72 第6の国の災厄3
集会場のような建物は意外に広く、中の通路をかなり歩いて別の部屋の前に着いた。
ドアを開けながら長老が言った。
「みなさま。この中でお待ちください。」
中に入ると細長い大きなテーブルに2列で向かい合った席が作られていた。
4人を席に座らせると長老は出て行った。
クラリスとメイが話した。
「この村に来て気がつきましたが、私達のゴード王国やこれまで訪れた国々がある世界とは全く別の場所にあります。次元の壁で囲まれています。」
「お嬢様のおっしゃるとおり、私達の世界に広がっている自然のエネルギーが全くありません。」
アーサーが言った。
「このような場所を誰が作ったのでょうか。」
クラリスの青い瞳の魔眼が輝いた。
「私の魔眼でこの場所の大きさを測って見ましたが、かなり広く私達の世界の1つの国がすっぽりと入ってしまうほどです。10万人くらいの人々が暮らしているようです。」
「魔族の気配は感じますか。」
「さきほど、あんなに多くの魔族を見たのですが、今は全く感じられません。この場所~国といって良いと思いますが、今この国の中で生きているのは人間だけです。」
メイナードが少し憤慨ふんがいしながら話し始めた。
「それにしても、他人にお礼、感謝を示してはいけない。『ありがとうございました』などと言うのは禁句である。感情にまかせて手をたたいて拍手するなど最低の行いである。―― とは最低です。」
4人は同時にうなずいた。
アーサーがメイナードに聞いた。
「袋の中には十分な食糧が入っていましたか。」
「はい。私達4人の1週間分くらいの栄養満点な携帯食糧が入っていました。エルビンさんとハンナさんのお子さんが元気よく生まれてくるのに支障はないと思います。」
クラリスの魔眼がしばらく強く輝いた後、彼女はとても険しい顔で話し始めた。
「美しき心を映す世界の守護者になる時、悪しき心を映す世界と戦うため、歴代の守護者がこれまで経験した何千年にも及ぶ記憶が引き継がれます。この世界に関係する記憶がありました。守護者の敗北です。」
「敗北ですか? どういう原因があったのですか? 」
「5百年前、その時の魔女と魔王が戦いました。歴代最強の魔女だったのですが、実は最大の弱点がありました。心の底から愛し、その人とずっと一緒にいたいと思う恋人ができたのです。」
「もしかしたら、その人は英雄だったのですか。」
「それならばよかったのですが。全く普通の何も特別な力を保たない人間の男の子でした。ただし、心の優しい。いつも自分よりも他人を思いやることができる子でした。」
「その恋人が最大の弱点になったのですか? 」
「はい。狡猾でずるい魔王は、自分が勝つことだけを目的に‥‥‥‥‥‥ 」
はるかなる昔、美しき心を映す世界の守護者、魔女リサがいた。
まだ10代の若い美しい歴代最強の魔女だった。
彼女は、悪しき心を映す世界の守護者、魔王の契約者である暗黒騎士と戦い次々と倒していった。
そして、暗黒騎士の数がとても少なくなり、もう少しで美しき心を映す世界の勝利が見えてきた。
ところが、魔王は大逆転をねらい、とても卑劣なことを考えた。
リサには、普通の人間の男の子であるアルバーノと深い恋に落ちていた。
彼女はとても強い魔女のように見えたが心は傷つきやすく、とても繊細だった。
それに対して、アルバーノは全く普通の何も特別な力を保たない人間の男の子だった。
ただ、心が優しくいつも自分よりも他人を思いやることができた。
暗黒騎士の人数が少なくなるにつれ、強さはだんだん高まり、リサは最初より何倍も強い相手と戦わなくてはいけなかった。
さらに、人間だった暗黒騎士のさらに大きな悲劇を知ることになり、彼女は心を痛めていた。
その日の深夜のことだった。
「トントン。」
ドアをたたく音がしたので、アルバーノは眠ろうとしていたが起き上がり、扉に近づいた。
「どなたでしょうか? 」
「リサです。」
「あっ! リサさんですか! 」
彼女がこんなに遅く彼の家を訪ねてくることはなかったので、とても驚いていた。
急いでドアを開けた。
すると、そこには、全身赤い血だらけになった彼女が立っていた。
「どうしたのですか!!! 」
アルバーノは急いで彼女の中に招き入れた。
「これは、私の血ではありません。実は別の人、暗黒騎士ゴードンの返り血なのです。」
もう彼は、リサが美しき心を映す世界の守護者である魔女で、魔王の家臣である暗黒騎士と戦う運命であることは知っていた。
「戦いには勝ったのですね。」
「はい。とても強い暗黒騎士でしたが、ようやく勝つことはできました。しかし、彼の心は負けることを許せなかったようです。ですから、私の心に深い傷を残そうとしました。」
「これが、その方法なのですか―― 」
「はい。ゴードンは魔王に絶対的な忠誠心があり、最後まで魔王との契約を破棄しませんでした。―――それで、自分に魔術をかけました。爆裂魔術です―― 」
その言葉を聞いたとき、共感力がとても高く優しい心の持ち主であるアルバーノは全て理解した。、
まだ10代の女の子の前で、人間が爆発して大量の血の塊かたまりをかぶったら――
リサの話を聞いた後、アルバーノはだまって強く優しく彼女を抱きしめた。
「アルバーノさんの体中、この汚らわしい血で汚れてしまいます。」
「かまいません。あなたが血をかぶった心の痛みの一部を私が受け取り、少しでも心の重荷を減らします。」
それから、アルバートは湯船の浴槽にお湯をため始めた。
そして元気よく言った。
「行きますよ。もう拒否できませんよ。」
リサの血がたくさんついた服を脱がして丸裸にするとともに、自分も服を脱いで丸裸になった。
彼女をお姫様だっこして、いっしょにお湯につかった。
そして優しく、彼女の体にこびりついている血の塊を荒い流した。
お湯を頻繁にかえて、湯船の色が血の色に染まらないよう彼は十分に注意した。
そうしている内に彼は気がついた。
「リサさん‥‥ 眠ってしまった‥‥ 極限まで疲れていたのですね。ぐっすり眠ってください。」
彼女の体を拭いた後、自分のベッドに優しく寝かせた。
彼自身は予備の毛布を持ってきて、床に横たわった。
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