表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/108

80 第7の国の災厄5

皇帝シンは寂しそうに微笑んだ。




 そして、お互いに別れ、コウメイが町の城壁の中に戻ると攻撃が始まった。




 国軍はほとんどの兵士が獣人になっていた。




 体が大きく身体能力の高い獣人達は、人間の数倍のスピードで城壁に殺到してきた。




 ところが、城壁に近づくと同時に、多くの兵士達が倒れ始めた。




 牢獄の経験を参考に、コウメイが千花草を城壁のそばに植えていたのだった。




 短時間で植えるために、クラリスとメイが魔術を使って助けた。




「皇帝陛下。兵士達が城壁に近づくと倒れてしまいます。どうも何かの強烈な臭いを感じているようです。」




「そうか。獣人は臭覚が強いことを逆手にとられたな。攻撃を一時停止せよ! 」




 皇帝の命令により、国軍の攻撃は一時止んだ。








 町の中では、牢獄の建物が司令部になっていた。




「コウメイ様。国軍の攻撃をしのぐことができました。ところで、城壁の側で倒れて意識を失っている兵士達はどうしましょうか。千花草の臭いを吸い続けると、命が危ないのでは。」




 クラリスが提案した。




「私が仮想空間を作り、そこに一時収容しましょうか。空気も十分に供給されるような作りで、ゆりかごのような環境にして眠ってもらいます。」




「お願いします。1万人くらいだと思いますが、そのような人数を収容できるのですか。」




「確かにこれまで、そのような巨大な空間を作ったことはありません。でも自分の魔力、魔術を信用するしかありません。城壁の上に立って魔術を使います。」




「城壁の上に立つと矢が飛んできて危なくないですか。」




「いえ大丈夫です。世界中で誰もが知っている最強の英雄にガードしてもらいますから。」




 クラリスとアーサーは互いに顔を見合わせて、うなづいた。








 やがて、戦場で驚くべき光景が見られた。




 城壁の上に女性と騎士が立った。




 クラリスとアーサーだった。




 クラリスが拡声魔術を使い、町を包囲している国軍に呼びかけた。




「私は美しき心を映す世界の守護者、やがて真実に至る魔女を継ぐクラリスです。この城壁の下で意識を失い倒れている方々を、今から別の安全な空間に転移させます。」




 側近から皇帝に報告された。




「陛下。城壁に立った魔女が変なことを言っています。倒れて意識を失っている我が軍の兵士達を、今から別の安全な空間に転移させると。矢をたくさん射かけて殺してしまいましょう。」




「いや待て。普通の魔女ではない。魔王と対峙して美しき心を映す世界を守っている尊い存在だ。それに横に立っている騎士はゴード王国の紋章の甲冑、英雄だ。」




「陛下。お言葉ですが、我々はもう魔王の配下、暗黒騎士マルコ様と同盟関係にあります。城壁に立っている2人は敵なのでは。」




「だが、正しいことを言っているぞ。あの城壁周辺の強烈な臭いの中で、あのまま意識を失ったまま放置させておくのは命が危ないぞ。」




 皇帝と側近が議論をしていたが、早まった弓隊が矢を連射し始めた。




 ところが、どんなに大量に矢を連射してもそれはクラリスには届かなかった。




 その前に立ったアーサーが楯を構えて、自らの剣で矢を振り払った。




 それは鉄壁な防壁だった。




 やがて、クラリスの魔術の構築が完成した。




 美しい青い瞳の魔眼が輝き、城壁の下に倒れている国軍の兵士達を見渡した。




 一瞬、周辺の空間が光りでおおわれ、光りが消えた後、そこに倒れていた兵士達は消えていた。




 大魔術を完成させたクラリスはその場に倒れた。




 アーサーは彼女を片手でかかえ、楯をその場に捨て、剣のみで大量の矢を振り払った。




 矢だけでは完全に防ぐことができず、何本かはアーサーの甲冑をかすった。




 皇帝は側近をしかりつけた。




「すぐに止めさせろ。我が軍の兵士のことを考えて魔女が転送してくれたのに、大量の矢を放つとは恥知らずだ。それにしてもあれだけの数の矢を防ぎきるとは、英雄の剣技はすばらしい。」








 皇帝は全軍にしばらく攻撃をしないように通達した。




 一方、防御している町の中では、比較的安全な建物の中のベッドにクラリスが寝かされていた。




 侍女のメイがその様子を見守っていた。




 やがて、クラリスが目を覚ませた。




「メイ。どうでした。私の魔術は―― 」




「お嬢様。見事に成功しましたよ。1万人もの兵士のみなさんが安全な空間で眠っています。」




「アーサー王子様は、私を完全に守ってくれたのですね。」




「奇跡的な力を出されました。おめでとうございます。これで証明されました。」




「何がです??? 」




「男の人は、ほんとうに愛する人のためなら信じられないこともできるのですよ。もっとも、英雄と呼ばれるアーサー王子様はもともと能力が普通の人より何倍も高いのですが。」




「‥‥大事なことを確かめることができてよかったです。うれしい‥‥ 」










 皇帝を囲み、今後の戦いについて軍議が行われていた。




「これで、我が軍は4万人、町を守るコウメイの配下はせいぜい500人だろう。あの強烈な臭いのおかげで獣人になった者は近づけない。獣人ではない兵士の数は何人だ? 」




「5千人くらいだと。」




「そうか、それではその者達に命じて、城壁の下に植えられているあの強烈な臭いのする草を燃やしてしまうのだ。臭いさえ消えれば獣人も動くことができる。後は総攻撃だ。」




 それから国軍から兵士達が出て来て、城壁のそばまで近づき千花草に火をつけ始めた。




 その様子がコウメイに報告された。




「そうですか。千花草を燃やして臭いがなくなったら総攻撃をかけるつもりですね。わかりました。しかたがありません。奥の手を出しましょう。」








 城壁の下に植えられていた千花草を全て燃やすと、国軍は総攻撃を開始した。




 4万人が城門目がけて突撃してきた。




 ところが、今まで頑強に閉ざされていた城門が大きく開け放たれていた。




 そして中からは優雅に演奏された楽器の音色が聞こえていた。




「なんだ。あれはきれいな音色だ。」


「きっと相当な名人が弾いているに違いない。」




 全軍がその場で立ち止まった。




 さらに国軍の兵士達は仰天ぎょうてんした。




 城門の上に何かが空から降りてきて、そこにとまった。




 下半身は鳥だが上半身は女性の姿をした魔物セイレーンだった。




「陽妃様!!!!!! 」




 その顔を知っている兵士達は2重に驚いた。




 陽妃はやがてセイレーンの力を使い歌い始めた。




 多くの兵士達は、その美しい歌声を聞き、その場で眠ってしまった。

お読みいただき心より感謝申しわげます。


もしお気に召しましたら、ブックマーク、重ねて御評価いただけると作者の大変な励みになります。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ