71 第6の国の災厄2
空を覆い尽くしていた魔族の大群を見ても、アーサーとメイナードは勇気を失わなかった。
出切る限り大勢の人々をカバーするような場所に立ちふさがり、コウモリのような魔族の大群にすきをみせなかった。
魔族達は試すように1匹1匹急降下してきたが、そのたびにアーサーの剣とメイナードの槍が防いだ。
そのため、だんだん魔族の大群はパニックを起し始めていた。
そして、最後には集団で気が狂ったようなヒステリーになり、大量の数が一気に、アーサーとメイナードめがけて急降下してきた。
その時だった。
強い光が輝いた。大気に浮かんだ微粒子のせいで暗い世界の様子が変った。
クラリスが空間に通路を作り、美しき心を映す世界から、その太陽が輝く光を直接招き入れた。
「キーキーキー 」
コウモリのような魔族の大群は光りを恐れて、あっという間に立ち去った。
ただ困ったことがあった。
この国の住民達も強い光がにがてで、ほとんどの人々が、両手で目をふさいでいた。
「メイ。お願いします。住民のみなさんの目にヒール魔法を。」
「わかりました。お嬢様。」
メイは両手で、その場にいた住民達に両手で自然の回復エネルギーを放出した。
すぐに住民達の視界は回復した。
やがて、村の中から長老らしき老人が歩いて来て、アーサー達4人にあいさつした。
「旅の方だと思いますが。私達の仲間を助けていただいてありがとうございました。」
「いいえ。犠牲者を出さずに魔族を退けることができてよかったです。ところで長老様、私達は旅をしている者ですが、どうも迷い込んでしまったみたいです。ここはどこなのでしょうか。国の名は。」
アーサーはそう聞いたが、長老の答えにあっけにとられた。
「旅の方、ここはプリズンです。国? 国とはどういうことでしょう? プリズンです。」
「えっ‥‥ 国とは多くの人々がまとまり、幸せに暮らすために協力して暮らすものです。国王が責任をもってその役目を担うのです。国王がいない、民の合議でさだめる共和制もありますが。」
「誠に失礼ですが、見られたとおり、私は生まれてから何十年も生きてきた老人です。もう覚えていないほどの人生ですが、『国』という言葉を見たことも聞いたこともありません。」
アーサー達4人は顔を見合わせた。
長老が続けた。
「こんな場所でお話しても申し訳ありませんので、村の中にお入りください。また、魔族が襲ってくるかもしれません。」
「『魔族』とはなんですか? さきほどいらっしゃった『神』なら知っていますが。神はだいぶお怒りのようでした。我々人も抵抗することは許されていますが、犠牲者はいつも出てしまいます。」
アーサー達4人は村の長老の案内で、集会場のような大きな建物の中に通された。
そこにあるたくさんの席に座って待っていた。
「アーサー王子様。ここの作りは教会の礼拝場のようですね。」
「クラリスさん。なぜか違和感を感じます。私の国にある教会とは違うような‥‥ 」
そのうち礼拝場の扉が開き、住民達が入ってきた。
ほとんどの住民が集まったようで、300人くらいが入ってきた。
長老がみんなに紹介した。
「みなさん。今日、鉱山の仕事に出た帰り、我々の仲間が神に命を狙われました。抵抗しなければ、ほとんどが死んでいたでしょう。ところがこちらに座っている旅の方々に命を救っていただきました。」
‥‥‥‥‥‥
しかい、300人ほどの住民達の反応はほとんどなかった。
何も考えていないような無機質な表情で下を向き続けていた。
ところが、遠慮しながらした拍手が聞こえた。
長老が言った。
「今、手をたたいた者。前に出なさい。」
若者の夫婦の2人が手を結び、おずおずとびくびくしながら前に出てきた。
妻はお腹に子供がいるようだった。
「手をたたくなんて、恩人である旅人のみなさんに、なんて御無礼なことをするんだ。」
長老が2人を叱った。
クラリスがあわてて止めた。
「長老様。失礼だなんてとんでもない。私達は当然のことをしたまでですが、お礼の心を手をたたいて拍手で示すことは、無礼ではありません。」
「いやいや。娘様。この村の掟では、感情を外に出すことは固く禁じられております。」
それから長老は祭壇まで歩いていき、そこの下から古い本を持ってきた。
クラリスの前に戻り、その本を広げて探すと、あるページで手が止まった。
「法典1,230、他人にお礼、感謝を示してはいけない。『ありがとうございました』などと言うのは禁句である。感情にまかせて手をたたいて拍手するなど最低の行いである。」
そして、厳しい顔でそれをクラリスに見せた。
正義感の強いアーサーが強く反論しようをしたが、クラリスが黙って顔を振り止めた。
「おまえ達は罰として、1週間、食事は抜きだ。」
その後、長老は4人に微笑みながら言った。
「恩人の方々。別室に豪華な晩餐を御用意させました。御案内します。たくさnお食べください。」
4人は長老に案内されて集会場を出て行こうとした。
メイナードは、長老に叱られた出産まじかの若い夫婦が、自分とフレイヤとほぼ同じ年だと言うことに気がついた。
そして何かをしようとして、アーサーの方に目で合図した。
アーサーが長老に言った。
「これから行うことは、私達が生きている場所では、絶対に守らなければならない法典に書いてあります。行わなければ命はありません。代表してメイナードが行ってもよろしいですか。」
「仕様がありません。そういう強い決まり事でしたら、私は何も申しません。」
「長老様、ありがとうございます。メイナード、神聖な神聖な儀式を行ってください。」
「はい。アーサー王子様。」
メイナードはわざとらしい足取りで若いカップルに近づいた。
「だんなさんの名前は。」
「エルビンです。」
「おくさんの名前は。」
「ハンナです。」
「どうぞ、これを―― 」
メイナード中が見えない袋をエルビンに渡した。
なんだろうと思って、エルビンは中身を少し確認した。
「これは‥‥ 」
メイナードは心の底から感謝を込めて、微笑みながら、とても小さな声で2人に言った。
「拍 手 あ り が と う 」
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