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59 第4の国の災厄5

「お嬢様。どうなされますか、ナイトメアの妖精はそれぞれの心の中に数多く巣くっています。」




 クラリスは青い瞳の魔眼で、眠らされている親子の心の中の様子を確認した。




「美しさを強く感じさせることで、もともとあった気持ちにふたをしています。特にいやなこと、つらいことを感じなくなるので、その人にはとても心地よく感じるのです。」




「自然のエネルギーを3人の方に十分注入しましたので、最悪眠り続けたとしても1か月くらいは大丈夫なのです。しかし、このまま眠り続けるのはよくありません。」




「大丈夫です。ずっと美しいものばかり見ていることが必ずしも幸せではありません。いやなこと、つらいことがあったとしても喜びを感じる時は必ずやってきます。想い出していただければ―― 」




 そう言った後、クラリスは魔眼で知った3人の親子のほのぼのとした楽しい毎日の記憶を、魔術で収集し始めた。




「幸せな親子の宝の記憶、我が手に集まる。この宝を有るべき場所、知るべき人に届けん。美しき心を映す世界の優しい光に乗せて、心の奥を照らせ! 」




 一瞬、その部屋が美しき心を映す世界とつながった。




 優しい太陽が、光をクラリスの手に向けて放射した。




「守護者クラリス様。最高に優しくて最高に強い光です。美しき心を守るためにお使いください。」




「太陽さん。ありがとう。」




 クラリスは続けて投射魔術を発動させた。




「親子の宝の記憶を乗せて、輝け、照らせ! 」




 彼女の右手から優しく輝く光が発せられ、3人を順番に照らした。








 小さな子の名前はベンだった。




 親子3人で暮らしていた。




 貧しかったが誠実な人柄の両親に育てられ、幸せな毎日だった。




 今日も暗くなるまで友達と外で遊び、家に帰る途中だった。




 すると――




 道端ですわって物ごいをしていた浮浪者を、ベンよりかなり大きい子供達がとり囲んでいた。




「こいつ。汚い汚い。」


「勉強しないで努力しなかったから、こうなったんだ。」


「缶の中にほんの少しだけどお金が入っているぞ。もらっちゃお。」




 浮浪者は年をとった老人で、体も衰弱して動けないようだった。




 ベンは思った。




(かわいそうな人になんであのようなひどいことをするのだろう。でも、かかわらない方が良いな。早く通り過ぎよう。)




 2、3歩、ベンは歩いた。




 彼は突然、その場に立ち止まった。




 そして浮浪者をいじめている子供達に全力で走って近づいた。




「止めてください。止めてください。かわいそうです。」




 その声は精一杯の大きな声だった。




 大きな子供達は突然の乱入者に驚いたが、やがて小さな子供だということに気がついた。




「なんだお前は。」


「年上の俺たちに指図するな。」


「こいつをなぜ助ける。」




「お父さんが言っていました。人の表面しか見てはいけない。その人なりに苦労して生きてきたから。」




「うるさいな。どいてろ。」




 大きな子供の1人に手で振り払われた。


 それは、無意識に強い力が込められ、ベンは地面に叩きつけらた。




 かなりの衝撃だったが、ベンはすぐに立ち上がった。




「お母さんが言っていました。人間の一番美しき心は人を思いやること。つらくて悲しい人には特に。」




「うるさいな。お前は学校の先生か。」




 大きな子供は再び手で振り払ったが、今度は顔面に入った。


 ベンは意識を失った。




「やべ。直にパンチしちゃった。早くこの場を逃げろ。」




 その結果にびっくりした大きな子供達はその場からあっという間に去っていった。








 どのくらい時間がたったのだろう――




 ベンは意識を取り戻した。




 気がつくと、母親に抱きかかえられていた。




 自分の家にいた。




「お母さん。僕はいつの間に家に帰ったの。」




「ベンの帰りがあまりにも遅いので、お父さんといっしょに探しにいったのよ。そしたら倒れていたから、急いで家まで運んできたの。」




 父親もとなりにいた。




 よく見ると、浮浪者のおじいさんも椅子に座っていた。




「お父さん。僕ってかっこ悪いでしょう。」




「ベン。全部、おじいさんからお聞きしたよ。」




 その後、父親は全力で笑った。




 母親も、浮浪者のおじいさんも――




「最高にかっこいいよ!!! 」








 ベッドで眠っていた小さな子供が目を覚ませた。




 続いて、両親も目をさませた。




 部屋の中にいたおじいさんとおばあさんは、自分達の息子夫婦と孫が目を覚ませてことに心から喜んだ。




「クラリス様。ありがとうございました。真実に至る魔女のお力に助けていただきました。」




 おばあさんは涙を流し、それからは言葉にならなかった。




 代わりにおじいさんが言った。




「聖女様。どれほどお礼を申し上げても足りないとは思います。これほどうれしいことはありません。」




「お役にたてて、私の方こそほんとうにうれしいです。それでは失礼します。」




 クラリスとメイは家の外に出て、アーサーやメイナードが待っている領主の館に歩きだした。




 歩きながらクラリスが言った。




「3人の心の中に巣くっていたナイトメアの妖精に光があたって、全て消滅させることができました。その時、わかったわ。ナイトメアの妖精ではなくて暗黒騎士の分身だと。」




「お嬢様。私もなんなくわかりました。魔族憑依ひょういの暗黒騎士がいるのですね。」




「こまったわ! 今、ファーム王国の中でナイトメアの妖精の力で多くの人々が眠っているに違いないわ。だから早く暗黒騎士と戦わなければならないのだけど………… 」








 クラリス達が宿にしている店の裏側にある庭だった。




 店主のおばあさんの孫のマノンが、お手伝いでシーツの洗濯物を干していた。




 突然、マノンが反応した。




「痛い!!! 」




 足に非常な痛みを感じたので見ると血が流れていた。 

お読みいただき心より感謝申しわげます。


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