76 第7の国の災厄
小さなアーサーは紹介されたコウメイを見た。
背がとても高いその男は、アーサーをとても優しい顔で見た。
そして心からの敬意をこめて、王族に対するおじぎをした。
「アーサー王子様。お初にお目にかかります。私はカンの国のコウメイと申します。」
目を見て話すコウメイをアーサーはすぐに大好きになった。
「我が学友のショウが私にいつもくれる手紙に、あなた様のことばかり書かれています。」
「え――っ どのようなことが書いてあったのですか? 」
それを聞いたショウが遠回しに「言わないでくれ」という合図をした。
しかしコウメイはかまわず話し始めた。
「王子様は極めて強く極めて弱い。剣術や兵法の理解力が人並み外れて高く、やがては世界に名を知られる剣士や将軍になる。しかし、他人に対する共感性が高いから人の痛みが最大限にわかる。」
「そうですか。自分で考えている自分とほとんど同じなので安心しました。」
コウメイはうなづきながら、アーサーを自分の息子のように見て話した。
「アーサー王子様。御助言することをお許しください。もし今後、大変な事態に御身が陥った時、他人のことばかり考えることは一時期大損になるかもしれませんが、最終的には大勝利をもたらすでしょう。」
「わかりました。先生、私はずっと忘れません! 」
忘れられない大切な記憶は、何年経ってもいつでも鮮明に想い出される。
今、独房の檻の中で静かに座っているコウメイを見た時、想い出した。
アーサー達はその目の前に姿を現わした。
コウメイは髪が伸びほうだいで、とても汚い顔をしていた。
しかし、すばらしい才能と美しき心を秘めたその目は、アーサーをしっかりと映した。
「アーサー王子様。お久し振りでございます。英雄と魔女が、人間に訪れようとしている災厄をつぎつぎに防いでいるということはこの国でも知られております。」
「コウメイ先生。私やクラリスさん達がこの国に転送されたいうことは、このカンの国も災厄にみまわれていうのです。何が起こっているのでしょうか。」
「この国カンは合理的な考えと神秘的な考えを同時に尊びます。ある日、王都セイトに人間とは違うオーラをまとった者が訪れ、王、この国では皇帝と呼びますが、皇帝シンに謁見しました。」
「皇帝シンは死を恐れていましたので、神秘的な力をまとった者に強く引きつけられました。その者はたぶんアーサー様達が戦っている暗黒騎士だと思います。」
半年くらい前のことだった。
皇帝シンは、帝都セイトの住民達の中で、神医として名高くなっていた者を王宮に呼び出した。
皇帝に仕える1,000人ほどの家臣もいっしょに見まもる中、謁見が開始された。
「帝都の住民達の中で神医として名高い者よ。他国の者と聞いたが、どこから来た。名前は。」
「マルコと申します。この国とはかなり遠い海に接するベネスという国から船で来ました。」
「思い病気になってしまい、余命いくばくもない多くの住民を助けてくれたそうだが、なぜ、そのようなことができるのだ。」
「はい。実は私には人間の体の一部を病に犯されない、別の強い組成にすることができます。もちろん、ご本人の同意が必要なのですが。」
「別の組成とは、どのような者か。」
「こう言うのは不適切かも知れませんが、人間を超えた物でごさいます。」
「遠慮しなくてもよい。もっと具体的に申せ。」
「魔族でございます。」
「お――――――っ 」
その場にいた多くの家臣から驚きの声が上がった。
「大丈夫か。魔族は人間と敵対する者。この世界中では今、英雄と魔女が悪しき心を映す世界と戦い、災厄を防いでいることは私の国でもほとんどの者が知っているぞ。
「皇帝よ。他国から貴国に流れ込み、英雄と魔女の物語を歌う吟遊詩人の話しを信じてはいけません。あれはおもしろおかしく作られたお話です。」
「そうなのか。どこが嘘なのだ。」
「ほんとうは、魔族は人間と近い生き物なのです。それに、魔族の体は人間にとっては重い病になるさまざまな原因に対して絶対的な抵抗力があります。」
「人間の体の中に入った魔族の体の組成が、何か悪いことをしないか。」
「大丈夫でございます。病気のため使うのは、ほんのわずかな魔族の体です。ほんのわずかですから、その他大部分の人間の体の組成を支配できません。」
皇帝シンはここまで聞いて、しばらくだまった。
1,000人ほどの家臣達もだまって見まもり、謁見の間は静寂に包まれた。
‥‥‥‥‥‥‥‥
少し長い沈黙の後、皇帝が口を開いた。
「マルコよ。それではお前に重い重い病気を治してもらいたい者がいるのだ。よいか。」
「はい。もちろんでございます。皇帝の命であれば、完全に完治させます。もし、今私が申したことがうそ偽りで、完治できなかった場合は、私の命をお詫びとして差し上げます。」
「そこまで言うか。いつお願いできる。明日でもよいか。」
「つつしんで、明日、さまざまな道具を持ち参内致します。」
皇帝シンには心の底から愛している妃がいた。
これまで皇帝と一緒に歩み、数々の困難、苦労を乗り越えてきた。
平民の出で皇后にはなれなかったが、皇帝は「陽姫」と呼んで特別な存在としていた。
いつも彼女が自分のそばにいて、優しく照らしてくれるという意味である。
皇帝は彼女が命を落し、永遠に別れなければならない時が来ることを最大に恐れていた。
マルコとの謁見の後、皇帝は陽姫の暮らす別宮に出向いた。
病に伏せている部屋に皇帝シンが入って来るのを見ると、陽妃は体を起そうとした。
しかし、重い病に体の力を奪われている彼女にはどんなに努力しても不可能だった。
「いいんだ。陽妃、そのままで。」
「皇帝陛下。申し訳ありません。」
「気にするな。早く良くなって、私に元気な顔をみせてほしい。切望だ。陽妃の顔を見られなくなることを創造しただけで、私は奈落の底に突き落とされる。」
「陛下。死は誰にでも必ず訪れます。人間としてはこの世にいなくなっても、私と過ごした、たくさんの想い出が陛下をお支えします。」
重い病で大変つらいはずなのに、陽妃は最高の明るさと優しさで微笑んだ。




