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64 第5の国の災厄

 転移してすぐ、クラリスとメイが感じた。




 クラリスがアーサーに言った。




「アーサー王子様。この国には魔族の気が充満しています。たぶん、人間の数より多いでしょう。」




 季節はちょうど良く、それに天気は快晴で日の光が優しく町の中を照らしていた。




 4人は周囲を注意して確認したが、通行人が全くいなかった。




 アーサーは思い出した。




「ここはフラン王国です。そして今私達がいるのは、たぶん首都であるバリ城塞都市でしょう。」




 メイナードも想い出した。




「フラン王国は、私達の国、ゴード王国に攻め込んできた敵国ですね。王子様は早くお気づきになられたのですね。」




「はい。戦いが終わった後、講和条約を結ぶために派遣されました。かっての敵国とはいえ、魔族がそんなに多くいるとは大変心配です。人間が虐待され、しいたげられている可能性があります。」




 クラリスは魔眼でバリ城塞都市の中を詳細に調査した。




 すると、驚くべきことがわかった。




「大変です。このバリ城塞都市の中には魔族しかいません。約10万人ほどでしょうか。人間世界の太陽の光を魔族は大変きらいますから、今は外に出ていないと思います。早くこのバリからでなければ! 」




 ところが、騎馬の集団の音が聞こえてきた。




 あっという間に、アーサー達4人は約100人の騎馬に囲まれていた。








 馬に乗った騎士達は、みな黒金のような金属で作られた甲冑を着ていた。




 兜の面はフルフェイスで完全に顔をおおっていた。




 その一番前を進んでいた騎士が馬から降りた。




「おやおやおやおや。さすが俺。やはり、英雄と魔女様御一行はここバリ城塞都市に転移して来たか。この都市の中を全て魔族にすれば、転移して来た瞬間もすぐわかると思ったが図星だったな。」




 そう言った後、その騎士はフルフェイスをはずして自分の顔を外に出した。




 完全に人間の顔だった。




 年は50歳代くらいだろうか。長い髪の毛を後ろに束ね、小さいが鋭く光る目線でアーサー達を見た。




「あなたは暗黒騎士か。」




 アーサーがたずねた。




「現世の英雄か。確か名前はアーサーとか言ったな。それでは自己紹介しよう。私は暗黒騎士、唯我独尊のソウヤだ。そういえば歴史に刻まれて別の名前もあったな。『英雄殺し』とも呼ばれている。」








 アーサーはその名前を聞いたことがあった。




 家庭教師であったショウが幼い頃の彼に教えてくれた。




「アーサー様が神によってこの世に生みさだれた英雄だとすると、きまぐれな神は、必ず反対の存在も生み出すはずです。それは英雄を上回る力をもち、英雄がなかなか超えられない存在なのです。」




「ショウ。それは誰なの。」




「英雄が戦う場面にならなければ、それが誰であることはわかりません。ただ、もし名前が付けられるとしたら……『英雄殺し』と呼ばれるでしょう。」




「英雄はどうすればいいの? 勝てるの? 」




「アーサー様。負けるかもしれません。しかし、その後に勝つことを目指すのですよ。人間の人生はみな同じですよ。必ず『英雄殺し』のような存在は目の前に現われます。楽しみですね―― 」




 そう言ったショウは、少し微笑んでいた。




 幼いアーサーにはショウがなぜそこで微笑んだのか、全くわからなかった。




 実は今になってもわかっていなかった。








 現実に自分の目の前に「英雄殺し」が現われ、アーサーは緊張した。




 横にいたクラリスはそのことを感じとった。




「アーサー様。転移魔術でここを待避しますか。」




「クラリスさん。その必要はありません。それに『英雄殺し』は私がここから逃げるのを許さないでしょう。」




 アーサーはソウヤの方を見て言った。




「ソウヤさん。私はあなたと戦わなければならないようです。」




「そうか。案外理解力が高い英雄だな。」




 100人いた騎士達が下馬し、アーサーとソウヤを取り巻くように輪を作った。




「クラリスさん、メイさん下がってください。危なくない場所で見ていてください。メイナード、これは1対1の戦いですから手助け無用です。」




 2人は輪の中にできた空間の中で対峙した。




 両者が剣を抜いた。




 しかし、達人どおしの戦いは、構えたまま動かなくなった。




 アーサーとソウヤは全く動かなかったが、実は思考の中ではお互いに素早く動きながら剣を交えていた。




 しかし、何回も何回も剣を交えたが思考の中では決着がつかなかった。








 そのうち、ある変化が起きた。




 アーサーとソウヤの回りを取り囲んでいた騎士のうちの1人が、偶然に真剣に戦いの様子を見ているクラリスの姿を見てしまった。




(美しい! この世のものではない美しさだ! 




 その騎士は一目見て、クラリスのとりこになってしまった。




 そして、引き寄せられるようにヨロヨロとクラリスに歩いて近づき始めた。




 戦いの行く末を真剣に見ていたクラリスは、自分に近づく騎士に気がつかなかった。




 そして、メイやメイナードも同様だった。




 最後にその騎士はクラリスのすぐそばまで来て、あろうことか、彼女に抱きつきキスをしようとした。




「キャ―― 何をするのですか!!! 」




 クラリスの大きな悲鳴を上げた。




 その瞬間――




 アーサーには大きな動揺が走り、構えに大きなすきが生じた。




 反対に、ゾーンに入ってアーサーの動きを監視していたソウヤはそれを感じた。




 人間として剣の達人であったソウヤは、暗黒騎士になったことで瞬間的に驚異の速さで剣を振るうことができた。




 アーサーは天から受けたギフトである反応速度と直感で、ソウヤの剣を自分の剣で受け止めようとしたが、ほんの一瞬遅れた。




 その結果、ソウヤの剣はアーサーの甲冑の銅と腰のつなぎ目にかなり強い一撃を与えた。




 精一杯の回避でアーサーの体には直接剣が届かなかったが、ソウヤの剣がかなりの衝撃を与えた。








 アーサーはその場に倒れ、全く動かずピクリともしなかった。

お読みいただき心より感謝申しわげます。


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