58 第4の国の災厄4
大講堂の中はとても不思議な雰囲気に包まれていた。
…………
やがて、あちらこちらで、ほとんどの領主がバタバタと倒れ始めた。
倒れた領主達は眠りに入っていた。
夢を見ているらしく、眠っていたほとんどの領主がうっとりした顔で笑っていた。
一方、ピエール男爵も含めて数人の領主は眠ることなく、その場に立っていた。
それらの領主はいわゆる武断派で、日頃から自分の心と体を精神を鍛えている人々だった。
ひな壇の天使か妖精のように美しい女性が動き始めた。
眠らないでその場に立ち続け続けている領主達に近づき握手を始めた。
「ご立派です。強い精神力をもつ領主様達は国の宝です。私も好感がもてます。」
ピエール男爵の所にも美しい女性は近づいてきた。
奇妙なことに、ピエールには特別な言葉をかけた。
「男爵様。あなたは力を振るうだけの領主ではありませんね。何かお考え事をしているあなたの顔はしぶくてとても美しく、素敵です。」
「えっ………… 」
ピエールは何が何だか全くわからなかったが、強く感じた。
(美しい―― 生きている人間とは思えない。しかし、前にどこかで見たような…… )
国王が言った。
「たった今声をかけられた者達よ、後で私の方から十分な褒美をとらす。我が優れた臣下達よ、自分の領地に帰っても美しさを最大限に敬い続けるのだ。」
「はっ。陛下の御意のままに―― 」
「会議の様子はこのような感じでした。」
クラリスが言った。
「その女性は人間離れしていますね。多くの方を眠らせたとなると、魔族のナイトメアのような力ですね。ナイトメアは人間を自分の世界に取り込んでしまいます。」
アーサーが聞いた。
「取り込まれた人間はいったいどうなるのですか。」
「普通の人間は、ナイトメアの世界から二度と出られなくなります。そして現実の世界では眠り続けているので栄養がとれず、死んでしまいます。悪いことに霊魂は夢虫という魔族に変化してしまいます。」
「人間が魔族に変ってしまう災厄の一つですね。」
その会話を聞いていたピエールが、恐い顔をして反応した。
「今クラリス様のお話を聞いてぞっとしました。私の領地であるこの町に近い場所に、何倍も広い都市があります。実はその都市の住民は、1か月くらい前から全く姿が見えないのです。」
「美しさのことを気にして、出歩かないのですか。」
「実はこの町にその都市に親戚がいる者がいます。ある時、様子を見に行こうとして住民の姿が見えない都市にある家を訪ねたのです。」
「どうでした? 」
「家の中で親戚の家族は眠り込んで倒れていました。そして、数日間何も栄養をとっていないので大変衰弱していたそうです。驚いてその者は親戚の家族を馬車に積んで、この町に運んで来ました。」
「今、眠っている人々はどうですか。」
「衰弱しきって、明日にでも命を失いそうです。」
クラリスが驚いて言った。
「それはいけません。私が今からその人々を見にいきます。。
アーサーが言った。
「あまり大人数で行くと、その家族を驚かしてしまうから、クラリスさんとメイさんで行かれたらどうでしょうか。」
「はい。わかりました。すぐにメイと一緒に訪問します。ピエール男爵様、その家の場所を教えてください。」
クラリスとメイは、すぐに領主の館を出てその家に向かった。
教えてもらったとおり歩いたいくと、通り沿いの家についた。
入口のドアの前に立ち、クラリスはノックした。
反応はなかったのでまたノックすると、はるか奥の方からとても小さな声が聞こえた。
「今参ります。お待ちください。」
やがてドアが開いて、大変年配の老人の夫婦が姿を見せた。
門の前にクラリスを見ると、老夫婦は大変驚いた。
あまりに神秘的な美しさを感じたからだった。
「どこかの位の高い聖女様でしょうか? 私達を助けに来てくださったのでしょうか? 」
おじいさんがたずねると、おばあさんが横から話し始めた。
「おじいさん。違うのよ。神秘的な黒髪、この世で最も美しく輝く青い瞳。この方は美しき心を映す世界の守護者クラリス様、真実に至る魔女クリスタ様の御息女に違いないわ。」
クラリスがよく見ると、おばあさんは四葉のクローバのブローチをしていた。
「毎日毎日。私は息子夫婦と孫のために一生懸命お祈りしてきたの。願いは今、かなえられたわ。」
クラリスのことは、この国でもかなり知られているようだった。
「おばあさん。息子さんとお孫さんを私に見せていたけませんか。とてもあぶない状態だと聞いています。」
「どうぞ。どうぞ。早く中にお入りになって、見てください。」
クラリスとメイは中に通された。
奥の部屋にはベッドが3つあり、息子夫婦と孫が横たわっていた。
ずっと眠っていた結果、かなり衰弱していて顔はミイラのようにも見えた。
すぐにクラリスは魔眼で3人の心の中を直視し、全てを理解した。
「メイ。自然のエネルギーを3人の体に直接注入してください。」
「わかりました。お嬢様、3人のお体に負担がかからないようにエネルギーをします。」
メイは両手を合わせ自分の中に無限大に蓄積されているエネルギーを外に出すと、とても慎重な顔で3人の額に手を当てた。
孫、母親、父親の順にみるみるうちに3人の顔には生気が満ち、普通の人間と変らないようになった。
しかし、メイが厳しい口調でクラリスに言った。
「お嬢様。やはり心の中に巣くう魔族がいます。」
「そうですね。ナイトメアの妖精です。」
美しいクラリスの顔にとても厳しい表情が浮かんだ。
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