81 第7の国の災厄6
異変は、皇帝シンに大至急報告された。
「なに! 陽妃が町の城門の上に現われて歌っていると! 」
「はい。魔族であるセイレーンの魔力によって、兵士の大部分がその場で眠ってしまいました。」
「陽妃はなんで、このような戦場に現われたのだ? 取りあえず、動ける兵士は耳をしっかりふさぎ、撤退するよう指令を出すのだ。」
実は、皇帝の妃である陽妃とコウメイは知り合いだった。
戦術家として世界的に名高いコウメイは、数年前、教授として王宮に勤務していた。
一方、陽妃は平民の出だったが皇帝に見初められて、妃になる準備をしていた。
コウメイは陽妃にさまざまなことを教える教師役に就任していた。
「コウメイ先生。帝国はなぜ庶民から税を徴税するのですか? 」
「陽様。帝国は国民のため、さまざまなことをしなくてはなりません。外敵を防ぐ。産業を振興する。弱い人々を守る。道を作る。学校や病院を作る。さまざまあります。それで、お金がいるのです。」
「なるほど。それならば徴税する理由もわかります。でも、私以外の国民にはよくわからないのです。詳しい説明もされませんし、何よりも国の役人の態度は尊大で国民を見下しています。」
「はははは。陽様。はっきり申しましてそれは真実です。政治を行う者は、自分達が行っていることを国民によく説明することが必要なのです。それに国民とは対等な立場であることを強く認識すべきです。」
「よく理解できました。ありがとうございました。ところで先生、先生は世界的に名高い戦術の専門家です。戦術ではなく、このような基本的なことを、できの悪い私に教えるのはつまらなくないですか。」
陽の顔は真剣だった。
それに対して、コウメイは穏やかに微笑みながら答えた。
「いえいえ。どのようなことであれ、私にとって若者に自分の知識を教えることは非常に楽しいものです。自分がこの世から消えた後も、若者達はこの世界をより良くしてくれるのですから。」
「先生。そう言っていただけるとうれしいです。私にとって、いろいろなことができる先生は雲の上の方です。後、ひとつだけ、是非是非、先生に伝えたいことがあるのです。よろしいですか。」
「はい。どのようなことでもおっしゃってください。」
「先生は聞くところによると、まだ25歳だそうですね。ですから若者なのですよ。今まできっと、御自身がやりたいこともがまんされて、国のためにがんばられてきたと思います。」
その後、陽は何か大切なことを伝えたいようだった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
しかし、伝えたいことを心の中になんとか隠して、別の伝えたいことをコウメイに伝えた。
「コウメイ様。そんなに疲れた顔をして国のために働いてばかり―― 自分のやりたいことをやって、自分の得になることだけを考えても良いのですよ。」
「はい。大切なアドバイスありがとうございます。お礼申し上げます。これから陽様が困難に陥った時は私を頼ってください。必ずお力になります。」
「数か月前、魔族セイレーンの姿になってしまった陽妃様が、私を訪ねて来られた時は大変驚きました。」
コウメイが陽妃を紹介すると、クラリス達4人に対して陽妃はおじぎをした。
「私がこのような魔族になってしまったことで、陛下が国民を全て魔族しようとしているのはとてもつらくて悲しいことです。なんとか陛下をお止めしなくては―― 」
クラリスが陽妃に依頼した。
「陽妃様。お体を調査させていただいてもよろしいですか。」
「はい。どうぞ。」
クラリスの青い美しい瞳の魔眼が輝き、陽妃の体の真実を調べた。
「陽妃様。魔族になってしまった他の方と、体の中の御様子はほとんど同じです。ですが、大きく異なる点があります。おっしゃってしまってよろしいでしょうか。」
陽妃は黙ってうなずいた。その後に伝えられることも、既にわかっているようだった。
「陽妃様の人間としてのお体はもう寿命が来ています。ですから、人間としての要素よりも魔族セイレーンとしての要素の割合が高まっています。このままいくと、完全な魔族になります。」
「美しき心を映す世界の守護者、真実に至る魔女クラリス様にお願いがあります。私は人間として息絶えたいのです。それに、私の中に封じ込められたセイレーンも外に出してあげたいのです。」
「陽妃様。私が魔眼で今知りましたことがあります。あなたのお体の中の魔石に封じ込まれたセイレーンが言っています。『このままでも良いですよ。』」
「いえ。セイレーンに体を返したいのです。」
その時、伝令が急報を告げにきた。
「国軍の本陣から、皇帝と警護の兵士が再び町に近づいて来ます。」
コウメイが言った。
「わかりました。また私が出迎えましょう。戦場で深い深い眠りについている兵士達のことも決めなければなりませんから。」
それに続いて陽妃が言った。
「私も行って陛下にお会いしなければなりません。きっと、陛下は私に会いに来ているに違いありません。」
皇帝シンは警護の兵士数人を引き連れて、町の城門に近づいて来た。
警護の兵士達は全て獣人に変化していた。
町からはコウメイ、アーサー、クラリス、メイナードそして陽妃が城門に近づいた。
城門に近い場所では、不測の事態に対応するためメイがムナジロガラスの姿になって、いつでも飛び立てるように待機していた。
第一声は皇帝からだった。
「陽妃よ。帰ってきたのか。なぜ、私の所ではなく町なのか。」
「皇帝陛下。ほんとうに申し訳ありません。この町は私にとって一番大切なのです。」
「なぜだ! 」
陽妃の口から出た次の言葉に、その場にいた全員が大変驚いた。
「私にとって、心の底から愛する方、コウメイ様の町だからです。」
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