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第29話:ロイヤルパレードの招待状と、初めての社員旅行

「……ええっ!? 隣国の『建国記念親善パレード』に、国賓トリマーとして招待、ですか!?」


 お昼休みの穏やかな食堂に、フィオの驚きに満ちた声が響き渡った。彼女の金の狐耳は、受け取った豪華な手紙を見つめながら、かつてないほどの速度でピコピコと忙しなく動いている。


 手紙の差出人は、隣国のエリザベス王女とギルバート隊長。

 内容を要約すると、今度隣国で行われる国家規模の親善パレードにおいて、各国の王族や貴族が集まる中、主役である聖馬や軍馬たちの毛並みを最高美に仕上げる『チーフトリマー』として、レントを国賓として招きたい、というものだった。


「マスター、国賓ですぅ! それはもう、もの凄く名誉なことですよぉ!」


 メリンがふかふかのウールを弾ませて大喜びし、カルラも「隣国の王宮厩舎でお料理ができるなんて、私も腕が鳴るわね」と優しく微笑む。


「ええ、もちろん俺たち全員で行こう。みんなで頑張って増築したホテルを少しの間お休みにして、初めての『社員旅行』を兼ねた、出張ペットホテルだ!」


 俺が笑顔で提案すると、メインの三人は「おー!」と元気よく拳を掲げた。


 ◇


「ちょっとレント! アンタたちだけで楽しそうな社員旅行(婚前旅行)に行くなんて絶対に許さないわよ! あたしたちも『毎日監視員』として同行してあげるわ!」


 門の影から話を盗み聞きしていたシャロンが、顔を耳まで真っ赤に染めながら、ポニーテールを激しく揺らして居間へ入ってきた。

 クゥマも「そうだクマ! 隣国の頑固な軍馬たちを相手にするなら、オレのパワーが必要不可欠クマ!」と、自慢の熊耳をピンと立たせて腕をまくる。


「べ、別にアンタと一緒の馬車に乗って遠出したい(ハネムーンの約束)とか、そんなハレンチな理由じゃないんだからね! 旅先でアンタが怪しい商売をしないか、あたしが四六時中つきっきりで見張る(生涯の監視)ためよ!」


 シャロンは顔を真っ赤にして、フンスと激しいツンデレの言い訳をまくし立てる。

 あの日以来、レントのゴッドハンドを無意識に求婚と捉え、ほぼ婚約状態だと勘違いしている二人は、全員で泊まりがけの旅行へ出かけるというあまりにも甘美なイベントに、乙女心を激しく悶絶させていたのだ。


「ありがとう、二人とも。遠征の手伝いをしてくれるなんて心強いよ。だけど……旅の準備(未来の荷造り)を張り切りすぎて、二人の身体はまたガチガチじゃないか!」


 俺の目は、すでにギラギラとした純粋すぎるプロの目に切り替わっていた。

 国際パレードの重大さよりも、目の前の愛おしい原石たちの毛並みの乱れ。それを放っておくことなど、職人のプライドが1ミリも許さない。


「シャロンさん、気疲れのせいで肩の筋肉がまた凝り固まって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている! クゥマさんも背中の剛毛の絡まりが限界を突破しているよ! 職人として絶対に放っておけない、今すぐ俺にブラッシングとマッサージをさせてくれ!」


 俺は特製クシを構え、ギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせて二人にじりじりと迫る。


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! 旅行の計画を立てた直後に、そんな真剣なハネムーンプロポーズみたいな目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に毎日お世話になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


dishonesty「ク、クシの誘惑が旅立ちの前から容赦ないクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んで声を漏らしたら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマもブラシで必死に防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、旅用に用意していた巨大なふかふか布カバンを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! 旅立ちの前にうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! 旅行のどさくさに紛れた公開求婚は禁止です! マスター、あいつらは馬車が一緒になるのをいいことに居座る気満々の、ただの常習ツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと居間の奥へ引きずられていくのだった。


「も、もう何なのよあのマスターはぁぁ……! でも、あたしたちも一緒に旅に連れて行ってくれるなんて、すごく格好よくて……うぅぅ!」

「オレ、隣国の手狭な宿で毎日レントにお世話されたいクマ……❤」


 引き連れられた後も、顔の赤みを必死に手で仰ぎながら、初めての遠征旅行を見つめてツンデレな勘違いをさらに深めるシャロンとクゥマ。

 初めての出張ペットホテルに向けてみんなで荷造りを始める『アルカディア』には、今日も賑やかで温かい、可愛い修羅場の声がどこまでものどかに響き渡るのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

隣国の王室から『ロイヤルパレード』のチーフトリマーとしての公式招待状が届き、みんなでワイワイと初めての遠征旅行(社員旅行)の計画が立ち上がりました。

旅の手配を進めることで、さらに「ハネムーン」的なツンデレ勘違いを拗らせていくシャロンたちと、それを超スピードで阻止するメイン3人の、いつものアットホームなコメディをお届けしました。


次回、いよいよ馬車に乗って隣国への旅がスタート!

移動中の手狭な馬車や、旅先の宿の部屋割りを巡り、ヒロイン5人によるレントの奪い合いが過去最高にヒートアップします!


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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