99 第9の国の災厄5
仮想空間では鳥魔族が全滅させられた。
しかしそれでも、副王イブリースには余裕があった。
すぐに、他の魔族による攻撃を考え、補充しようと指示した。
ところが、悪しき心を映す世界との連結点に反応がなかった。
「これは! 現実空間の連結点が無くなったのか! 2つの世界の連結点の有る無しは、大きな相違になるので、仮想空間でその事実をねじ曲げることはできないな。」
イブリースは突然、仮想空間を消滅させた。
大宇宙のような空間に2つの席があった。
それぞれ、イブリースとランカスターが座っていた。
ランカスターの両側には、メイナードとメイが護衛するように立っていた。
イブリースが言った。
「ランカスター公爵様、見事にやられました。私が苦労して作った悪しき心を映す世界との連結点が消滅しました。大方、英雄と魔女のしわざでしょう。私の注意をそらすことに成功しましたね。」
そう言った後、イブリースは席から立ち上がり冷たく言い放った。
「この代償は、ランカスター公爵様のお命をいただくことで埋め合わせていただきましょう。」
突然、仮想空間が消えて現実空間に変わった。
そこは、王宮の広い中庭だった場所だった。
ランカスター、メイナード、メイは、魔物の大軍に囲まれていた。
そして、すぐに3人に襲いかかってきた。
これに対して、メイナードが全面に立ち、完璧に魔物達を撃退した。
短い波の突きは連続速射、長い波の突きは体ごと強く動く大砲‥‥
後から後から襲ってくる魔物達は彼によって、全て消滅させられた。
離れた場所でその状況を確認していた副王イブリースは驚いた。
「あれは確か。彼の技。いや彼以上の槍使いかもしれない。ワイバーンを超えた槍使いだとすると、この数の魔物の数では足りないな。魔物の数を2倍に―― 」
イブリースがそう言うと、ランカスター、メイナード、メイを囲む魔物の数が2倍になった。
一瞬、メイナードはそのことを感じ、メイに依頼した。
「メイさん。ランカスター公爵を運べるよう準備してください。」
「はい。」
メイはすぐにムナジロガラスの姿になった。
「公爵様。すぐに私の背に。」
ランカスターが背に乗ると、続いてメイナードに言った。
「メイナードさんもすぐに。」
「いや。私はこの場に残ります。飛び上がる瞬間を狙われないように守ります。大丈夫です。私は余裕ですから、早く行ってください。」
(メイナードさん。嘘はすぐにわかりますよ。すぐに加勢を頼みます。)
メイは飛び上がった。
その瞬間を多くの魔物が狙ったが、ことごとくメイナードの槍の前に消滅した。
空の上に飛び上がると、メイはムナジロガラス特有の鳴き声で、緊急事態を告げた。
「メイナードさんが危ない!!! 王宮の中庭で無限大の数の魔物と戦っています!!! 」
無限大の数の魔物と戦っても、粘り強いメイナードは淡々と槍を振るっていた。
しかし、さすがの彼の心も折れそうになってきた。
(もうすぐ、この魔物は少なくなる。少なくなったと安心できる。がんばれ、メイナード―― )
自分を励まして戦っていると、不思議なことが起きた。
彼を取り巻いている魔物が少なくなった。
やがて、その理由がわかった。
「クラリス様! いや、あれはザラさんだ!!! 」
ザラが戦いの場にいた。
そして彼のそばに近づいてき、笑いながら言った。
「メイナードさん。今、私と姉様を見間違えたでしょう。でも、最後は私と認識してくれたからうれしいです。休んででください。」
ザラはものすごい勢いで、魔物達の中に切り込んで行った。
「私はザラ。美しき心を映す世界の守護者、真実に至る魔女を継ぐクラリスの妹にして、最強の守護者。魔物は消えなさい。」
やがて、全ての魔物が切られ消滅した。
「最高の槍使いを助けるために、美しき心を映す世界の純白騎士が現われたか、無限大の数の魔物も、無限大の強さを引き出さすことのできる者には勝てないな―― 」
状況を観察していた副王イブリースは追い詰められていた。
既に魔界から連れてきた魔物達は、戦いの中でほとんど消滅させられていた。
さらに、魔物を無限に補充する連結点も破壊され消滅していた。
ただ、彼は魔王アスモデウスと対等の力があるとして、副王の称号を許された暗黒騎士だった。
「我が最高の力を使わなければ、この戦いには勝てないようだな。これを使うと戦いがおもしろくなくなるので、使いたくなかったのだが、仕方がない。」
そして、イブリースは自らの魔力を最大限に高め、そして詠唱した。
「我より強い者はこの世に無し。このことをこの世の理とせん。代償に神に我の命を捧げん。」
イブリースは複数の命を持ち、その命の一つを代償にこの世の中で最強になることができた。
クラリス、アーサー、ランカスター公爵、メイ、メイナード、全員がゴード王国軍に戻った。
さらにザラも合流していた。
クラリスがザラに言った。
「ザラ。来てくれてありがとう。メイナードさんを救ってくれたのね。」
「メイさんが全世界に向けて発した緊急事態の警告を受けてやってきたのです。間に合ってよかったのだけど、今後のことで大変心配なことがあります。」
「ザラ。それはどういうこと? 」
「副王イブリースのことです。暗黒騎士、絶対のイブリースが、魔王アスモデウスから副王の称号を名乗ることを許されている理由があります。」
「魔王に匹敵するくらい強いということですか。」
アーサーの問いにザラが答えた。
「少しだけニュアンスが違います。イブリースは複数の命を持ち、それを神に捧げることでその世界の最強になることができます。つまり、誰も彼に構いません。」
「神がそれを認めるということですか。」
「イブリースは熱心な神の信者だったのです。そして神のために自分の命を何回も投げだし、そのことに感動した神がイブリースに複数の命と与え、さらに命を代償にしたギフトを与えたのです。」
考え深いランカスター公爵が疑問を投げかけた。
「それならば、イブリースはなぜ副王なのでしょう? 最強になれるのなら、魔王になっても良いはずです。なぜ、アスモデウスの方が上なのでしょうか? 」
お読みいただき心より感謝申しわげます。
もしお気に召しましたら、ブックマーク、重ねて御評価いただけると作者の大変な励みになります。




