47 第2の国の災厄9
「ほお。やる気が満ちあふれていますね。それではお返しに―― 剣の雨! 」
ゾルゲが言葉を発すると、何もなかったクラリスの頭上に、多くの剣の刃が下向きに現われた。
「クラリスさん。もう終わりですね。落ちよ! 」
多く固まった剣が刃を下に向けて、クラリスに向けてすごい勢いで落ちてきた。
ところがクラリスはそれらの剣に見向きもせず、一言だけ詠唱した。
「消 え よ。」
彼女の一言で、落ちていた剣は全て消滅した。
ゾルゲは非常に驚いた。
「たまたま今はうまくいったのかも知れませんね。しかし、こうすれば無理でしょう。戦場でただ1人、魔族の大群に囲まれる! 」
ゾルゲ言葉を発すると、いつの間にかクラリスは戦場に1人で立っていた。
数万の魔族に囲まれているようにみえた。
「どうですか。この壮大な光景は芸術と言ってもいいでしょう。殺せ! 」
彼女を囲んでいた魔族の大群が襲いかかってきた。
ところがクラリスは全く動ずることなく、一言だけ詠唱した。
「消 え よ。」
彼女の一言で、数万の魔族は全て消滅した。
ゾルゲは驚愕した。
「さすがに真実に至る魔女を継ぐ者だ。私が作る虚飾を完全に否定できるのか。それではこうすればいいな。あなたも、普通の人々に危害を加えることはできないでしょう。」
「首都ベルンのみなさん。ここに極悪人大犯罪者の女がいます。処刑する! 」
ゾルゲがそう話した言葉は、ベルンの町中に伝わった。
うその言葉を多くの住民が聞いた瞬間、それは現実のようになった。
多くの住民が飛び出し、さまざまな武器を持ってクラリスのそばに集まろうとした。
ところが、クラリスの後ろに立っていた背の高い女性が、ローブのフードを上げて顔を見せた。
スタイルが非常によい美しい娘は、すぐに大きな白いムナジロガラスに変化し、その後さらに白銀の魔鳥に変化した。
魔鳥は波長の高い声で鳴いた。
「キ――――ン 」
鳴き声はベルンの全ての場所に聞こえ、飛び出した多くの住民の声に届き、ゾルゲが放った虚飾をこなごなに壊した。
「こんなことがあるのか。世界を征服できる私の虚飾が全て壊される!!! 」
自分の力が苦も無く簡単に破られ、ゾルゲは大変なパニックに陥った。
「クラリス様。あなたがそのように強い力をお持ちだとは誠に失礼致しました。アカデミーで私はリリーの同級生だったのです。彼女に振られて、ほんの少し意地悪をしようと思ったのです。許してください。」
ゾルゲが必死で言った弁解に、クラリスは全く反応しなかった。
そして冷たく言い放った。
「卑怯者。弱い立場の人の弱いところを平気で攻撃した。」
「許してください。お願いします。私はただ、魔王アスモデウスにだまされ、暗黒騎士、虚飾のゾルゲにされてしまったのです。」
クラリスは全無視した。
「あなたには虚飾しかない。何ももっていない。価値が全く無い虚飾を使うことは許さない。」
「どうするのですか!!! 」
ゾルゲには、クラリスの青い瞳が見えないほどまぶしく輝くのが見えた。
「存在の神。真実に至る魔女を継ぐ者、クラリスが厳しく命ずる。私の前にある虚飾を消せ。」
彼女の詠唱が終わると同時に、ゾルゲの姿は一瞬にして消えた。
最大の魔力を出した後、クラリスはそこに崩れ落ちた。
すぐに、侍女のメイが近づき彼女を抱きかかえた。
「メイ。私をしっかりアシストしてくれてありがとう。」
「お嬢様。お疲れ様でした。これまでで最大の魔力を出すことができましたね。あんなに怒られたことは生まれて初めてではないでしょうか。」
「そうです。初めて大きな怒りを知りました。」
「でも、御自身でちゃんと制御されていましたよ。ゾルゲを完全に消したのですか? 」
「いいえ。この国から最も遠方の国に転移させました。それに、彼の虚飾の魔力に嘘だとよくわかるような属性をつけ、魔王の賛美を打ち消しておきました。」
アカデミーのキャンパスをゾルゲは全力で走っていた。
リリーに告白したが振られ、逆に自分のことを嫌いだと示された。
自分の心を守るためリリーを攻撃したが、実はそれも、いつまで保つかわからなかった。
彼は全力で走り続け、いつの間にかキャンパスを抜けて誰もいない街道を走っていた。
「苦しい。苦しい。こんな苦しいなんて、リリーが悪い。………… 」
すると、どこからともなく声がした。
「最強の弁舌家、民衆をたばねる者。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
ゾルゲは苦しい息づかいの中幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。
「最強の弁舌家、民衆をたばねる者。。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「…………」
「最強の弁舌家、民衆をたばねる者。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「思わない!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
黒い影が街道の上の空に現われた。
黒い影は空からゾルゲの前に降りてきて、だんだん実体化し始めた。
やがて、その姿は魔王の姿に変わっていったが、
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。ゾルゲ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」
「悪しき心? 私の中にある? 」
「あるぞ。虚飾だ。世界を征服することができる弁舌の力、聞く人の全てを自分の思いどおりにあやつることができる最強の力だ。……
……その虚飾を賛美し私と契約するだけで、私はお前の虚飾の力を数倍にし、お前の価値がわからず、お前を理不尽に拒否した娘に最高の不幸を与えることできるようになる。」
「…………わかりました。魔王様。自分の虚飾を賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をゾルゲに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されゾルゲを包んだ。
黒い光りが強くなりゾルゲの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだゾルゲが現われた。
クラリスとの戦いに敗れたゾルゲは、気がつくと全く知らない国の中にいた。
かなり大きな街路に歩いている人々はみな質素な服を着て穏やかそうだった。
「すいません。ここはどこですが。」
「ここはムーン王国ですよ。」
ムーン王国はこの世界の中で、ゾルゲの故郷のゲルマ共和国とほぼ反対側にある遠い遠い国だった。
(よし。ここからスタートだ。私は暗黒騎士で人間を超越した力をもつ者だ。)
街路の中心に立ち、ゾルゲは演説をし始めた。
「みなさん。私はこのムーン王国からとても遠いゲルマ王国から旅をして立ち寄った王族です……
うそですけど。」
(えっ!)
「旅の路銀を泥棒にとられてしまいました。どなたかわずかでも貸していただければ、必ずお返しします……うそですけど。」
(えっ!)
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