62 第4の国の災厄8
マノンがすべてを話し終えた。
クラリスが言った。
「マノンさん。あなたはもしかしたら、魔女の血を継いでいるのかもしれませんね。魔女の時間は見かけは人間と同じでも、何倍も長いのです。あなたは4歳の時、既に真剣な恋ができたのですね。」
「魔女ですか。クラリス様と同じなのですね。」
「普通の人間が魔族を体に憑依ひょういさせると、一瞬で命を落してしまいます。しかし、魔女の血を継ぐ者であれば全く平気です。魔王アスモデウスはマノンさんをよく調べて近づいたのでしょう。」
そう言った後、クラリスの魔眼が光り、マノンの美しさの中に潜んでいるナイトメアを探った。
「確かにナイトメアがたくさんいます。」
「どうすれば良いのでしょう。」
「心を集中させてください。美しさに関係する記憶を整理するのです。マノンさんのほんとうに大切に思っているのは外見的な審美ではないはずです。人間として心の美しい方を愛しているのです。」
クラリスはピエール男爵をちらりと見た。
「はい。その通りです。外見的な審美など間違いでした。ましてや、その贈り名を持つ暗黒騎士になるなど、今から考えればおろかなことに同意してしまいました。」
「マノンさん。私が、あなたと魔王アスモデウスとの契約の破棄を、契約の神の前で訴えてみましょう。魔王の虚偽にだまされて結んでしまったのですから、必ず破棄できます。」
「メイ。私とマノンさんをこの町に一番近い、高い山の頂上まで連れて行ってください。」
「はい。お嬢様。かなり高い山です。とても寒いですからお2人の服装を変えますよ。」
メイの魔術で2人は厚手のコートを着た姿になった。
店の外に出ると、メイは大きなムナジロガラスの姿に変り空を飛び上がった。
かなり高い山の頂上だった。
空を雲が何重にもおおい、雪交じりの強い風が吹いていた。
クラリスは詠唱を始めた。
「魔王、未熟で混乱にあった者を虚偽をもって契約に至らしめた。契約を無効とし元の姿に戻らせることが天なる正当な道。我、真実に至る魔女を継ぐクラリスが訴える!!! 」
彼女の体全体から放出される魔力が高まった。
そして、強い光になるともにその光が天井に飛び去った。
――――
天からおごそかな声がした。
「真実に至る魔女を継ぐクラリスよ。審判を望むのか。真実に基づく正しい訴えなのだな。」
「はい。そうでございます。お調べいただきたいと思います。」
―――――
しばらくして、再び、天からおごそかな声がした。
「魔王アスモデウスに問いただしたが、何も問題は無いと言っていたぞ。その娘に説明すべきことはすべて説明し、虚偽をもって契約に至らしめたことは無いそうだ。」
「美しいことで、全てを思いのままにできると彼女に説明しました。それに彼女が恋した相手も、美しくあることで振り向かせることができると断言したのです。」
「そのとおりではないのか。うそではない真実である。世界最高の美しさを備えた、真実に至る魔女を継ぐクラリスであればよくわかるはずだ。」
「…………………… 」
クラリスはうつむき黙ってしまった。
「どうしたのだ。魔女よ。私に抗弁もできないのか。」
彼女は顔を上げた。
美しい青い瞳には涙があふれ、悔しさと怒りに満ちあふれていた。
「美しいことで、何でも思いどおりになるわけではありません。恋や愛はそんなに単純なものではありません!!! 」
クラリスの体全体から最高の魔力が放出され、彼女が主張した言葉にやどっていた。
「…………………… 」
その時、天から別の声が聞こえた。
人間の女性のような声だった。
「契約の神よ。どうやら私が判断すべきことのようです。真実に至る魔女を継ぐクラリスさんが今言ったことは真実ですよ―― 」
「愛の神よ。助言感謝する。クラリスよ。あなたの訴えは聞き届かれた。」
「ありがとうございます。」
愛の神が最後に言った。
「クラリスさん。あなたの愛は必ず報われます。信じて!!! たとえ絶望的な状況になっても―― 」
「はい。愛の女神様。心から感謝致します。」
気がつくと高い山の頂上はすっかり晴れ渡っていた。
「クラリス様。」
マノンはいつの間にか、4歳の姿に戻っていた。
「マノンさん。魔王との契約が破棄されて元に戻ったのね。それでは急がなくてはなりません。メイ、大変な仕事をお願いしたいと思いますが…… 」
「お嬢様。お気になさいませんように。ファーム王国中で何日も眠っていた人々に自然のエネルギーを届け、元気になっていただきます。私の魔力量なら軽い仕事です。少し、ここでお待ちください。」
そう言うと、大きなムナジロガラスの姿になったメイは空に飛んだ。
そして、信じられない速さで頂上の空から姿を消した。
クラリスがマノンに言った。
「メイが帰ってくるまで、ここでお話しませんか。」
「はい。」
2人は座りやすい岩を見つけて、そこに並んで腰を下ろした。
「5歳若くなったのですが、意識に何か変化がありますか。」
「いえ少しも。」
「そうですか。やはりマノンさんは魔女の血を継いでいます。というよりも魔女ですね。天使か妖精のように美しいその姿は、人間の境界から飛び出した結果です。」
「魔女ですか。そうすると私はこれからどうすれば…… 」
「私の母親は魔女の国の女王クリスタなんです。母様に、マノンさんをしばらく魔女の国で暮らしていけるようにお願いしたいのですがどうですか? 」
「喜んで、とてもうれしいです。少し心配がありますが。」
「ピエール男爵のことですか。大丈夫、大丈夫。もう彼はマノンさんのことを絶対に忘れません。男の人は自分のほんとうの価値を知っている女の人を大切にするものなのですよ。」
「お姉様。ありがとうございます。」
「お姉様ですか。私には実の妹がいますが。良いです、マノンさんを妹に認定します。」
「ところで、さきほどのお話は、お姉様と英雄アーサー様との間で進みつつある実体験なのですね。」
「マノン! ふふふふ、さすがに私の妹。頭が良くて理解力がありますね。」
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