70 第6の国の災厄
クラリスは自分の最大の魔力を集中させて、ソウヤにヒール魔術をかけ続けた。
魔術は最初、全く効果がないように見えたが、やがて体に変化が見られた。
そして、明らかに呼吸と血の循環の回復が見られ、閉じた眼球が動き始めた。
ソウヤは意識を取り戻し、目を覚ませた。
「やった! 帰ってきました! 」
クラリスは心の底から喜んだ。
「私はもうこの世から去ろうと思ったのですが、あなたが呼び戻したのですか。」
ソウヤの質問に彼女は答えた。
「そうです。私とアーサー王子様は、あなたに是非生きていただきたいと思いました。あなたは、自分が唯我独尊に逃げ込んだことを恥だと思い反省されたのですね。」
アーサーがお願いした。
「お願いします。恥だから命を捨てるなんて思わないでください。私なんか日々、英雄と言われるには恥な自分を数多く見つけています。」
アーサーは心からソウヤにお願いした。
「‥‥‥‥‥‥‥‥わかりました。でも私は極端な唯我独尊を賛美し、魔王アスモデウスと契約し暗黒騎士になりました。」
クラリスが青い瞳の魔眼を輝かせながら答えた。
「大丈夫です。少しも問題ありません。ソウヤさんは自分が犯した誤りを反省し、魔王との契約をしっかり破棄されたのです。真実に至る魔女を継ぐ私が確認しました。」
「ほんとうですか。」
「ただソウヤさん。少しの間、魔女の国に転移しますので、心と体の回復に努めてください。」
アーサーが言った。
「神のように強いあなたの心と体ですから、絶対に回復できるはずです。」
「はい。アーサー様。クラリス様。ありがとうございます。」
クラリスが転移魔術をかけるとソウヤの姿は消えた。
永久に夜が続く悪しき心が映す世界の王宮で、守護者である魔王アスモデウスが赤ワインを飲んでいた。
人間の国10か国を完全に支配するため、魔族の国にしようとする目的だった。
ひとり言が口から出た。
「私の心の中にひらめいた野望は、もう半分打ち砕かれている。野望を果たすため、契約を結んだ10人の暗黒騎士のうち、既に5人が敗れ去った‥‥‥‥‥‥ 」
魔王はグラスに赤ワインを注ぎ、口の中に注いだ。
「もともと、我が悪しき心を映す世界と、反対の美しき心を映す世界とは世界の天秤により均衡が保たれている。魔族と人間の世界とは決して交わらず、お互いに侵略はできない。」
人間界への侵略がうまくいかない状況は、魔王にはかなりのストレスのようで、さらに赤ワインを大量に口の中に注いだ。
「しかし、歴史が始まって以来、ずっと保たれていたバランスを崩す今がそのチャンス。絶対やり遂げてみせる。残りの5人の暗黒騎士は私とのつながりが深い、絶対に契約を破棄しないだろう。」
そして、魔王は愉快に微笑んだ。
「ほぼ魔族に近くなった強い力をもつ5人は、あの英雄と魔女に勝って、悪しき心を映す世界の範囲を広げ、必ず人間界に魔族の国を出現させるだろう! 」
フラン王国では、前国王が再び王位についた。
誰も知らないうちに、ソウヤ国王は消えた。
そして不思議なことに、ソウヤがフラン王国に現われ国を治めていた2年間が、誰の記憶からも消えていた。
クラリス、アーサー、メイ、メイナードの4人は、転移魔法陣の中に立っていた。
クラリスがメイに言った。
「メイ。お疲れ様でした。フラン王国中に空からまいてもらった忘却の雪の効果はしっかり出ています。」
「お嬢様の発想はさすがでした。特定の期間の特定のことを忘れるポーションを作り、それを季節はずれの雪にして降らせれば、季節はずれの雪をめずらしがった全て人々の上に落ちる。効果が出ましたね。」
「それでは、次の国へ。」
4人は6番目の国に転移した。
メイが咳き込んだ。
「空気が非常に悪いです。自然の物だけではなく、何か人間の手で人工的に作られた、とても小さな粒が空中に漂っています。」
視界は非常に悪かった。
かろうじて、空中に漂うカーテンを通じて弱い太陽の光りが感じられた。
「ここは、住居が続く村のようです。」
回りを調査したメイナードが報告した。
やがて、大きなサイレンの音が聞こえた。
「このサイレンは村のはずれの向こう側から聞こえてきます。」
「様子を見に行きましょう。」
4人は様子を確認するために、暗い中、かろうじて見えるメインストリー沿いに村の端に進んだ。
村の端に行ってわかったのは、村は高い柵で囲まれていた。
入口には武器を所持した門番がいたので、4人は物陰に隠れながら様子を見張っていた。
すると、村の入口から出て遠くまで長く続いている道の向こうに、500人くらいの集団が見えた。
彼らは労働者のようで大変疲れているようで、何も考えずぼおっとした表情で歩いていた。
そして、彼らを守るかのように武器を所持した警護がついていたが、とても十分な数ではなかった。
のろのろ歩いてした集団が、ようやく村の入口に近づいてきた時のことだった。
彼らを取り囲むかのように、周囲に何か大きなものが飛び降りた。
「あっ。あれは―― 」
アーサーは驚いた。
「はい。人間ではありません。コウモリのような形態の魔族です。」
驚いた護衛が、一生懸命抵抗したが、鋭い爪であっという間に命を奪われていた。
そして、あろう事かコウモリのような魔族は命を奪った護衛の血を吸い始めた。
護衛の遺体はあっという間に血を吸い上げられた。
労働者の集団は悲鳴を上げて、パニックに陥った。
「メイナード。行きますよ。」
「はい。アーサー様。」
2人は最大限のスピードで走った。
そして、労働者に襲いかかろうとしていた魔族を剣で切り撃退し始めた。
あっという間に、大部分の魔族が切られ消滅した。
すると、生き残っていたコウモリのような魔族が、極めて高い鳴き声を上げた。
鳴き声はさらに高くなり、人間の耳で聞くにはつらくなり、アーサー達は耳を手でふさいだ。
鳴き声が終わり、異常な気配が上空にひしめいた。
上空は、コウモリのような魔族の大群でおおわれていた。
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