78 第7の国の災厄3
皇帝シンは、完全に暗黒騎士マルコの言いなりになった。
人間を魔族に変えて行く実験について、マルコがアドバイスした。
「皇帝陛下。人間を全て魔族に変えるには、帝都セイトは広大で人口も多く実験場所には不適切です。ですから、数千人くらいの地方の町を対象にして行う方がよいと考えます。」
「そうか‥‥‥‥ 候補として適していると思う町があるぞ。」
皇帝は、ある地方の町、ラインのことを考えていた。
正しくいうと、その町の城主のことを考えていた。
暗黒騎士の言いなりである自分に不安があった。
だから、その者の反応を見てみたかった。
ラインの城主が、今、アーサー達の目の前で独房に入れられているコウメイだった。
「皇帝から、この町の住民達に魔族になるかどうか問い、拒否した者は処罰するよう通達がありました。もちらん、私は直ちに拒否し皇帝に刃向かいました。そして、このような罪人になりました。」
クラリスが聞いた。
「最初、この町に転移した時、大変多くの人々が魔族になっていましたが、いったい、どれくらいの数になるのでしょう。」
「半分、2~3千人の住民が魔族にされてしまいました。ところであなたは、英雄であるアーサー王子様と一緒に災厄に立ち向かう、美しき心を映す世界の守護者である魔女様でしょうか。」
「はい。そうです。クラリスと申します。」
「クラリス様。お聞きしたいのですが、魔族の体の組成物を体に入れて魔族に変化してしまった人間をなんらかの方法で元に戻すことはできるのでしょうか。」
「この国に転移してから、ずっと魔眼で真実を調べて見ています。この町の人々は魔族に見えたとしても、人間としての要素が強く残っています。そこに強く働きかければ希望はあります。」
「クラリス様。あなたは美しき心を映す世界の守護者であるとともに、魔女の国の女王の後継者、真実に至る魔女を継ぐ方なのですね。そのような力の強い方がそうおっしゃるのなら希望はありますね。」
アーサーが言った。
「コウメイ先生。まず、この牢獄に収監されている3千人の方々を助けたいと考えています。全員を無事に脱走させて、安全な場所に立てこもりたいと思います。」
「アーサー王子様。この牢獄に収監されているのは約3千人、それに対し、牢獄の番人はほとんど獣人に変化しているとはいえ、30人くらいです。」
「アドバイスありがとうございました。収監されているみなさんは牢屋の中にいた方が安全なのですね。だから、番人達をなんとかコントロールする方が正しいということですね。」
「さすがです。すぐに御判断をくだすことができるのですね。」
「どうやって番人達をコントロールすればよいでしょうか。」
アーサーの問い掛けにクラリスが提案した。
「この牢獄の番人達は狼の獣人に変化しています。私とメイで狼の感覚を麻痺させる力がある臭いを作り出します。異常な感覚になったら、動くことはできなくなります。」
「動くことのできなくなった番人は、私とメイナードで牢屋の中に閉じ込めます。」
クラリスがメイに相談した。
「メイ。狼が最もにがてにする臭いは何かしら。」
「お嬢様。私の直感では千花草の臭いだと思います。千花草は、千の花の臭いをとても短い周期で出し続けます。私は千花草の群生の中で、多くの狼が倒れて死んでいるのを見たことがあります。」
「狼にとって、それほど強力に引きつけられ、感覚を麻痺させられる臭いなのですね。でも、あまり長い時間留めるのは獣人になった番人のみなさんの体が心配ですから、早く臭いの無い場所に転送しましょう。」
牢獄の建物の屋上に番人達を集めるため、アーサーとメイナードは別れた場所でわざと見つかった。
「うあー侵入者だ。」
「こちらにもいたぞ。」
身体能力の強い獣人だったが、それ以上の力で受け止め、2人は屋上に向かって逃げた。
屋上では、クリスタとメイナードが千花草の準備をしていた。
「お嬢様、どうしましょうか。魔術的に臭いを作りましょうか。それとも、どこかからすぐに千花草をとってきましょうか。」
「魔術で臭いを作ってもよいのですが、少しでも違ったにおいになってしまうリスクがあります。」
クラリスはかなりの遠方まで、魔眼で千花草の群生がないかどうか探査した。
「メイ。偶然ですが、この町に近い山の頂上に千花草の群生地があります。東北ですが。」
そう言われたメイは、遠方まで見ることができる鳥の眼で、その場所を確認した。
「お嬢様。意外に近い場所にありましたね、すぐに取って参ります。」
メイはムナジロガラスの姿になり、勢いよく高く飛び上がり姿が見えなくなった。
そして、すぐに牢獄の建物の屋上に多くの臭いがにおいはじめ、メイが再び帰ってきた。
大きな鳥の姿のメイは、口の中から虹色の花をたくさん落した。
人間の姿に戻ってメイは言った。
「千花草の臭いは強烈でした。私も意識を失いそうになったので、全速で戻ってきました。」
「大変でした。メイありがとう。」
すぐにアーサーとメイナードが屋上に駆上がってきた。
「すごい臭いですね。途中で異常に気がついて番人達が留まると大変です。」
「それでは、番人達が来るまで臭いごと見えない袋で包みましょう。」
クラリスは魔術をかけ、見えない袋で臭いごと千花草を包んだ。
やがて、狼の獣人になった番人達が屋上に上っていた。
アーサーは言った。
「この牢獄の番人のみなさん。私は皇帝シン様の方針に絶対反対します。人間は魔族になってはいけません。人間のままでも十分な力を持てるのですよ。メイナード、行きましょう。」
2人は屋上に上がってきた番人達と剣や槍で戦った。
もちらん、最新の注意で傷つけないようにした。
やがて、クリスタが大きな声で叫んだ。
「アーサー様。メイナードさん。袋を消滅させます。『消えよ』」
屋上にあっという間に千花草の臭いが充満した。
すぐに、狼の獣人になった全ての番人達は倒れた。
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