94 第8の国の災厄8
王イブリースを送り出した後、魔王アスモデウスはザラのことを考えていた。
「よくねたみの感情を捨てることができたな。根の深い感情だと思っていたのだがな。」
10歳で初めて姉のクラリスと会って依頼、ザラはだんだん姉に対して劣等感を感じ始めていた。
その一方、ザラは美しき心を映す世界がとても好きになった。
クラリスがいない時も、こっそり美しき心を映す世界に入り込んだ。
ところが、15歳になった時だった。
クラリスが美しき心を映す世界の守護者になった。
さらに、正式に魔女の国の女王クリスタの後継者として認められた。
そして、「真実に至る魔女を継ぐ者」の称号も与えられた。
「何もかもみんな姉様に頼むのね。姉様に全部集中するのね。」
美しき心を映す世界で、ザラは最も気に言っている場所に座っていた。
それは、初めて姉のクラリスに出会った花々の丘の頂上だった。
「私だって、この世界の守護者になっても良いのに。美しい花々やかわいらしい妖精さん達を守る守護者にしてもらえたら、姉様に負けないほどがんばったわ。」
ザラはその背に、鋼鉄より固くて強い魔光金属で鍛えられた剣を差していた。
姉には全部、あらゆる分野では負けそうだが、なぜか剣技だけは勝てるような気がした。
「双子だからつらいな。姉様と持っているものは全く変わらないのに、全て差が付けられる。姉様の方が上だから仕方がないのかな。こんなこと、これから、ずっと………… 」
すると、どこからともなく声がした。
「強き剣士、賢き魔女よ。あなたは美しき心が大切だと思うか? 」
ザラは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。
「強き剣士、賢き魔女よ。あなたは美しき心が大切だと思うか? 」
「…………」
「強き剣士、賢き魔女よ。あなたは美しき心が大切だと思うか? 」
「思わないわ!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
美しき心を映す世界のはるか高い空に黒い穴が開き、黒い影が侵入し、下に降りてきた。
花々の丘の頂上に立っていたザラの前の空間に留まると、だんだん実体化し始めた。
やがて、その姿は魔王の姿に変わっていったが、気持ちが強いザラに恐怖心は起こらなかった。
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。ザラ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」
「悪しき心? 私の中にある? 」
「あるぞ。ねたみだ。すばらしい姉をもつ者の宿命だ。そのねたみを賛美し私と契約するだけで、私は特別な力を与え、美しき世界の守護者である姉と対等に戦う力を持つことができるようになる。」
「…………わかりました。魔王様。自分のねたみを賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をザラに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されザラを包んだ。
黒い光りが強くなりザラの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだザラが現われた。
「暗黒騎士、ねたみのザラ、我についてくるが良い。」
魔王アスモデウスは空に向かってジャンプすると、ザラも続いてジャンプした。
魔王が右手で黒い光りを放射すると、美しき世界のはるか高い空に黒い穴が開いた。
「ザラ!!! ザラ!!! 」
美しき世界に帰ってきたクラリスが大声で呼び止めた。
ザラは一瞬地上の姉の方を振り向いたが、無表情で何も答えず元の方向を見た。
そして、魔王とザラは空の穴から吸い込まれるように消えた。
魔王アスモデウスはあきらめたような口調で言った。
「仕方がない。四葉のクローバーの白い花が示す真実に至る魔女の姉妹の血の結束は、我の誘惑の魔術の力よりはるかに強かったのか。」
ジョージ公国では、クラリス、アーサー、メイ、メイナードの4人が転移魔法陣の上に立っていた。
ザラとジョージ大公が見送りに来ていた。
クラリスが言った。
「大公様。姉の私からお聞きするのもなんですが、ザラとはどういう関係なのでしょうか? 」
「一応、婚約しています。」
「え――――っ 」
「あの―――― お姉様であるクラリスさんが全ての災厄を防ぐことができ、お隣にいらっしゃる英雄アーサーさんと結婚した後という条件がついていますが。」
「そうですか。ザラ。災厄を防ぐということはわかりますが、なぜ、私とアーサー王子様との結婚という条件が付くのでしょうか? 」
「姉様から教えていただいたのですよ。最後の最後まで望みを捨てないということです。」
「強敵ですね。ザラ。あなたなら私に勝っても不思議はないわ。違いました。人間と魔族が共存する特別な国を考えたという点では、あなたは既に私に勝っています。」
クラリス達4人が手を振り、次の国に転移した。
残り2か国になっていた。
4人は9番目の国に転移した。
転移してすぐ、4人ともそこがどこかわかった。
自分達のふるさとゴード王国だった。
そして、王都イスタンではないかとほぼ確信していたが、少し違っていた。
かってにぎやかだったメインストリートには、誰も歩いていなかった。
そして住民達の住居や店舗がひどく荒れていた。
最も変わっていたのが王宮で、形がだいぶ変更されていた。
クラリスはすぐにわかった。
「あの城の形状は、悪しき心を映す世界、魔界にあるものと同様です。そうすると、魔族がこの王都イスタンを占領しているのでしょうか。」
アーサーが心配そうに言った。
「父上や兄上達、それにあれほど多く暮らしていた住民達はいったいどこに行ってしまったのでしょうか。」
クラリスが警戒の言葉を発した。
「みなさん。何かがやってきます。不視の魔術をかけます。」
彼女が無詠唱で魔術をかけてみんなが見えなくなり、住居の影に隠れた。
すると、魔族達の軍団が更新してきた。
スケルトンとオーガを主体とした強そうな一団だった。
「これは、ほんとうに王都イスタンは魔族に占領されているのですね。情報を得なければなりません。ゴード王国全域を探査してみます。」
クラリスの青い瞳の魔眼が光った。




