95 第9の国の災厄
クラリスは魔眼で王都イスタンの状況を探査した。
そして、驚くべきことを話し始めた。
「この王都イスタンでは魔族のオーラしか感じません。人間のオーラは全くありません。」
アーサーの表情が曇った。
「私の父上と兄上達は今、どこにいらっしゃるのでしょう。無事でいらっしゃれば良いのですが。」
クラリスが言った。
「私の父上の領地やアーサー王子様の領地のゴガン州を中心に、ゴード王国全体を探査してみます。」
彼女は青い瞳の魔眼を強く輝かせ、広い範囲を探査した。
そして、かなり長い時間、探査を続けていたが、やがて全てを知った。
「私の父上の領地やアーサー王子様の領地ゴガン州を含めて、ゴード王国全てに人間のオーラは感じられます。魔族が占拠しているのは王都イスタンだけです。」
「クラリスさん。ランカスター公爵の城に行き、ゴード王国の現状を教えていただきましょう。」
「王宮が魔族のものになり、アーサー王子様の父上である国王や兄上達の行方がとても心配なのに、私だけ自分の家に帰り、父上に会うのは申し訳ないです。」
クラリスの顔はつらそうで泣きそうだった。
「問題ありません。父上と兄上達は御無事なはずです。クラリスさんの父上、ランカスター公爵なら、この事態を冷静に分析し御自身の城を固く守っているはずです。」
「‥‥はい。わかりました。それでは、私の父上の城に帰りましょう。丸太小屋の前ならば、すぐに転移できます。それでは今すぐ。」
クラリスの魔術で、4人は直ぐに転移した。
ヘルムートランカスターは、自分の城の軍議室で考え事をしていた。
緻密で明晰な彼は、1か月前に戦った暗黒騎士のことを考えていた。
始まりは王宮からの早馬だった。
国王からの伝文は、「すぐに王都イスタンへ。王宮へ、今すぐ出頭せよ。」だった。
理由が何も添えられていないことが不思議でおかしいと思った。
しかし忠義心の厚い彼は、急いで数人の家臣とともに出頭した。
イスタンに着き、王宮の城門に向かうと多くの城兵が警備にあたっていた。
(何かあわてて混乱しているような動き。戦いが始まるのかな。)
ランカスター公爵が城門に近づくと、城兵達が一斉に彼を見た。
そして一応に安心したような表情を見せた。
彼の到着を待ち構えていた騎士団長が言った。
「よかった! 公爵様! 早く早く陛下のおそばにお出でください! 」
騎士団長は、せかすようにランカスター公爵を謁見の間に引っ張って行った。
謁見の間の扉を開くまでは、そこには見慣れた光景があると彼は思っていた。
しかし、全く様子が変わっていた。
その中は宇宙の中にいるような仮想空間だった。
そして両側には司令席のような2つの席が設けられていた。
仮想空間を隔てて向かい合った2つの席。
片方には疲れ切ったようなヘンリー国王が座っていた。
そして対局の席には、青白い顔をした騎士が座っていた。
ランカスター公爵はすぐにわかった。
(クリスタが教えてくれたことがある。これが、クラリスとアーサー王子様が戦っている暗黒騎士の1人だな。今どのくらいの国の災厄を防いだのだろう。ゴード王国も災厄が起きる国の1つなのか。)
国王がほっとしたような声で言った。
「ランカスター。来てくれたのか。こっちに来てくれ。」
「わかりました。陛下、今すぐ御前に参ります。」
ランカスター公爵は急いで、国王の席のそばに急いだ。
「あっ! 陛下、この席に縛られているのですね。」
国王の体には光りの縄が何重にも巻かれており、席から立つことができないようになっていた。
その時、対局に座っていた青白い顔をした暗黒騎士が話しかけてきた。
「これはこれは、ゴード王国最高の将軍ランカスター公爵様ですね。あなたにお会いすることを私は楽しみにしていたのですよ。」
ぼそぼそと、単調で、機械的な口調で暗黒騎士は話しかけてきた。
一瞬、ランカスターはその暗黒騎士と目が合った。
そして悟った。
「この暗黒騎士の心は深い。そしてとても強い。はるか先を見て、はるか遠くを見ることができる。」
「ランカスター公爵様。言い忘れました。私はイブリース、悪しき心を映す世界では副王イブリースと呼ばれている暗黒騎士、絶対のイブリースです。」
「副王イブリース‥‥ 」
「はい。私は魔王アスモデウス様を直接補助する者。暗黒騎士としてもの力も、魔王様とほとんど同等とされております。」
「副王様。お聞きしたいのですが。私の陛下を相手にして、いったい何をなさっているのでしょうか。戦いのゲームであるのなら、それは陛下がおやりになることではなく、臣下の私がやることです。」
「ほんの少しだけ、国王様と戦いのゲームをしただけです。しかし、国王様も相当な力がお有りになります。敗北の代償がゴード王国全領土だけで済んだのですから。」
イブリースがそう言っても、ランカスターは顔色を変えなかった。
そして、イブリースに提案をした。
「副王と呼ばれる方が、戦いの専門家でない我が陛下とゲームをして満足していることはないでしょう。どうですか、今から私とゲームをしませんか。」
「うれしい御提案です。良いでしょう。国王様と後退してください。しかし、ランカスター公爵様が負け続けたら、私はゴード王国だけではなく、この全世界を征服してしまいますよ。」
ランカスターは顔色を全く変えなかった。
それを見てイブリースが言った。
「さすがに魔女の国の女王、真実に至る魔女の種馬に選ばれた方だ! 最上級の人間だ! 」
その言葉を聞くと、ランカスターの心の中には大きな怒りの心が生じた。
しかし、その変化は彼の顔色には全く現われなかった。
「頭が良い副王様なのに、大切なことがわからないのですね。クリスタは私のことを選んでくれたのですが、私もクリスタのことを選んだのです。そして、人生で一番の幸運が私に訪れた。」
「まあ、愛ですか。そこの部分のことを私は良くわかりません。それでは、国王様に代わって、その席にお座りください。」
イブリースがそう言うと、国王を席に縛り着けていた光りの縄が消えた。
国王は少しよろけるように席から立つと、代わってランカスター公爵が座った。
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