なのを狙っている、ただの常習ツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」
フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」と笑顔の圧力で俺を一歩も前へ進ませない。
「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」
「ダメなものはダメですぅー!」
結局、俺の職人魂の全員同時大暴走は、ヒロインたちの完璧な連携によって阻止され、俺はクシを持ったままズルズルと居間の奥へ引きずられていくのだった。
「ふむ……我が目の前で繰り広げられる、あの男の無自覚な求婚と、それを阻む愛しき娘たちの防衛戦。これぞ、世界の理を超えた真の領域展開(修羅場)だな。我の縄張りとして、これほど退屈しない聖域は他にない」
裏山の結界の中から人間の姿で現れ、特製スープを飲みながらさらに大いなる勘違いを深めて優雅に納得する神獣ルナ。
世界の守護獣が守り、可愛い五人のヒロインたちとレント、そしてたくさんの愛らしい異世界のペットたちが暮らすペットホテル『アルカディア』。
そこには、今日も最高のモフモフの癒やしと、終わることのない賑やかで愛おしい、可愛い修羅場の声がどこまでものどかに響き渡るのだった。
あとがき
本作を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
大繁盛、温泉、プール、そして神獣の結界に守られた世界最強の聖域となった『アルカディア』。
5人の可愛いヒロインたちが一つ屋根の下に揃い、レントの純粋すぎる職人暴走を巡る防衛戦(可愛い修羅場)は、これからもどこまでも賑やかに、そしてのどかに続いていきます。
レントの無自覚ゴッドハンドと、仕来りに抗いながらツンデレを拗らせるシャロンたち、そして全力でレントをガードするメリンたちの疑似家族ハーレムコメディを楽しんでいただけましたでしょうか?
少しでも「モフモフたちに癒やされた!」「この賑やかな修羅場をもっと見ていたい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価で応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
また次の作品や、アルカディアの日常の続きでお会いできるのを楽しみにしております。本当にありがとうございました!




