表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/108

83 第7の国の災厄8

 陽妃は、息を1回するのも大変つらそうだった。




 そして、最後の力を振り絞って、自分を抱いているコウメイにささやいた。




「幸せです‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」




 思いやりのあるみんなが部屋から退室して、朝になるまでそこは2人だけだった。








 次の日の朝、クラリスは牢獄の建物の屋上に立って、魔眼で調べていた。




 カンの国の状況を確認していた。




 そして、アーサー、メイナード、メイが待っている部屋に戻った。




「このカンの国で魔族の姿にされてしまった人々は、この町の住民や国軍の兵士を中心に約7万人くらいになります。心の底から喜ぶことができれば、魔石と分離されて人間に戻れることがわかりました。」




 クラリスはとても険しい顔だった。




 それを見て、メイが言った。




「お嬢様が心配なさっているのは、人々が心の底から喜ぶ機会はあまり無いということですね。しかも、それぞれ違った記憶や性格をもつ7万人もの人々全てを喜ばせることはとても難しいです。」




「私は代替手段として、これまでに心の底から喜んだ記憶を想い出していただくことを考えました。」




「お嬢様。大変良いお考えだとは思いますが、たった一つだけ問題点があります。」




「はい。私もその問題点について考えました。これまでに心の底から喜んだ記憶がない方もいらっしゃると思います。」




 アーサーが言った。




「とても悲しいことですが、絶対にいらっしゃいますね。その方々には、記憶ではなく、これから心の底から喜んでいただくしかありません。どうやってそれを‥‥‥‥ 」




 その時だった。




 4人が話し合いをしている部屋にコウメイが入ってきた。




 アーサーが聞いた。




「コウメイ先生。無理はなされないように。」




「いえ。大丈夫です。もう今から、私はこの国のために一生懸命働きます。話の内容が外にも聞こえてきたのですが、今まで心の底から喜んだことがない人々を心から喜ばすことができるものがあります。」




「どのようなものですか。」




「芸術です。音楽、物語、絵画など、ほとんどが過去の優れた人々が、自分が心の底から喜んだ記憶を過去の人々にも体験してもらうよう創作したものです。」




「芸術ですか。少しも気がつきませんでした。確かに、すばらいい芸術はそれにふれた人々を心の底から喜ばせる力がありますね。」




 魔族に変化してしまったカンの国の人々を元の人間に戻す、手順が決まった。




 まず、記憶の鏡をそれぞれの人の心に転移させる。




 その鏡は、その人がこれまで心の底から喜んだ記憶を映す。




 次に、心の底から喜んだ記憶がない人々が判明したら、それらの人々の心に芸術の鏡を転移させる。




 芸術の鏡には、人の心を感動させ心の底から喜びを感じさせることのできる作品を映す。








 コウメイは皇帝シンと謁見することを申し出た。




 わだかまりが全て消えていた皇帝は、すぐに了承した。




 帝都セイトにある王宮で、コウメイは従者4人をつれて謁見の間にいた。




 多くの家臣達が同席する中、皇帝は玉座に座っていた。




「コウメイよ。陽妃はもうこの世にいないのだな。」




「はい。皇帝陛下のお許しで、最後まで私の腕の中におりました。」




「それはほんとうによかった! 陽妃にとっては最後の時間だったが、最高の時間だっただろう。たとえ陽妃がコウメイを愛していたとしても、私は彼女を愛する。愛すべきすばらしい女性だった。」




「陛下。本日はお許しを得たい事があり参上致しました。」




「なんだ。」




「そこにいらっしゃる相談役のマルコ様をこの国から追放していただきたいのです。」




「何を言うのだ。このマルコの魔術で、我が国は獣人を主体にした世界最強の軍隊をもつことができたのだぞ。この軍勢があるおかげで我が軍は連戦連勝だ。ただしコウメイの町の攻略はできなかったがな。」




「皇帝陛下。発言することをお許しいただけますか。」




「マルコの行った魔術が否定されているのだ。反論を許す。」




「人間を魔族の姿にする私の魔術、正確には魔法医学はまだ未完成です。ですから、コウメイ様の町を攻撃した時に、獣人の最大弱点である臭覚を突かれたのです。だから、弱点をまだまだ克服致します。」




「どのように克服していくのだ。」




「私の今の魔法医学では1人の人間に封じ込めることのできる魔石は1つだけです。ですが、この数を複数にします。それで魔族の弱点をそれぞれカバーできます。」








「人間であれ、魔族であれ、複数の命をおもちゃにするのですか!!! 」




 突然、コウメイの従者としてひざまずいていた1人が立ち上がり抗議した。




 皇帝の家臣がたしなめた。




「コウメイ様の家来は発言するな。身分が違う。」




 皇帝シンは立ち上がった者をちらっと見てすぐに言った。




「良い。美しき心を映す世界の守護者、真実に至る魔女を継ぐクラリス様だ。暗黒騎士であるマルコの考えを否定するのは当然だ。」




 クラリスは顔を隠していたベールをとった。




 黒髪は神秘に光り、青い瞳の魔眼は光りが差し込んだ深海のように美しく輝いた。




 あまりの美しさに、謁見の間にいるほとんどの者が驚きの声を上げた。




 ただ一人暗黒騎士マルコだけが違っていた。




「おやおや、魔王アスモデウス様の御心にたてつく愚か者の魔女ですね。それでは聞きますが、この国カンの軍隊を普通の人間だけで構成すれば、今よりずっと弱くなります。国民は不幸になるのでは。」




「戦うことは前提ではありません。人間のすばらしさは、一生懸命に話し合うことで、戦わずに争いの原因を消すことができることです。」




「ほう。いいますね。今、魔族の姿になっている国民には魔王様から全てを与えられので、食事は入りません。眠らなくても良いのです。疲れたり苦しんだりすることはありません。」




「人間は食事をしたり眠ることも必要です。どんなにがんばっても疲れたり苦しんだりするでしょう。しかし、大切な物を手に入れることができます。他の人々や世の中のためになった満足です。」




 否定された暗黒騎士マルコは激怒した。




「美しき心を映す世界の守護者よ。私は魔王アスモデウス様の家臣として、お前を滅ぼす!!! 」

お読みいただき心より感謝申しわげます。


もしお気に召しましたら、ブックマーク、重ねて御評価いただけると作者の大変な励みになります。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ