93 第8の国の災厄7
ザラが美しき心を映す世界の守護者に加わったことで、世界の均衡は完全に崩れた。
魔王アスモデウスは魔王宮のバルコニーで、悪しき心を映す世界の変化に気がついた。
「常闇の空が低くなった。それに、闇の向こうにわずかに光りを感じる。私が魔王になって500年間、このようなことはなかった―― 」
側近が魔王に報告にきた。
「暗黒騎士ザラが『ねたみ』の束縛を解き、暗黒の甲冑を脱ぎました。今は純白の甲冑を着て、美しき心を映す世界の守護者、姉の家臣になっています。」
魔王は既に感じ取り、知っていることだった。
魔王は昔、ザラのことを偶然に知った。
魔女の国の女王クリスタの2番目の娘として、ザラは生まれた。
女王はまず、人間界のゴード王国、ランカスター公爵家で双子の姉のクラリスを産んだ。
彼女はそれを確認した後、自らを魔女の国の王宮に転移させ双子の妹のザラを産んだ。
姉妹は人間界と魔女の国に別れて育った。
活発なザラは10歳になると、毎日数時間、侍女達から逃げて1人でいることができるようになった。
魔女の国に、特別な泉があった。
それは、この世界中でほんとうに美しいものを水面に映し出す泉だった。
ザラはその泉の前に立ち、水面に映る美しいものを見続けることが好きだった。
ある日、彼女はほんとうに美しいものを見た。
「あ――っ。優しそうな太陽、明るい空の青、さまざまな色で無限に咲いている花々。そして、たくさん飛び回っているのは、きっと妖精達だわ。ほんとうに、きれい‥‥‥‥ 」
ザラは見とれて、全てをしっかり見ようとして顔を乗り出し、うっかり泉の中に落ちてしまった。
気がつくと、ザラは美しい世界そのものの中にいた。
泉の水面に映る光景よりも、直接見た光景は何倍も美しかった。
うれしくなったザラは、走り続けた。
「ここは。ここは。なんて素敵。美しい。美しい。」
知らないうちに花々であふれる丘を登っていたザラは、謝って足を滑らしてしまった。
「あれ!!! 」
斜面を滑ったが、途中で優しい何かに受け止められ、ザラは空中に浮いて丘の頂上にゆっくり運ばれた。
そして、頂上で優しくおろされたが、そこには自分と同じ年頃の女の子が立っていた。
同じ年頃どころか、その女の子と向かい合って立つとザラは非常に驚いた。
「私とそっくり、何もかも同じ。母様とそっくりな所も。」
その女の子が優しく微笑んで挨拶してきた。
「こんにちは、私のうり二つさん。きっと、あなたは私の妹に違いないですね。生まれてから10年、今日初めて会うことができた。うれしい!!! 」
「私は魔女の国の女王クリスタの娘ザラです。」
「私も同じくクリスタの娘クラリスです。人間界で育ちました。」
ザラはクリスタを見ていると吸い込まれそうで、自分より何倍も美しいのではないかと思った。
特に、青い瞳を見ると胸が「ドキン」とした。
「姉様。姉様はなんて美しいのでしょう。」
「いえいえ。ザラさんと外見は全く同じなのですよ。」
(いえ。なぜだか知らないけど、姉様の美しさは特別だわ‥‥ )
その日から姉妹は何回もその美しい世界の中で出会った。
ザラはクラリスと会っていることを母親に隠していた。
ところが、事件が起きた。
魔女の国で生まれたばかりの赤ちゃんが、生まれた瞬間魔力を出しすぎた。
そして、何重にも複雑に絡んだ遠い世界に転移してしまった。
たまたま、魔女の国の女王で真実に至る魔女クリスタは病に倒れ熱にうなされていた。
そのベッドの横で、ザラは心配そうに母親を見ていた。
「母様。病に倒れている母様は魔眼が使えず、かわいそうにどこかの世界で泣いている赤ちゃんの居場所がわからないのね。私は娘だから代わって探すわ。」
クリスタはその言葉を聞いて、精一杯微笑んで答えた。
「ザラ。あなたにはできないわ。残念だけどあなたの青い瞳は魔眼ではないの。あの子なら―― 」
母親が無理矢理、言葉を止めたことがわかった。
「母様。母様と同じ青い瞳の魔眼。姉様は持っているのね!!! 」
「ザラ!!! クラリスのことを知っているの!!! 」
「双子の姉様ね。何回も会っているから、今、お願いに行くわ。」
「そうですか。自分の娘達のことをわからないなんて、母親失格ね。クラリスはどこに? 」
「とても美しい場所によくいるわ。」
「それは、美しき心を映す世界ね。ザラ。お願い、クラリスに聞いて来て。」
クリスタはザラに、行方不明になっている赤ちゃんの髪の毛を渡した。
それから、ザラは魔女の国の泉を通り、美しき心を映す世界に向かった。
ザラが来ることを予知していたかのようにクラリスが待っていた。
「ザラさん。私は赤ちゃんを探さなければならないのね。」
クラリスがすぐに気持ちを読み取ったことにザラは驚いた。
ザラは赤ちゃんの髪の毛を渡した。
すぐに、クラリスの青い瞳の魔眼が美しく輝いた。
そして、赤ちゃんの場所を見つけた。
「今、赤ちゃんの場所を見つけたから、魔女の国の中へ伝心魔術を飛ばし、知らせました。」
そう言ったクラリスは、いきなりその場に倒れ、ザラを大変脅かせた。
「姉様。大丈夫ですか。」
ザラがさらに驚いたのは、美しき心を映す世界から、たくさんの妖精が飛んできた。
妖精達はクラリスの回りを包んだ。
「クラリス様は魔力を使い果たしただけです。妹様。大丈夫です。すぐに私達が魔力を供給しますから。」
映しき心を映す世界と対面の世界、悪しき心を映す世界にいた魔王アスモデウスは、異変に気がついた。
反対世界を見ると、守護者クラリスが倒れていたが、すぐに妖精達に魔力を供給していた。
そして、それを心配そうに見守っているザラを見た。
「守護者クラリスが2人、いや別人。同等の強い魔力を持つ魔女か―― 」
魔王の意識は、魔王宮のバルコニーに戻った。
「そうか。御苦労。すまないが、副王イブリースを呼んでくれ。」
「御意。」
しばらくして、魔王アスモデウスは自分のオーラを刺激する他のオーラが近づくことを感じた。
「来たか。」
魔王のオーラを刺激するくらい強いオーラを持つ暗黒騎士が謁見の間に入って来た。
「魔王様。お呼びですか。」
「副王の名前を与えた暗黒騎士イブリースよ。ザラが向こう側に加わった。」
それを聞いた時、イブリースの心にはほんの少し動揺があったが、彼はそれを深く巧みに隠した。
「そうですか。魔王様。どうされますか。今回の災厄を現実にできるのは後2か国になりました。」
「全く問題無いな。副王と呼ばれるほど強い、お前が起す災厄はもう既に実現していると同様だ。どこかの国1つでも良いから災厄を起すことができれば私の勝ちだ。」
「はい。おまかせを。それでは仕上げがございますので失礼します。」
イブリースは魔王の元から去った
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