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96 第9の国の災厄2

 ランカスター公爵は、仮想空間の中の席に座った。




「それでは公爵様行きますよ。」 




 副王イブリースがそう言うと、仮想空間の中が変化した。




 そして、そこは戦場の光景になった。




 公爵の回りには、自分の家臣団がいた。




(家臣達。これは私の記憶から作成された仮想の映像か。)




 よく知っている古い家臣が彼に言った。




「公爵様。軍議の準備ができました。」




「ありがとう。」




 ランカスターは、軍議の準備ができているテントの中に入った。




 そこには、自分がよく知っている顔ばかりが座っていた。




 机の上には戦場の地図が広げられていた。




 地図の上には、味方が白色、敵が赤色で塗られた置物で位置が示されていた。




 ゴード王国全域が赤色になり、それを取り巻くように白色が置かれていた。




「国王陛下はお下がりになられたのですか? 」




「はい。体調があまり良くないため、隣国の城をお借りしてお休みになられています。これから私が全権をもって指揮を執ります。魔族軍の構成を教えてください。」




「スケルトンとオーガです。敵の司令官は巧みに両方の軍団を指揮し、突然王都イスタンに現われてから、わずか半日で、このようにゴード王国全域を侵略してしまいました。」




「兵力差はどうですか? 」




「我がゴード王国軍は5万人、魔族はその10%の5千人です。」




「人間と魔物の体の構造、身体能力を比べると、10%の兵力差で勝っていても戦力差はこちらの方が10%劣っているくらいですね。スケルトンとオーガは混ざり合って軍が構成されていますか。」




「いえ。それぞれ別々に軍が構成されています。」




「スケルトンとオーガ別々に戦法を決めましょう。」




 その後、ランカスターは戦法を家臣達にさずけた。




「たぶん、戦況は波のように一身一体になるはずです。なかなかこちらに有利に運ぶことはないと考えられます。でも少しずつでも押していければ良いのです。ほんの1歩でもいいのです。」




 ランカスター公爵は、みんなの気持ちをまとめることができる人だった。




 彼の一言でゴード王国軍全体が落ち着いた。




 その後、あちこちでゴード王国軍に小規模な魔族の挑発攻撃があった。




 これまでは、その都度強く反応し大きな戦いになり、結果として負けて戦力を削られていた。




 しかし、ランカスターからは挑発攻撃に反応しないように指示が徹底されていた。








 魔族軍の指揮所で、副王イブリースは報告を受けていた。




(もっと勇敢な将軍と思っていたが、ランカスターは存外臆病なのだな。確かに守りを徹底すれば負ける確率は少なくなると思うが、負けることを変えることはできないのにな。)




「それでは、決着をつけてあげよう。ゴード王国軍のランカスターの指揮所目がけて、まずスケルトン部隊が全軍突撃しなさい。その後オーガ部隊が時間差突撃してゴード軍を粉々にしてやりましょう。」




 やがて、スケルトン部隊の全軍突撃が開始された。




 ゴード王国軍はすでにかなりの距離を後退していた。




 追撃したスケルトン部隊がある谷間を通る時、眼に見えない丈夫な糸がたくさん張られていた。




 スケルトンはなだれを打ったように倒れ始めた。




 すると谷間の両側からゴード王国軍が降りてきた。




 彼らはみんな、剣ではなくペンチを持っていた。




 そして、倒れているスケルトンに近づき、ペンチで骨の一部をつかみ谷間の上に去った。




 谷間の上ではランカスターが指揮をとっていた。




「古いにしえの賢人が残した文献で見て勉強した‥‥ 」




 持ってきた骨は聖水で満たされた容器に投げ入れられた。




「‥‥これでスケルトンは存在できない。」




 ランカスターが言ったとおり、谷間で倒れているスケルトンは消えていった。




 次にオーガ部隊が突撃してきた。




 ゴード王国軍に対して突撃してきたが、途中でその方向が変わった。




 吹いてきた風が、生肉の臭いを運んできたからだった。




 オーガ達は先を争ってその方向に走り始めた。




 すると、ある山間の盆地に牛馬の大量の生肉が置かれていた。




 2~3千人にオーガはそこにたどり着くと、無我夢中で肉を食べ始めた。




 ところが、しばらくすると体の大きなオーガ達は突然苦しみ始め、その場に倒れた。




「オニ嫌いの草から抽出したエキスをたくさん混ぜている。雑草だが、はるか昔は人間が自分達の里を守るように意識的に植えていた草。」




 やがて、オーガ達はその場で全て息絶えてしまった。




 魔族軍を全滅させたことを確認して、ランカスターは馬にまたがった。




 そして、全軍に対して指示を出した。




「今こそ進むぞ。我々の国、ゴード王国を取り戻すのだ。私に続け!!! 」




 ランカスターは先頭で王都イスタンに向かって、馬を走らせ始めた。








 魔族軍が全滅させられた報告を受けて、副王イブリースはとても驚いた。




 感情がほとんどない副王の言葉に、感情がこもっているようだった。




「そんなに単純な方法で、我が軍を全滅させたのか。――仕方がない、全てがうまくいき油断が生じているランカスターを王都イスタンで待ち受けよう。王都イスタンまで撤退する。」




 一方、ゴード王国軍を指揮して全速前進しているランカスター公爵に伝令がはいった。




「わずかに残った魔族軍は王都イスタンまで撤退しているのか。王都まで追撃しよう。」




 ゴード王国軍は、本来は自分達がいるべき王都イステンを包囲した。




 住民達の住居や店舗はひどく荒れていた。




 そして、最も変わっていたのが王宮で、形がだいぶ変更されていた。




 ランカスターは全軍をその場に停止させた。




 彼は心の中で立ち止まって考えた。




 そして、仮想空間で戦っている相手、副王イブリースに向かって話しかけた。




 よく通る大きな声だった。




「副王イブリース様。私の負けでございます。この時点でゲームを終了していただけませんか。」








 仮想空間の中の王都イスタンの光景が消えた。




 ゲームを始める前の宇宙のような空間の席に、ランカスターは座っていた。




 距離を隔てて対面する席に座っているイブリースが、機械的な単調な声で言った。




「ここで終わりにするのですか。いやいや、中断するとしましょう。この仮想空間の中の戦いの結果は現実になります。ランカスター公爵様、よろしいですか。」




「はい。やむを得ません。」




「必ず再戦してください。逃げられては困るので、国王と2人の王子は人質としてもらっておきます。」




「やむを得ません。」




 ランカスター公爵は考えていた。




(あの形が変えられた王宮、どこかで悪しき心を映す世界とつながっている。すると魔族の補充は無尽蔵にできるはず。このまま戦いを続けると無尽蔵の数の魔族軍との戦いになる。)




 副王イブリースは考えていた。




(ここで敗戦を認め、戦いを中断させた。最上の判断ができるとは、なんという人間だ。人質をとるのは不本意だが、この人間に勝つためにできる限り有利な手段を確保しておかなくては。それに―― 




――英雄アーサーがやがて帰って来るだろう。彼を押さえる手段にもなる。美しき心を映す世界の守護者、真実に至る魔女を継ぐクラリスも来るだろうから。)

お読みいただき心より感謝申しわげます。


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