86 第7の国の災厄11
マルコにとって不幸中の幸いだったことは、ファイヤーフルーツの代金支払日まで、まだ1週間あった。
彼は、さまざま人に頼みお金を借りようと考えたが、誰も貸してくれなかった。
必ず貿易で稼いで返すと説明したが、たった1度の不運な過ちを誰も大目に見てくれなかった
既に6日間が過ぎ、明日の1日のみとなっていた。
彼は港の止まる自分の船の上にいた。
深夜、月の光が海面を揺らす波を映していた。
もう体も心も大変疲れ切り、思考は停止していた。
その時のことだった。
「賢き商人、賢き商人よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
マルコは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。
「賢き商人、賢き商人よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「…………」
「賢き商人、賢き商人よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「思うわけがない!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
海のはるか向こうから、黒い影が港の方に向かってきた。
黒い影は港にいたマルコの前の空間に留まると、だんだん実体化し始めた。
やがて、その姿は魔王の姿に変わっていったが、疲れ切った彼の心に恐怖心は起こらなかった。
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。マルコ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」
「悪しき心? 私の中にある? 」
「あるぞ。飛躍だ。誰よりも賢い者がもっている飛躍を賛美し私と契約するだけで、私は特別な力を与え、心に思うだけで飛躍した考えを現実にする力を与えることができる。」
「…………わかりました。魔王様。飛躍を賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をマルコに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されマルコを包んだ。
黒い光りが強くなりマルコの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだマルコが現われた。
「暗黒騎士、飛躍のマルコ、早速自らの強大な力を示すが良い。」
アスモデウスに指示されたマルコは、暗黒騎士の力を最初に使った。
「ウォーターフルーツには特別な調味料が添付されていた。その調味料の効果は数日で消える。ファイヤーフルーツの方が数倍おいしい。」
次の日、前日までの事実が飛躍され、ファイヤーフルーツを買おうと探す商売人が多くなった。
マルコの船に山と積まれたファイヤーフルーツは買った時の数倍の値段ですぐ完売した。
その夜、暗黒騎士、飛躍のマルコは魔王アスモデウスの前にひざまずいていた。
「魔王様。すばらしき力をいただき感謝致します。飛躍を賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」
「暗黒騎士、飛躍のソウヤ、我についてくるが良い。」
クラリスは夢の世界の中で、母親のクリスタにお願いした。
「母様。マルコは最大の不運に見舞われた時、魔王に誘惑され、だまされてしまいました。魔女の国で引き取って立ち直れるよう、助けていただけますか。」
「わかりました。クラリス、私の国で引き取ります。人の過ちを絶対許さないのではなく、許せる過ちであるのなら許してあげる心も、人間の美しき心ですね。」
「はい。」
「それでは、今から、あなたは目が覚めますよ。最後の3つの災厄が待っていますが、あなたとすばらしいお仲間であれば必ず乗り越えることができます。母は心の底から成功を祈っています。」
「ありがとうございます。」
クラリスは長い眠りから目が覚めた。
窓から差し込む光は少し強かったが、心地よく感じることができるほど心と体は回復していた。
‥‥‥‥
それから数日後、クラリス、アーサー、メイ、メイナードは再び転移魔法陣の中に立っていた。
カン帝国皇帝シンと軍務大臣になったコウメイが見送っていた。
皇帝が言った。
「残り3つの災厄を全て防ぐことができるよう、心の底から祈っている。」
コウメイが言った。
「アーサー王子様。立派になられたあなたなら、必ず魔女様を助けて災厄を退けることができるでしょう。
それから、最後にゴード王国にお帰りになったら、ショウによろしくお伝えください。」
4人は深々とおじぎをして、やがて転移魔法陣の中から姿が消えた。
光りが全く無い世界、悪しき心を映す世界の魔王城、謁見の間だった。
残り3人となった暗黒騎士が呼ばれていた。
「暗黒騎士は3人だけになってしまった。しかし、これまでの暗黒騎士と異なり、私に近い力をもっている3人だ。美しき心を映す世界の守護者にこれ以上邪魔をさせることはないと思う。」
魔王のその言葉を聞いて、暗黒騎士ねたみのザラが立ち上がった。
「魔王様。御心配なく。美しき心を映す世界の守護者である姉様は、必ず私がうち破ります。姉様を守る英雄様も押さえ込んでみせましょう。」
「そうか。ザラは守護者と同じ血筋なのだな。この戦いは、後3つの国のどこか1つでも災厄を起すことができれば、それは世界中に広がり、我が悪しき心を映す世界の勝利になるのだ。」
クラリス達4人は新しい国に転移した。
それは殺風景な町で誰も歩いていなかった。うち捨てられているようだった。
クラリスの魔眼が何かを感じた。
「何かが来ます。不視の魔術で私達を見えなくします。『真実に至る魔女を継ぐクラリスが命ずる。全ての光を吸い込むカーテンよ。私達の回りの空間を囲え。』」
やって来たのは騎士の一団だった。
隠れてその一団を見ていたアーサーが言った。
「歩いているだけでもわかります。20人くらいの全ての騎士が相当な実力の持ち主です。達人のオーラーをまとっています。私やメイナードとも十分に戦うでしょう。」
「そんなに強いのですか。あの一団は特別な騎士の集まりだったのですね。一体、どこまで行くのでしょう。わからないように十分に注意して後をつけましょう。」
クラリスの提案どおり、騎士の一団の後の後をつけた。
やがて、町を抜けて建物が何も無い広い場所に出た。
驚くべきことに、そこには騎士の大集団が勢揃いしていた。
その数は約1万人。
アーサーは大変驚いていた。
「やはり、この全ての騎士が達人のオーラをまとっています。このような、達人ばかりの騎士団を整備している国のことは聞いたことがありません。」
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