69 第5の国の災厄6
クレハ島に騎士団の船が帰ってきた。
騎士達の家族達は、再会を楽しみに港に押し寄せた。
港に橋が掛けられ、船の中から英雄を先頭に騎士達が出て来た。
みんな、よろよろとした足取りで、騎士達の列が予想に反してすぐに途絶えた。
姿が見えない人々の家族達が、英雄に聞いた。
「英雄様。私達の家族はどうなったのですか? 」
そう聞かれた若い英雄は、多くの家族達に聞かせるため、高い場所に立ち話し始めた。
「みなさん。悲しいことを御報告しなければなりません。竜人達との戦いには勝利し全滅させました。しかし、犠牲も多く出てしまいました。騎士ライザさん他100人ほどが亡くなってしまいました。」
多くの悲鳴と泣き声が起こった。
戦死した騎士の家族の1人が英雄に詰め寄った。
「なぜですか! この世界最強の騎士団の半数が命を落すなんて、あり得ません。」
核心をついた家族の質問に対し、英雄は真剣な顔で話し始めた。
「実は、血気にはやったライザさんをリーダーにして、半数の騎士達が無謀な突入をしてしまったのです。
竜人の計略にはまってしまうから、私は必死に止めたのですが‥‥‥‥ 」
英雄は悲しそうな顔をして下を向いた。
幼いソウヤは母親と一緒にそこにいた。
命を落した騎士達の家族が、一斉に、ソウヤと母親にとても厳しい敵を見るような視線を投げた。
その夜のことを、ソウヤは決して忘れることができなかった。
家に帰って、夜遅くなっても母親は眠ろうとしなかった。
「お母さん。体に悪いよ、もう眠ろう。お父さんの代わりに僕、がんばるから。」
リビングの椅子に腰かけて下を向いていた母親に、寝室から抜け出したソウヤが言った。
「ありがとう。ソウヤはいい子ね。その優しさをずっと忘れないでね。」
その後、母親は突然驚くべき行動に出た。
手元には荷物がまとめてあった。
そして、ソウヤの手を強い力で引いて外に出た。
もう、冬の季節だった。
海からの冷たい風が容赦なく2人に吹き付けた。
港に向かって走っていた。
そこには、亡くなった父親ライザが所有している小さな船があった。
母親はライザの手を引いて、その船に飛び込んだ。
立ち上がって船を出そうとしていた時、母親は突然倒れた。
「お母さん。どうしたの!!! 」
暗闇の中でソウヤが母親の体を手でさわると、何か生ぬるい感触があった。
その場が急に明るくなった。母親がたくさんの血を流して倒れていた。
誰かがたいまつで照らしたのだった。英雄と騎士達だった。
英雄が得意そうに叫んだ。手には弓矢を持っていた。
「みんな。無謀な突撃を指示して、騎士の仲間を犠牲にしたライザの家族を許すな。」
そして英雄は、ソウヤを足からつかんで極寒の海の中に投げ入れた。
無慈悲なことにソウヤが沈んだ方向に、英雄は矢を数多く放った。
「これで、弔いができましたね。」
そんなことをしてもよかったのかと、心を痛めた騎士も多くいたが大勢に流されていた。
英雄と騎士達が港に背を向けて2~3歩歩いた時、突然、神なりのような咆哮が冷たい闇の中にとどろいた。
海面から、何か大きなものが何かをかかえてジャンプして、英雄と騎士達の前に着地した。
竜人の長だった。海に投げ入れたソウヤを助けていた。
長の体には英雄が打った数本の矢が刺さっていたが、長が全身に力を入れた途端、全ての矢が体からはずれ地面に落ちた。
そして、長は魔族の能力を使い、それぞれの人間とそっくりの声で話し始めた。
「まだライザが戦っています。あの大きくて強そうな。あなたでもかなわなかった竜人と。」
「いいのだ。ライザは捨てろ。私と多くの騎士の命を助けたのだから、名誉の死を迎えるだろう。」
長は何回も何回も繰り返して話した。
若い英雄は仰天した。自分が完全に隠そうとした真実が暴かれた。
「みんな。こいつは竜人。魔族の偽りに騙されてはいけない。」
そして、剣を抜き竜人の長にやみくもに斬りかかった。
長はその剣を簡単に手でつかむと、英雄の心臓の場所に突き刺した。
‥‥‥‥‥‥‥‥
伝説が生まれた。
クレハ島の騎士団長は、最強の騎士団長であった父親の素質をそのまま継いだ。
父親から剣の鍛錬を受けた後、魔族最強の竜人の長から剣の鍛錬を受けた。
彼の目的は『英雄殺し』――――――
‥‥‥‥‥‥‥‥
ある日、クレハ島の騎士団長ソウヤは母親が矢で貫かれ亡くなった港で海をじっと見ていた。
すると、どこからともなく声がした。
「強き剣士、強き剣士よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
ソウヤは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。
「強き剣士、強き剣士よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「…………」
「強き剣士、強き剣士よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「思うわけがない!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
海のはるか向こうから、黒い影が港の方に向かってきた。
黒い影は港にいたソウヤの前の空間に留まると、だんだん実体化し始めた。
やがて、それ姿は魔王の姿に変わっていったが、竜人の長が師匠のソウヤに恐怖心は起こらなかった。
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。ソウヤ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」
「悪しき心? 私の中にある? 」
「あるぞ。唯我独尊だ。誰よりも強い者の宿命だ。唯我独尊を賛美し私と契約するだけで、私は特別な力を与え、偽善者である多くの英雄を殺すことができるようになる。」
「…………わかりました。魔王様。唯我独尊を賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をソウヤに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されソウヤを包んだ。
黒い光りが強くなりソウヤの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだソウヤが現われた。
「暗黒騎士、唯我独尊のソウヤ、我についてくるが良い。」
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