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第34話:梅雨のジメジメと、おねしょな毛玉

「……うぅ、マスター。湿気のせいで、私のウールがいつもの二倍くらいに膨らんじゃいますぅ……!」


 朝からしとしとと雨が降り続く居間で、メリンが重たそうな自分のくせ毛を抱えながら困り顔をしていた。

 フォレスタ聖王国の王都周辺に、ジメジメとした『梅雨』の季節がやってきたのだ。


 湿気を吸ったメリンの白い髪はフワフワを通り越してモコモコになっており、受付カウンターのフィオも「湿気は狐族の大敵です。尻尾が重くて帳簿がうまくめくれません」と、金の狐耳をへにゃりと寝かせてジト目を向けていた。

 国際パレードの大成功を経て、ホテルの予約は相変わらず満員御礼なのだが、今日やってきたお留守番の魔獣たちも、みんな湿気で毛並みがゴワゴワになり、少し不機嫌そうだ。


 特に、居間の片隅のふかふかベッドでは、第1章で保護したちび竜の赤ちゃんが、湿気が嫌なのか「ぷきゅ〜、ぷすぷす……」とシクシク泣きながら、可愛いもらい火(小さなおねしょ火弾)をあちこちに吐き出して、シーツを焦がしていた。


 ◇


 だが、そんなジメジメとした空気の中、俺は特製の木彫りクシを両手に構え、目をギラキラと輝かせていた。

 プロのトリマーとして、この湿気による毛並みの乱れは、最高に燃え上がるシチュエーションだ。


「よし、みんな大丈夫だよ。湿気で毛の根元に水分が溜まって、皮膚が蒸れてガチガチになっているだけだからね。ハーブと魔力水を調合した『特製お肌に優しい泡立ちソープ』で余分な脂を落として、風の精霊石を組み込んだ『ぬくぬくの送風団扇』で一気に乾かせば、梅雨の湿気なんて一瞬で吹き飛ぶさ!」


 俺はちび竜を優しく抱き上げ、耳の裏のツボをカリカリと指圧した。ちび竜は一瞬で「ぷきゅぅ……❤」と蕩けておねしょ火を止め、緋色の鱗がピカピカに輝き出す。


 最高の仕上がりに、俺のトリマーとしてのアドレナリンは完全に限界を突破した。ブラッシングの熱が冷めやらない俺のギラギラとしたプロの目が、ロビーのベンチで湿気に耐えていたシャロンとクゥマを正確にロックオンする。


「……ああっ! シャロンさんに、クゥマさん! 大変だ!」


「ひゃっ!? だ、だから急に大声出さないでってば!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、クシを構え直して二人にじりじりと迫る。


「大変だ二人とも! シャロンさん、梅雨の湿気のせいで肩の筋肉が昨日よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている! クゥマさんも、驚きと湿気のせいで背中の剛毛の絡まりが限界突破しているよ! 職人として絶対に放っておけない、今すぐ俺のクシで、最高美に整えさせてくれ!」


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! こんなジメジメして部屋の距離が近くなってる時に、そんな真剣な梅雨のプロポーズみたいな目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に毎日お世話になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


「ク、クシの誘惑が雨の日でも容赦ないクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んで声を漏らしたら本当に毎日お世話になっちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマもブラシで必死に防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、湿気対策用に新調したばかりの巨大なふかふか乾燥シーツを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! ジメジメしたお部屋でうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! 梅雨のどさくさに紛れた公開求婚は禁止です! マスター、あいつらは湿気で敏感になってるのをいいことに毎日通っている、ただの常連不審者です! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「雨の日はめっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと居間の奥へ引きずられていくのだった。


「ふぅ……。でも、これだけ雨が続くと、魔獣たちも退屈しちゃうな。よし、この梅雨が明けたら、裏庭にみんなで遊べる『特製ペット用プール』をDIYで作ろう!」


 俺が新たな職人アイデアを思いついて目を輝かせると、引き離された後も顔の赤みを必死に手で仰いでいたシャロンとクゥマは、「次はプール(水着)の罠なのぉぉ!?」とさらに複雑なツンデレな勘違いを深めるのだった。

 ジメジメした季節さえも可愛い修羅場で吹き飛ばすペットホテル『アルカディア』には、今日も賑やかで温かい笑い声がどこまでものどかに響き渡るのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

王都に梅雨の季節が到来し、湿気で毛並みが大変なことになった魔獣たちやヒロインたちのドタバタをお届けしました。

後半は、湿気でテンションの上がったレントの職人魂の大暴走と、必死に抗うライバル、そして超スピードで阻止するメイン3人のいつものアットホームコメディが炸裂しました。


次回、梅雨が明けていよいよ夏本番!

レントが思いついた「特製ペット用プール」のDIY作戦が裏庭でスタート!

ヒロインたちの可愛い水着や濡れ髪イベントが巻き起こる予感……!?


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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