89 第8の国の災厄3
闘技場のような空間にアーサーが倒れていた。
そして反対側には、相手とおぼしき騎士が立っていた。
「アーサー王子様。今すぐその場に参ります。早く早く、ヒール魔術をかけなくては。」
魔眼でその様子を見ていたクラリスは大変心を痛めた。
しかし、血は流れてなく、アーサーに変化があったので少し安心した。
アーサーが少しずつ動き始め、剣を杖のようにして立ち上がり始めた。
アーサーは言った。
「スジャール様。あなたの剣の動きはほんの少ししか見ることができませんでした。」
立っているその騎士が握っている剣をよく見ると、木剣だった。
「英雄殿。私の剣は木剣だが、風のように動かすことができる。だから、真剣とほとんど変わりがないのです。あなたは、とても無理な体勢になっても私の剣を防いだ。さすが現世の英雄だ。」
「200年くらい前、風魔法を込めた木剣を自在に使うエルフの剣士、スジャールがいたことを私は知っています。人間の英雄を支えて魔族と戦った話しは、私も子供の頃に聞いたおとぎ話になっています。」
「それは光栄です。エルフであれ、人間であれ、子供のことは大好きでした―― それでは、もう少し続けましょうか。私が木剣を使うことを心配されなくて良いから。」
その後、アーサーとスジャールは剣の打ち合いを始めた。
さまざまな方向から、強弱がその都度異なるスジャールの剣さばきにアーサーは苦労した。
自分の剣で、鋼の剣以上に強くて重いスジャールの木剣を受け止めるのは大変だった。
それが何千回、何万回も続いた。
アーサーは体力を使い果たし、肩で息をして荒い呼吸をしていた。
反対にスジャールは少しも疲れず、静かな息づかいだった。
「英雄殿。あなたは私と剣を交えながら、私の動きをすこしずつ取り入れていますね。今、あなたは普通の人間の十倍の持久力がついていますよ。魔族は数で押してくる場合もありますからね。」
「はい。わかりました。」
「人間がエルフと全く同じ戦い方をする必要はありません。ただ、エルフの戦い方は人間の戦い方の弱点を埋めることはできます。」
その時、アーサーとスジャールの2人が戦っている闘技場にクラリスが現われた。
彼女は2人の真ん中に姿を現わし、スジャールの方を向いておじぎをした。
「伝説のエルフの騎士スジャール様。アーサー王子様はもう体力を使い果たしています。できれば、戦いを一端中止していただきお時間をいただきたいのですが。」
クラリスの言葉を聞いて、その場がおかしな雰囲気に固まった。
スジャールは心の底から笑った。
「はははは‥‥ 『戦い』ではありません。練習です。私の方から英雄アーサー殿にお願いしたのです。」
「アーサー王子様。練習とはどういうことですか? 」
「クラリスさん。心配をかけて申し訳ありません。私の方からお願いしたのです。観覧席にエルフの騎士がいたので、よく見たらおとぎ話に出てきたスジャール様でした。」
「それで光栄にも英雄アーサー殿からお申し出があったので、人間が魔族と戦う場合に最も弱点となる点を中心に御教授しました。」
「‥‥‥‥わかりました。私が勘違いしていたのですね。」
「クラリスさん。ザラさんは多くの英霊をここに召喚しましたが、召喚時の束縛条件は弱くて自由に考えて動けるみたいです。」
「エッ? ザラは英霊をどのような条件で召喚したのですか? 」
スジャールが答えた。
「現世の最高の剣士である英雄、最高の槍使いに自分達の力を見せてほしい。練習の相手をしてほしい。――と」
「え――――っ そうでしたか、私の妹がそのように。」
英霊達はもう十分に満足して、たくさんの光りの玉になって消え始めた。
スジャールも消え始めたが、最後にアーサーに言った。
「200年前の英雄もカッコよかったですが、あなたも相当にカッコよい。」
「スジャール様、スジャール様。おとぎ話の内容で私はずっと確認したかったことがあります。あなたは、命が消えそうな多くの仲間達のために、エルフの長い寿命を分けてあげたのですか? 」
スジェールはほとんど消えていて、両目だけが見えていたが、片方の目をつぶりウィンクした。
英霊達が全くいなくなった後、クラリスがアーサーに言った。
「あの召喚束縛条件のことですが、。」
「現世の最高の剣士である英雄、最高の槍使いに自分達力を見せてほしい。練習の相手をしてほしい。でしたね。」
「もしかしたらですけど、ほんとうは、もっとアーサー王子様とメイナードさんを追い詰めようとしたのですが、妹ザラは魔術構築が下手なので結果としてああなってしまったかもしれません。」
アーサーはにっこり微笑んだ。
「私は最初からあのような目的で魔術を構築されたのだと思います。すばらしい妹さんですね。」
クラリス、アーサー、メイナードが転移する前の場所に帰ると、そこではメイが待っていた。
「メイ。早かったのですね。もっとも今のあなたの飛行速度は、音の速さに近いですから当然ですね。」
「はい。お嬢様。特に心配はしていなかったのですが、全速力で飛んで来ました。その途中、この場所の位置もだいたい確認できました。」
「ここはどの国なのかわかりましたか。」
「たぶん。お嬢様、あの、ジョージ公国です。世界街道沿いにあるジョージ大公が治めている国です。」
メイのその言葉を聞いて、クラリスの顔は曇った。
「ジョージ公国ですか。私にとって、最も嫌な国ですね。」
アーサーが聞いた。
「差し支えなければ、なんで嫌なのか教えていただけますか。」
「はい。私は数年前、王宮で開かれた舞踏会に出たことがあります。他国からの視察団が来ているとのことで、高級貴族の子女は参加するようにという国王の御命令がありました。」
「父上がそのような命令を出していたのですか。大変でした。私はその舞踏会には出ていません。そういう場所があまり好みませんですから、病気を理由にして欠席しました。」
「そうでした。ウィリアムとギルバートの両王子様は出席されていました。私の2人の姉が始まりから終わりまで、そのそばにくっついていましたけど。」
「その舞踏会にジョージ大公が出席していたのですね。」
「はい。いらっしゃいました。」
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