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84 第7の国の災厄9

けた。


「われは暗黒騎士、飛躍のマルコ。われの言う言葉に従い、物事は飛躍し、魔王の意志を成就せん‥‥


‥‥魔女は海に落される。」


 そう言った途端、クラリスは王宮の謁見の間から、海の上の高い空に転移させられた。


 そして、そこから落された。


 ものすごいスピードで落下は始まった。


 しかし、落下最中でもクラリスは自分の冷静な気持ちを保った。


 そのうち彼女の冷静な気持ちは、真実を見つけた。


 彼女は詠唱した。


「美しき心を映す世界の守護者クラリスは、自分の体を転移させ、高い空から海に落とすことを認めない。」


 その瞬間、クラリスはカン王宮の謁見の間、シン皇帝とアーサーの目の前にいた。


 暗黒騎士マルコが言った。


「我の呪文を打ち破ることができたのか。それでは、もう少し力を入れますか‥‥


‥‥魔女は真空の宇宙に(いた)る。」


 ‥‥‥‥‥‥


 ところが、クラリスには何も変化がなかった。


 彼女は謁見の間でマルコと対峙してたたずみ、厳しい表情をして言った。


「最初の呪文はうっかりして少し受け入れてしまいました。でも、もう真実がわかりました。あなたの呪文は全てが嘘です。飛躍したことが起きたように信じさせているだけです。」


「私が魔王アスモデウス様からいただいた飛躍の力は、何の苦労もなく自分が思うことを実現させる最高の力だ。強い魔力をもつ魔女のようだが、それではお前の横に立つ英雄はどうかな―― 」


 クラリスに暗黒の力が効かないことを悟ったマルコは、ターゲットをアーサーに代えた。


「英雄は真空の宇宙に(いた)る。」


 マルコはアーサーを真空の宇宙に運び、即死させようとした。


「嘘を現実にする理不尽を止めよ。真実を守れ! 」


 クラリスがすぐに反対詠唱を返した結果、アーサーの体には何も変化がなかった。


 彼女の青く美しい瞳は怒りに満ちていた。


「私と戦っているのに、アーサー王子様に攻撃をしかけ、その命を奪おうとしましたね。ゲス、絶対に許しません。」


 その後、暗黒騎士マルコは、さらにひどい魔術を構築した。


「魔女よ。われの力は強いのだ。目的を明確にすると、お前に防がれてしまう。それならば、あいまいな呪文で飛躍を行おう‥‥


‥‥水よあふれよ。」


 謁見の間では何も起こらなかった。


 マルコが何を目的としたのか、クラリスにはわからないので防ぎようがなかった。


「わからないだろう。もうわれの魔術による飛躍は行われた。見るのだ―― 」


 マルコは魔術で、謁見の間に大きなスクリーンを作った。


 2つの離れた湖が映し出されていた。


 1つの湖の水面がみるみるうちに下がったかと思うと、干上がってしまった。


 そして、1つの湖の水面がみるみるうちに上がり、水があふれ始めた。


 濁流は多くの農地を荒い流し、最後には多くの人々が住んでいる町や都市にまで達し浸水させた。


 洪水を見ていた皇帝シンはあわてて言った。


「なんてことをするのだ。マルコ! 我が国の人民達に危害を加えるとはどういうことか!! 」


「皇帝陛下。よくお考えください。私はあなたの顧問のようになって、いろいろなことをして差し上げましたが、私は暗黒騎士です。魔王アスモデウス様の臣下なのですよ。」


「だまされたか‥‥‥‥ 」


 クラリスが言った。


「皇帝陛下。大丈夫です。全く問題ありません。」


 彼女は詠唱を始めた。


 美しき青い瞳の魔眼は怒りに震え、青い炎を宿しているようだった。


「真実の神よ。嘘は嘘。真実は真実。湖の水が移ることはあり得ない。多くの人々の幸せを壊し、それを喜ぶ者に従うな。嘘は口に帰り、嘘を話した者は罰を受けよ!!! 」


 詠唱の後、洪水を映していたスクリーンが破壊された。


 そして、空間から多くの水が流れだし暗黒騎士マルコの口の中に流れ込み始めた。


 みるみるうちに、マルコのお腹は大きくなり最後には意識を失い倒れた。


 その場に同席していたメイが言った。


「お嬢様。相当本気を出しましたね。暗黒騎士が命を失うぎりぎりでした。」


「私が最も大切にしている方に危害を加えようとしたからです。そして、なんの罪もない多くの人々の幸せを壊そうとしました。」


 皇帝シンがクラリスに言った。


「美しき心を映す世界の守護者、真実に至る魔女様。我が人民を助けていただき心から感謝する。」


 その後、皇帝はコウメイの方を見て言った。


「人間として私はまだまだ未熟だ。多くの人の上に立つ皇帝なのに、自分本位に考え陽妃のほんとうの心を知ることができなかった。そして、あのような暗黒騎士を全面的に信用してしまった。」


 コウメイは首を振りながら皇帝に言った。


「いえいえ皇帝陛下。陛下はまだお若いのです。人間は年を経て多くの苦しい経験をしなければ、常に深く考えを巡らせません。」


「そう言ってくれるのか! しかし、私が陽妃との仲を嫉妬(しっと)して行ったことは許してはくれないだろうな。」


「既に許しています。私が皇帝陛下と同じ立場であったのなら、同じような気持ちを感じたでしょう。いや、この世界中の全ての人々が同じだと思っています。」


 その後、皇帝シンは深い悩みの表情を見せた。


「それにしても、私はなんということをしてしまったのだろう。多くの人民を魔族にしてしまった。」


 皇帝にクラリスが説明した。


「大丈夫です。魔石により体の中に魔族を封じ込めてしまった人々は、心の底から喜ぶことで魔族と分離されます。私が魔術で記憶の鑑を転移させ、その鑑にその人が心の底から喜んだ場面を映し出します。


「私が言うのもなんだが、我が人民の中には生まれてから今まで、心の底から喜んだ記憶がない者もいるのではないか‥‥ 」


「はい。そのことも予想しました。芸術です。そのような人々には芸術の鑑を転移させます。そして、音楽、物語、絵画など、すばらしい芸術を映し、それに触れた人々を心の底から喜ばせます。」


「なるほど、大変な魔術だとは思うが、魔女様、我が人民を助けるためお願い申し上げる。それにしても魔女様が激怒した青い炎はとても怖かった。」


 クラリスは顔を赤らめて言った。


「皇帝陛下お忘れください。私は今まで本気で怒ったことはなかったのですが。あの時は、心の底から強い怒りの気持ちがたくさんこみ上げてきました。」


「このような美しい方にそれほど思われる英雄殿は、うらやましいな。はははは―― 」


 アーサーは顔をとても赤らめて黙って下を向いていた。

お読みいただき心より感謝申しわげます。


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