77 第7の国の災厄2
マルコが王宮に参内して、陽妃を診断する日が来た。
陽妃の寝室で、マルコは病気の原因を調べた。
「皇帝陛下。陽妃様のお体の中でさまざまな臓器が寿命に近づいております。」
「陽妃は私と同じ、まだ25歳だ。それなのに寿命が近づいているとはどういう意味だ。」
「人間の体は弱いものです。年齢がお若い方でも、実は個々の臓器の寿命は別なのです。」
「どうすればよいのだ。」
「魔族の体の組成をお体の中に入れて、臓器を強くするのです。ちょうどセイレーンという魔物がおります。上半身が女性で下半身が鳥の姿ですが、陽妃様の治療にうってつけだと思います。」
「‥‥‥‥そうか‥‥‥‥、頼む。その魔族の体の組成を陽妃に与えてくれ‥‥ 」
ところが、皇帝がそう言った瞬間、陽妃は全身の力を振り絞り拒否した。
「皇帝陛下! そのようなことはなさらないでください! 弱い体で生まれたことは私の不運でございますが、陛下とお会いし、陛下に深く愛されながらい死にゆくこそ私の最大の幸です! 」
陽妃は必死な形相で皇帝に訴えた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥私は1人になることに耐えられない。マルコよ‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
皇帝はマルコに指示した。
「はい。陛下、御意のままに。」
力がなく、わずかな抵抗しかできない陽妃に、マルコは魔族セイレーンの体の組成を投入した。
その後、陽妃は深い眠りに落ちてしまったように見えた。
次の日、カンの国の王宮は早朝から大混乱におちいった。
とても美しい歌声が聞こえてきた。
鳥のさえずりのようにも聞こえたが、王宮の全ての人々に聞こえた。
誰もがうっとりとしてしまい、中には眠り込んでしまう人もいた。
近衛団長が皇帝の執務室に報告に来た。
「これは誰が歌っている。すばらしい響きだが、この歌に心を捕らわれて何もできなくなってしまうな。歌を歌うのことを止めよと注意するのだ。」
「陛下‥‥ 実は歌をうたわれているのは、陽妃様なのです。元気になられて立ち上がっておられます。」
「そうか!!! 今、行こう!!! 」
「陛下。陽妃様を見られると、とても驚かれると思います。御覚悟が必要です。」
「なんで覚悟が必要なのだ。陽妃の重い病が全快するのは、私が待ち焦がれていたことだぞ。」
皇帝は急いで別宮に全力で走った。
陽妃の寝室に駆け込んだ。
ずっと重い病気で寝ている陽妃の寝室には、カーテンが引かれ暗いことが普通だった。
しかし、今は明るい光りが満ちあふれ、風が吹き込んでいた。
「陽妃!!! おめでとう!!! 」
皇帝は幸せ一杯で寝室に入った。
中に入った皇帝シンを、既にベッドから出て立ち上がっていた陽妃が見つめた。
その姿は幸せに満ちあふれていた皇帝を愕然がくぜんとさせた。
陽妃の上半身は人間であったが、下半身は鳥だった。
背中には大きな羽を2つ生やしていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
皇帝は何も言えなかった。
それを見て、陽妃が話し始めた。
「皇帝陛下。私は全快致しましたが、このような魔族になってしまいました。もう、陛下の御前や王宮、いえ人間が住む場所にいることはできません。おいとまを。」
その後、陽妃は明け放れた窓に近づくと、皇帝に向かって深くおじぎをした。
そして、そこから外の空に向かって飛び去った。
皇帝はその場に崩れ落ちた。
しばらくの間、頭を抱えて黙っていたが、急に大きな声で近臣を呼んだ。
「誰ぞ! 軍務大臣を呼べ! 」
やがて、軍務大臣が皇帝の前に現われた。
「陛下。お呼びでございましょうか。」
「帝都セイトの中にマルコという得体のしれない者がまだいるはずだ! 縄をかけて捕らえ、すぐに連れてくるのだ! 」
普段はとても温厚な皇帝からは想像できないくらい怒り狂っていた。
「はい。御意のままに。」
軍務大臣はマルコ捜索のために、1万人の国軍を出動させた。
国軍は帝都中を探し終えたが、いっこうにマルコを見つけることができなかった。
軍務大臣が皇帝の執務室に報告に来た。
「まだか! 」
「申し訳ありません。国軍の兵士1万人が全力で捜索しております。」
「そうか。続けよ。下がれ。」
国務大臣が部屋から下がると、皇帝は天を仰いだ。
「私の決断がよくなかった。あんな得体の知れない者の言いなりになってしまったおかげで、陽妃はあのような姿になってしまった。くそっ!!! 」
皇帝にしてはあまりない悪態をついた。
「皇帝陛下、皇帝陛下、皇帝陛下‥‥ 」
外のバルコニーから何回も呼ぶ者がいた。
「その声は、マルコか!!! 」
皇帝シンは走ってバルコニーに出た。
予想どおり、バルコニーにマルコがひざまずいていた。
「マルコ!!! 陽妃があのような姿になってしまった!!! 死をもって償え!!! 」
皇帝は青竜刀を抜いて、マルコに斬りかかった。
何回も何回も刀を振ったが、そのたびにマルコは簡単に避けてしまった。
「皇帝陛下。刀を振る相手が悪すぎます。私は魔王アスモデウス様の暗黒騎士、飛躍のマルコです。」
「暗黒騎士だと。人間の世に災厄をもたらそうとしている者達ではないか。」
「災厄ではありませんよ。人間が魔族になってどのような問題がありますか。陽妃様の美しいお顔はそのまま。逆にお体が強くなり、美しく歌い、空を飛べるのです。」
「陽妃はそうなったことに絶望して、私の元から永久に去ったのだぞ。」
「皇帝陛下。よくお考えください。すばらしい方法があります。いっそうのこと、このカン王国の全ての国民を魔族になさったら―― 回りが全て魔族になってしまったら、陽妃様も安心されるでしょう。」
「人間の中に進んで魔族になろうとする者などいるのか。私はいないと思う。」
「そうでしょうか。国民の中には非常に貧しく、毎日食べ物を得るために長い長い時間働いて、大変苦労している者が多いのです。」
「私も、その問題についてはよく理解しているつもりだ。」
「それでは、こうお伝えになったらどうでしょうか。魔族になれば飢えの苦しみから解放されると。」
「魔族でも何か食べたりして、栄養をとる必要があるのではないか。」
「いえいえ大丈夫です。悪しき心を映す世界の守護者、魔王アスモデウス様にお願いすれば、全ての魔族は生きていくためのエネルギーをいただけるのです。それに、別の利点があります。」
「別の利点とは? 」
「たとえば国軍の兵士を獣人に変えてしまったらどうでしょうか。獣人の身体能力は人間の5倍、皇帝陛下の軍は世界最強になります。」
「そうか。回りが全て魔族になれば、陽妃の不安も無くなり私の元に戻ってくれるな。」
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