61 第4の国の災厄7
(予想どおりだけど、実際に言われて見るとショックが大きいわ。)
クラリスは思った。
他の人達もどのように対応すべきかわからず、その場に固まってしまった。
ところが、マノンは戦おうとしているのではなかった。
「クラリス様。私を助けていただきたいのです。だまされて魔王アスモデウスと契約してしまいました。」
「もう少し詳しい事情を教えてください。」
「私はさきほど9歳と申し出ましたが、ほんとうは4歳なのです。これは魔王と契約し、魔族ナイトメアを憑依ひょういさせ暗黒騎士になることを代償として得たものです。」
「マノンさんの年齢は5年間進んでいるのですね。…………あなたがなぜそうしたかったのか、理由はわかるような気がします。」
その後、クラリスはピエール男爵に聞いた。
「さきほど、ピエール男爵様は20歳とお聞きしました。マノンさんが9歳と聞かれて年齢的にも合うとおっしゃいましたが、では4歳では? ――マノンさんの成長を待つ必要がありますが。」
男爵は今度も即答だった。
「問題ありません。十分に合うと思います。」
それを聞いて、クラリスはマノンに優しく微笑みながら話した。
「マノンさん。大丈夫よ、無理矢理成長しなくてもピエール男爵をつかまえることはできるわ。私があなたを絶対に救います。魔王アスモデウスと契約してしまうまでの経緯を教えてください。」
「はい。ピエール男爵様が目の前にいらっしゃるので大変恥ずかしいのですが、お話します。」
マノンの祖母はパンといい、腕の良い料理人だった。
パンの作る料理は安くてとてもおいしく、店の食堂はいつも繁盛し混雑していた。
マノンは、パンの息子の子供で、舞台歌手だった母親の美貌を継いでいた。
さらに、神は美のギフトを何倍も贈っていた。
ところが、マノンが4歳になったばかりの頃、息子夫婦は馬車に乗っていた時の事故で両方とも亡くなってしまった。
後に残されたマノンを誰が引き取るか、親戚どおしの話し合いは大変もめた。
彼女の天使か妖精と間違えるほどの美貌は、一度見た全ての人を強く引きつけたからだった。
もめにもめた神聖どおしの話し合いは、孫の将来の幸せを一番に願う祖母のパンの一言で決着し、終わりになった。
「みんな。こうしたらどうですか。私が元気なうちは、孫のパンのめんどうは私が見ます。私が死んだら、もう1回、今日のようなことをやってください。」
感受性のとても強い幼いマノンには、親戚達がもめたことが強烈な記憶になった。
(私は美しい。みんなが私をほしがる。そして必ず、私の望みを全てかなえてくれる。)
やがて、マノンは祖母パンが食堂兼宿屋を経営している家に住むことになった。
店は始終繁盛し、多くの客でにぎわっていた。
しばらくしてマノンはあることに気がついた。
感受性がとても強い幼いマノンがどうしても気になる人がいた。
無骨な顔をした男の人だった。
幼いマノンが見て、決して美しくは無い外見だったが、彼女は別の美しさを感じた。
夕食時どきになると、食堂で彼が食事をしていることを町の多くの人々が知っていた。
そしてなぜか、彼の元には暗い顔やつらい顔をしている人々が食堂に会いにきた。
すると、彼は一生懸命明るい顔をして、その人々と話し始めた。
最後にその人々が彼の元を去る時には、人々の顔はとても明るい顔に変っていた。
その後、彼は祖母の料理を味合うようにゆっくり食べながら、何か深く考え事をしていた。
幼いマノンには、彼がそうしている姿勢がこの世の中で最も尊く感じられた。
マノンは是非、その人に自分のことを気づいてほしかった。
そして、一言でもいいからその人に言葉をかけてほしかった。
人だらけで込んでいる食堂の中を歩くのは、とてもきらいだった。
彼以外の客は、ほとんど天使か妖精のように美しい彼女のことに気づき声をかけてくれた。
しかし、彼だけは何回も何回も近くを歩いたのに全く反応がなかった。
(私がまだ小さくて大人のあの人の目には入らないのかしら。)
幼い彼女が最も切望することがずっとかなえられず、心の中でいつも誰かに強烈に訴えるようになった。
ある日、屋根裏にある自分の部屋で寝ていた彼女にどこからともなく声がした。
「天使か妖精のように美しい少女よ。至高の美の少女、あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
マノンはその意味が全くわからず、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。
「天使か妖精のように美しい少女よ。至高の美の少女、あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「…………」
「天使か妖精のように美しい少女よ。至高の美の少女、あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「誰でもいいです。私の望みをかなえてください!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
黒い影が窓の外に現われた。
窓が自然に開いて、黒い影は部屋の中に入り、だんだん実体化し始めた。
やがて、その姿は魔王の姿に変わっていった。
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。マノン、私があなたの希望をかなえるのなら、悪しき心を賛美する者になるか? 」
「どのようにかなえてくれるのですか? 」
「あなたの年齢を少し大人にしよう。すると、あなたはさらに美しくなり背も高くなり、あの人はあなたのことに気がつき、とりこになるだろう。あの人どころか、世界中の全ての人をあなたは支配できる。」
魔王はそう言った後、狡猾こうかつに条件を示した。
「マノン。私の希望も聞いてほしいのだ。あなたの美しさの中に私のけん族が住むこと許してほしい。」
「…………わかりました。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をマノンに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されマノンを包んだ。
黒い光りが強くなりマノンの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだ9歳のマノンが現われた。
「マノン。あなたは今から暗黒騎士、審美のマノンだ。私のけんぞくナイトメアがあなたの至高の美を使わせてもらう。」
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